あやかし子ども食堂

克全

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第6章:夜の公園にいる子供

第24話:勉強・谷口郁恵視点

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「天子さん、実際に資格を取った子に会わせてあげたら?」

「そうするのが1番だけど、あの子らも忙しいからね。
 防衛医科大学校に行った子は埼玉にいるし、自治医科大学に行った子は離島の診療所を周っている」

「あの子らの事は、施設に行って卒園名簿を見せてあげれば大丈夫だよ。
 返済不要な給付型奨学金をもらって大学に行った子のなかで、大阪に残っている子と、ここで会わせてあげればいいんじゃない?」

「あの子らも勉強とバイトに忙しいだろう?
 割の良い家庭教師や塾の講師をやっていると聞いているよ」

「大丈夫よ、天子さんが後輩のために時間を作ってやれと言えば、遠慮せずにここのご飯を食べに来られると思って、直ぐに帰って来るよ」

「ここで出す飯くらいじゃ全然割に合わなよ。
 施設を出て自分の力で幸せを掴めるようになった子の、足を引っ張る気はないよ」

「そんな事ないよ、私の知っている子たちだけでも、施設の子にボランティアで勉強を教えたいと言っている子が多いよ。
 天子さんたちがあの子たちに勉強を教えてあげたように、自分たちも施設の子に勉強を教えてあげると言っていたよ。
 節子さんと義孝が母子生活支援施設に入って、資格を取る勉強がしたいと言ったら、勉強を教えてあげたいと言うはずだよ」

「施設の子たちに勉強を教えたいと言うのなら止めはしないが、あんたのような無理はして欲しくない」

「それを言われると強く言えないけど、あの子たちの想いも受け入れてやってくれよ、お願いだよ」

「仕方がないね、私からは言わないが、郁恵が言うのは止めないよ。
 ただし、自分の失敗談は包み隠さず話すんだよ。
 その上で、無理したら許さないと私が言っていたと、しっかり伝える事!」

 私と天子さんの会話を聞いていた節子さんは、途中から意味が分からなくなったようだけれど、後日児童養護施設の卒園名簿を見せて現在の状況を話したら納得した。

 その気になれば養護施設の子でも、奨学金がもらえて好きな大学に行けるのだと、心から納得していた。

 施設仲間でも努力の嫌いな子は、普通に高校を卒業して就職している。
 だけど、勉強の好きな子や夢のある子は、天子さんたちから勉強を教わり、給付型の奨学金を得て大学に進学しているのだ。

 天子さんたちに触発されて、誰かの役に立ちたいと思った子の多くが、防衛大学校か海上保安大学校に入学している。

 誰かの役に立ちたいけれど、勉強するのが得意ではない子は、自衛官候補生や一般曹候補生の試験を受けている。

 もっと直接的に恵まれない子の役に立ちたいと思った子は、警察学校や国家公務員採用一般職の試験を受けていた。

 児童養護施設の後輩、佐藤朱里がその代表で、柏原警察署の生活安全課少年係を熱望して、遂に配属されるに至っている。

 保健師や看護師になって恵まれない子の役に立ちたいと思った子は、看護師の資格を取る努力をしたが、結構厳しい道だった。

 養護施設から通える学校は、以前よりも良くなって高等学校まで許されるが、予算に限度があるので、私学だとアルバイトしなければいけない。

 正看護師になる一般的な方法は、高等学校を出てから看護専門学校に通う事になるので、普通だと施設にいる時からアルバイトをして、コツコツと学費を貯めておかなければならない。

 施設に居ながら補助を受けて看護師になる方法は、中学を卒業して准看護師の専門学校に通い、国家試験を受けて准看護士の資格を取る事だ。

 准看護士になってから3年間実務経験を積み、准看護師として働きながら3年定時制の正看護師の専門学校に通うか、2年通信制の正看護師専門学校に通い、正看護師の国家試験に合格すれば正看護師に成れるが、物凄くしんどかったと聞いている。

 縁と運に恵まれ、努力もした子の中には、中学校卒業前から一時里親に相談して、5年一貫制の看護学校に入学し、20歳で正看護師の国家資格を取った子もいる。

 児童養護施設から看護師を目指す子の多くが、一定期間病院に務める事で返済が免除される、看護奨学金の試験に合格してから看護学校の進学を決める。

 そんな子たちの多くが天子さんたちに心から感謝している。
 奨学金試験も入学試験も、合格するだけの学力がないと何も始まらない。

 夢があっても、どれだけ努力をしても、施設の子が小さな頃から高額な塾に通っている恵まれた家庭の子に追いつくのは大変だ。

 以前は、努力したくても、効率的に努力する方法すら教えてもらえない子がいた。
 天子さんたちは、夢を叶えたい子に努力の方法を教えてくれた。
 だから、私が声をかけたら喜んで子ども食堂に来てくれた。

 大学や看護学校を卒業して就職し、ある程度の収入を得ている子は、子ども食堂でお金を払って天子さんたちの料理を食べられた事に、もの凄く感激していた。

 まだ学生の子は、無料でご飯を食べていた。
 最初は恐縮していたけれど、天子さんたちの変わらぬ姿を見て、直ぐに昔のように甘えるようになった。

 児童養護施設を卒園したとはいえ、まだ10代で学生なのだ。
 奨学金とはいえ借金しながらの学生だ、不安な事も多く、まだ天子さんたちに頼っても良いと分かって、精神的に物凄く楽になったと泣き笑いしていた。

 そんな子たちを直接見て色々話して、節子さんも天子さんの話を心から信じるようになり、生活保護を受けながら母子生活支援施設に入り、勉強すると言った。

 ただ、節子さんも普通にしているだけでは資格を取れないと思ったのだろう。
 天子さんたちの所で働きながら、天子さんたちが子ども食堂で勉強を教える時に、一緒に教えて欲しいと言い出した。

 天子さんがあれだけ言ったのに、働かずに生活保護を受ける選択はしなかった。
 義孝君に寂しい思いをさせない程度に働きながら、勉強もすると言った。
 そんな人だと分かっていたからこそ、天子さんも全力で助けたのだろう。

 天子さんの所で働くとなると、入所できる母子生活支援施設は限られる。
 子ども食堂に通える場所にあるのは、八尾市の施設か大阪市平野区の施設だ。
 八尾市の施設の方が子ども食堂に近く、役所も天子さんの顔が利く。

 運良く八尾市の施設に空きがあったので、直ぐに入所の手続きができた。
 更に運が良い事に、節子さんたちが住んでいたアパートにも近く、義孝君が小学校を転校する必要もなかった。

 テイクアウト専門の親鳥料理店なら天子さんたちがシフトを決められるので、義孝君の授業に合わせて節子さんの出勤日や出勤時間を決められる。

 義孝君や節子さんが急に病気になった時でも、自由に休む事ができる。
 節子さんと同じ状況の真野美代さんや坂口真弓さんも、親鶏専門のテイクアウト店で働いているので、身近に相談できる人ができた。

 かく言う私も、親鶏専門のテイクアウト店で一緒に働くようになった。
 天子さんに言われていたのになかなか辞められなかったキャパクラを、辞めた。

 何も悪い事はしていない、むしろ良い事をしたのだが、騒ぎのきっかけを作ってしまった私が、何の手助けもしないと言うのは物凄く居心地が悪かったのだ。

 キャパクラを辞めて親鶏専門のテイクアウト店で働きだして分かった。
 私は水商売が好きなのではなくて、客商売が好きだったのだ。
 水商売に限らず、お客さんを相手にやり取りするのが好きだった。

 今は親鶏専門のテイクアウト店で働きながら、子ども食堂で天子さんたちからいろんな料理を教えてもらっている。

 天子さんたちからだけでなく、天子さんたちの紹介で、本格的な割烹料理や寿司、イタリア料理や中華料理の名店で教えてもらえるようになった。

 昭和の半ばから子ども食堂をやってきた天子さんたちの顔は恐ろしく広い。
 知っているつもりだったが、全く分かっていなかった。

 一見さんお断りの有名な高級店が、私を厨房に入れてくれるのだ。
 普通なら何年も下働きをしなければ教えてもらえない事を、見学させてくれるのだから、どれほど影響力があるのかと驚いた、

 それ以上に驚いたのが、高級名店で見せてもらった技を、天子さんたちが普通に使いこなしている事だった。

 その技を惜しげもなく私たちに教えてくれるのだ。
 本気で頑張って技を盗めたら、高級名店の弟子だという看板はもらえないが、弟子に負けない実力は手に入れられる、後は私の努力次第で幾らでも繁盛させられる。
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