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第三章
第78話:酔い倒れ
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「もう少し待ってください。
卑小な人間が果物を集めるには時間がかかるのです。
あまり急ぐと、皮を上手く潰せなかったり実以外の物が混じったりして、不味いワインになってしまいますから、急がせてはいけません」
「くっ、ぐずめ、仕方がない、相手が人間では、遅いのは我慢するしかない」
炎竜は、ぶつぶつと文句を言いながら東竜山脈に戻って行った。
炎竜があと二十個ほど果樹園と酒蔵を造り終える頃には、十石甕一杯にワインが出来上がっているでしょう。
リンゴとブドウも柿も、元からあった村の果樹園で実った果実は、皆種類別に集めて十石甕に入れました。
人間用に、雑多な果樹を更に多くの品種に分けて育てていた果樹園です。
徐々に数を増やしてはいましたが、品種を統一して酒を造るとなると、とてもではありませんが、十石甕一杯にはなりません。
潰した果汁の量は、少なくて十石甕一割分です。
数が多い品種でも十石甕四割が精一杯です。
「俺の記憶にはないが、美味しいブドウ酒が造れる魔術を発動する。
不要な菌、雑菌は死滅させる。
美味しいブドウ酒に発酵させる菌だけを残して他の菌は全部死滅させる。
俺の全魔力の半分まで使っていい。
魔力で強引にブドウ酒を造る。
何が何でも美味しいブドウ酒を造る!
メイク・グレープ・ワイン!」
十石甕のブドウ果汁がブクブクと泡が立つほど発酵しています。
腐るのではなく発酵だと思います。
香り高くフルーティーで、甘みと酸味のバランスがいい、美味しいワインになればいいのですが……
「良い香りがしたが、できたのか?!」
どんな鼻をしていやがるんだ!
オット、いけません、また本性が顔を出してしまいました。
いきなり戻って来て酒蔵の屋根を開ける炎竜に、怒りが沸騰しそうになりました。
「発酵はしましたが、熟成したかどうかは分かりません。
俺の記憶では、お酒は熟成させた方が美味しかったはずです。
炎竜様が熟成などさせず、出来たばかりの酒で良いと言われるのなら、どうぞ」
「熟成?
なんだそれは、酒は酒だろう、さっさと飲ませろ」
「では、どうぞ」
「うまい、うまい、うまいぞ。
甕によって甘味が違う!
風味は違うが、どれも全く渋みを感じないぞ!
酒精がとても強いのに、なんて飲み易い酒なんだ!
もっと飲ませろ!」
あっという間に九つの十石甕を飲み干した炎竜がお代わりを要求します。
「次の村に行ってワインを造っておきますから、炎竜様はまた果樹園と酒蔵を造っておいてください」
「またか、また造らなければいけないのか?
一体どれくらい造れば満足するのだ!」
「それは炎竜様次第ですよ。
炎竜様が満足されるまで造り続けていただかないと、次も待たされますよ。
最初に炎竜様が満足できるまで造って置いたら、次は果物を実らせるだけで満足するまで酒が飲めますよ」
「うっがあアアアアア!
腹が立つ、腹が立つ、腹が立つ!
踏み潰してやりたいが、酒のためだから我慢してやる。
量は全然足らないが、味が良いから我慢してやる。
次も同じくらい美味しく造らないと、今度こそ踏み潰すぞ!」
「頑張って美味しい酒を造らせていただきますから、炎竜様は飛竜様を怒らせない所まで果樹園と酒蔵を造ってください。
炎竜様と飛竜様が争われると、せっかく造っていただいた果樹園と酒蔵が壊れてしまい、酒が造れなくなります」
「何度も言わなくても分かっておるわ!」
酒を思いっきり飲めない事に苛立った炎竜が、文句たらたらの態度を隠そうともせず、ブーブー言いながら東竜山脈の東先、遠くまで飛んでいきました。
あんな遠くまで果樹園を作ってくれたのですね。
鯨を料理するように命じた両男爵領から、完成した料理が続々と届いていますし、完成した果樹園で働かせる連邦民を集めましょう。
「先にお腹一杯肉を食べて良いです。
ただし、肉を食べた手は奇麗に洗いなさい。
その後で実っている果実を集めなさい。
その後どうするのかは、ここにいる醸造家の言う通りにしなさい」
俺の支配する連邦の民は、ほぼ全員果樹園労働者として移動させました。
父上と母上が支配する連邦の民も同じです。
これ以上の労働者を集めようと思うと、他の侯国から人手を集めなければいけませんが、ここまで来たらもう自重など不要です。
評判が悪い侯王の民から順番に連れて来る事にしましょう。
「俺の記憶にはないが、美味しいミカン酒できる魔術を発動する。
不要な菌、雑菌は死滅させる。
美味しいミカン酒に発酵させる菌だけを残して他の菌は全部死滅させる。
俺の全魔力の半分まで使っていい。
魔力で強引にミカン酒を造る。
何が何でもミカン酒を造る!
メイク・マンドリン・オレンジ・ワイン!」
「良い香りがしたぞ、できたな!」
お前はトリュフを探す豚か?!
「今度も熟成されないのですね?
本当にこのまま飲まれるのですね?」
「何が哀しくて目の前に酒が有るのに待たねばならん!
熟成など糞くらいだ、さっさと飲ませろ!」
今度も十石甕に一割から四割の酒が並んでいます。
先ほど飲んだのと同じ、八種のブドウ酒と一種のミカン酒です。
俺が食べた事のある柑橘類、バレンシアオレンジとネーブルオレンジ、マーシュグレープフルーツとスタールビーグレープフルーツなどは、九つの甕では数が足りないので、絞った果汁をパントリーに入れて運んでいます。
食べた事のある柑橘類は多く、特にもう一度食べたかった柑橘類は多めに創造していたのですが、とても一つの村にある本数では十石甕一杯にはなりませんでした。
リスボンレモン、柚子、酢橘、香母酢、ライム、橙、金柑などは酢の代わりに使う心算だったので、量も少なく糖分も低いので、酒にはしません。
大好きな酸っぱい果物は炎竜に渡しません!
スウィーティー、ポンカン、伊予柑、デコポン、晩白柚、八朔、夏みかん、文旦、日向夏、甘夏は酒にできなくはないと思うのですが、余裕ができてから思い出したので、数が少ないのです。
そういう貴重な果物は、俺しか食べない酸っぱいモノ以外は家族のモノです。
炎竜のための酒になど、絶対にしません。
元からあった八つの村を巡り終わる頃には、炎竜も多少は落ち着いたようです。
どれほど悪態をついても酒ができる速さは変わらないと理解したようです。
それに、一割から四割の十石甕九個でも、八つも廻ればそこそこの量になります。
まして最後の開拓村では、これまで造れなかったレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ、マーシュグレープフルーツ、スタールビーグレープフルーツ、富有柿、次郎柿、西条柿が十石甕一杯に入っています。
残る二つの十石甕には、梨の幸水と新高を潰した果汁が入っています。
俺が好きな二十世紀は炎竜に渡しません。
酸味のある豊水も俺の物です。
他にもリンゴは隠してあります。
常温で長期保存ができるリンゴは、家族や家臣民のために残しました。
紅玉とシナノスイート、ふじと王林、つがるとジョナゴールドを残しました。
もっと貴重で美味しいリンゴもあるのでしょうが、俺が再現創造できるのは食べた事にある林檎だけなのです。
「良い気分だ、五千年寝ている間にこんな美味しい酒が造れるようになっていたとは、人間もなかなかやるではないか。
縄張りに人間の気配があった時は、皆殺しにしてやろうと思ったが、こんな美味しい酒を造れるのなら見逃してやる。
ありがたく思え!」
「はい、ありがとうございます。
もう満足されたのですか?
これからが本番ですよ。
炎竜様に造っていただいた果樹園と酒蔵が、霞むほど遠くまで連なっています。
全部酒にさせていただきますから、酔いつぶれるまでお飲みください」
「おうよ、言われなくても飲むが、余が飲み潰れるなど絶対にない。
さっさと造れ、今直ぐ造れ、倒れるまで造れ!」
卑小な人間が果物を集めるには時間がかかるのです。
あまり急ぐと、皮を上手く潰せなかったり実以外の物が混じったりして、不味いワインになってしまいますから、急がせてはいけません」
「くっ、ぐずめ、仕方がない、相手が人間では、遅いのは我慢するしかない」
炎竜は、ぶつぶつと文句を言いながら東竜山脈に戻って行った。
炎竜があと二十個ほど果樹園と酒蔵を造り終える頃には、十石甕一杯にワインが出来上がっているでしょう。
リンゴとブドウも柿も、元からあった村の果樹園で実った果実は、皆種類別に集めて十石甕に入れました。
人間用に、雑多な果樹を更に多くの品種に分けて育てていた果樹園です。
徐々に数を増やしてはいましたが、品種を統一して酒を造るとなると、とてもではありませんが、十石甕一杯にはなりません。
潰した果汁の量は、少なくて十石甕一割分です。
数が多い品種でも十石甕四割が精一杯です。
「俺の記憶にはないが、美味しいブドウ酒が造れる魔術を発動する。
不要な菌、雑菌は死滅させる。
美味しいブドウ酒に発酵させる菌だけを残して他の菌は全部死滅させる。
俺の全魔力の半分まで使っていい。
魔力で強引にブドウ酒を造る。
何が何でも美味しいブドウ酒を造る!
メイク・グレープ・ワイン!」
十石甕のブドウ果汁がブクブクと泡が立つほど発酵しています。
腐るのではなく発酵だと思います。
香り高くフルーティーで、甘みと酸味のバランスがいい、美味しいワインになればいいのですが……
「良い香りがしたが、できたのか?!」
どんな鼻をしていやがるんだ!
オット、いけません、また本性が顔を出してしまいました。
いきなり戻って来て酒蔵の屋根を開ける炎竜に、怒りが沸騰しそうになりました。
「発酵はしましたが、熟成したかどうかは分かりません。
俺の記憶では、お酒は熟成させた方が美味しかったはずです。
炎竜様が熟成などさせず、出来たばかりの酒で良いと言われるのなら、どうぞ」
「熟成?
なんだそれは、酒は酒だろう、さっさと飲ませろ」
「では、どうぞ」
「うまい、うまい、うまいぞ。
甕によって甘味が違う!
風味は違うが、どれも全く渋みを感じないぞ!
酒精がとても強いのに、なんて飲み易い酒なんだ!
もっと飲ませろ!」
あっという間に九つの十石甕を飲み干した炎竜がお代わりを要求します。
「次の村に行ってワインを造っておきますから、炎竜様はまた果樹園と酒蔵を造っておいてください」
「またか、また造らなければいけないのか?
一体どれくらい造れば満足するのだ!」
「それは炎竜様次第ですよ。
炎竜様が満足されるまで造り続けていただかないと、次も待たされますよ。
最初に炎竜様が満足できるまで造って置いたら、次は果物を実らせるだけで満足するまで酒が飲めますよ」
「うっがあアアアアア!
腹が立つ、腹が立つ、腹が立つ!
踏み潰してやりたいが、酒のためだから我慢してやる。
量は全然足らないが、味が良いから我慢してやる。
次も同じくらい美味しく造らないと、今度こそ踏み潰すぞ!」
「頑張って美味しい酒を造らせていただきますから、炎竜様は飛竜様を怒らせない所まで果樹園と酒蔵を造ってください。
炎竜様と飛竜様が争われると、せっかく造っていただいた果樹園と酒蔵が壊れてしまい、酒が造れなくなります」
「何度も言わなくても分かっておるわ!」
酒を思いっきり飲めない事に苛立った炎竜が、文句たらたらの態度を隠そうともせず、ブーブー言いながら東竜山脈の東先、遠くまで飛んでいきました。
あんな遠くまで果樹園を作ってくれたのですね。
鯨を料理するように命じた両男爵領から、完成した料理が続々と届いていますし、完成した果樹園で働かせる連邦民を集めましょう。
「先にお腹一杯肉を食べて良いです。
ただし、肉を食べた手は奇麗に洗いなさい。
その後で実っている果実を集めなさい。
その後どうするのかは、ここにいる醸造家の言う通りにしなさい」
俺の支配する連邦の民は、ほぼ全員果樹園労働者として移動させました。
父上と母上が支配する連邦の民も同じです。
これ以上の労働者を集めようと思うと、他の侯国から人手を集めなければいけませんが、ここまで来たらもう自重など不要です。
評判が悪い侯王の民から順番に連れて来る事にしましょう。
「俺の記憶にはないが、美味しいミカン酒できる魔術を発動する。
不要な菌、雑菌は死滅させる。
美味しいミカン酒に発酵させる菌だけを残して他の菌は全部死滅させる。
俺の全魔力の半分まで使っていい。
魔力で強引にミカン酒を造る。
何が何でもミカン酒を造る!
メイク・マンドリン・オレンジ・ワイン!」
「良い香りがしたぞ、できたな!」
お前はトリュフを探す豚か?!
「今度も熟成されないのですね?
本当にこのまま飲まれるのですね?」
「何が哀しくて目の前に酒が有るのに待たねばならん!
熟成など糞くらいだ、さっさと飲ませろ!」
今度も十石甕に一割から四割の酒が並んでいます。
先ほど飲んだのと同じ、八種のブドウ酒と一種のミカン酒です。
俺が食べた事のある柑橘類、バレンシアオレンジとネーブルオレンジ、マーシュグレープフルーツとスタールビーグレープフルーツなどは、九つの甕では数が足りないので、絞った果汁をパントリーに入れて運んでいます。
食べた事のある柑橘類は多く、特にもう一度食べたかった柑橘類は多めに創造していたのですが、とても一つの村にある本数では十石甕一杯にはなりませんでした。
リスボンレモン、柚子、酢橘、香母酢、ライム、橙、金柑などは酢の代わりに使う心算だったので、量も少なく糖分も低いので、酒にはしません。
大好きな酸っぱい果物は炎竜に渡しません!
スウィーティー、ポンカン、伊予柑、デコポン、晩白柚、八朔、夏みかん、文旦、日向夏、甘夏は酒にできなくはないと思うのですが、余裕ができてから思い出したので、数が少ないのです。
そういう貴重な果物は、俺しか食べない酸っぱいモノ以外は家族のモノです。
炎竜のための酒になど、絶対にしません。
元からあった八つの村を巡り終わる頃には、炎竜も多少は落ち着いたようです。
どれほど悪態をついても酒ができる速さは変わらないと理解したようです。
それに、一割から四割の十石甕九個でも、八つも廻ればそこそこの量になります。
まして最後の開拓村では、これまで造れなかったレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ、マーシュグレープフルーツ、スタールビーグレープフルーツ、富有柿、次郎柿、西条柿が十石甕一杯に入っています。
残る二つの十石甕には、梨の幸水と新高を潰した果汁が入っています。
俺が好きな二十世紀は炎竜に渡しません。
酸味のある豊水も俺の物です。
他にもリンゴは隠してあります。
常温で長期保存ができるリンゴは、家族や家臣民のために残しました。
紅玉とシナノスイート、ふじと王林、つがるとジョナゴールドを残しました。
もっと貴重で美味しいリンゴもあるのでしょうが、俺が再現創造できるのは食べた事にある林檎だけなのです。
「良い気分だ、五千年寝ている間にこんな美味しい酒が造れるようになっていたとは、人間もなかなかやるではないか。
縄張りに人間の気配があった時は、皆殺しにしてやろうと思ったが、こんな美味しい酒を造れるのなら見逃してやる。
ありがたく思え!」
「はい、ありがとうございます。
もう満足されたのですか?
これからが本番ですよ。
炎竜様に造っていただいた果樹園と酒蔵が、霞むほど遠くまで連なっています。
全部酒にさせていただきますから、酔いつぶれるまでお飲みください」
「おうよ、言われなくても飲むが、余が飲み潰れるなど絶対にない。
さっさと造れ、今直ぐ造れ、倒れるまで造れ!」
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