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第1章
第50話:傷心と敵対
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天文19年12月22日:伊豆荒井城:前田上総介利益18歳視点
「実の父親に殺されそうになった、天下に行き場のない半端者でございます。
三輪青馬殿の慈悲により、殿に仕えさせてもらう事になりました。
この世に自らの足場を作るため、精一杯働かせていただきます」
美濃のマムシは、青鬼を殺すために自分の長男を生贄にした。
戦国乱世の武将なら、そういう生き方もあるのかもしれない。
だが、俺は嫌だ、息子を殺してまで勝とうとは思わん!
「無理はしなくていい、傷が完全に癒えるまでは休んでいればいい」
「いえ、戦っていた方が嫌な事を考えずにすみます。
どうか戦わせてください、その為にここまで来たのです」
嫌な事を忘れたいから戦いに身を投じたいと言う気持ちは分かる。
「駄目だ、完全に傷が癒えるまでは戦わせん。
俺の家臣になったからには、命令には従ってもらう。
足の傷が完全に癒えて、力も元に戻るまでは戦わせん。
十分に戦えるようになるまでは、代官として働いてもらう。
斉藤家の長男として身に着けた事は全部使ってもらう、良いな?!」
「実の父親にも捨てられた身を、拾ってくださった恩は忘れません。
代官として働けと申されるのでしたら、働かさせていただきます。
しかし、傷が完全に癒えたら戦わせていただきます!」
「分かっている、新九郎には黄鬼として働いてもらうつもりだ。
鬼を名乗る以上、天寿を全うするまで負ける事は許されん。
傷を完全に癒すだけでなく、これまで以上の武勇を期待している」
「有り難き幸せでございます!
鬼の名に恥じぬ働きができるように、傷を癒し力をつけてみせます!」
斉藤新九郎が脚を引きずりながら下がって行った。
以前と同じように戦えるかは、今後のリハビリ次第だろう。
元通りに戦えなくても、代官として働いてくれればいい。
斉藤新九郎は、誰にも求められていない天下に行き場のない者と自分を卑下していたが、それは嘘だ、織田信長が家臣に迎えようと誘っていた。
斉藤新九郎は、ああ見えて情に厚いようで、生贄にされたにもかかわらず、父親に刃を向ける気にはならないのだろう、信長の誘いを断っている。
何度も一騎打ちを繰り返した、青鬼に友情を感じていたのもあるだろうが、親兄弟で殺し合うのを避けたのだろう。
そんな理由もあるのだろうが、信長を振って俺に仕えると言ってきたのだ、大切にしなければならない。
斉藤新九郎が仕えているだけで、他人からは信長よりも俺の方が上だと思われる。
その織田信長だが、マムシが新九郎を殺そうとした事を大いに利用した。
勝つためなら自分の長男すら生贄にするのがマムシだと言って、何時裏切られて見殺しにされるか分からないぞと、美濃の国人地侍を調略した。
信長は不破郡と池田郡の調略に成功した。
だがそれで、近江と国境を接する事になった。
近江には六角と浅井がいるが、実質的に六角が浅井を属将にしている。
伊賀の三郡と北伊勢、大和の一部にまで勢力を及ぼしている六角だ。
美濃の斉藤と手を組んで攻め込んで来ると厄介な事になる。
信長なら何とかすると思うが、万が一の事があれば、小牧山城下の館で人質生活をしている、百合の身が危うくなる!
百合を安全な場所に移すために、信長から独立しようかと悩む。
俺の側が一番安全だと言いたいが、そう断言する事ができない。
俺が常に最前線の城にいるからだ。
だからと言って、三河の大浜城や田原城が安全とも言えない。
この1年の間に寄り子にした国人地侍は、心からは信じられない。
親や子ですら殺してしまうのが戦国乱世だ、家臣など何時裏切るか分からない。
そう考えれば、百合の祖父と伯父がいる小山城が1番マシかもしれない。
美濃のマムシは稲葉山城に封じこめられているし、近江の六角が美濃に攻め込んできたとしても、先に不破郡や池田郡の確保を優先すると次右衛門が言っていた。
次右衛門が言うなら間違いないだろう。
とはいえ、心配なのは変わりない、どうしたものか?
「次右衛門、百合と龍千代が心配だ、何か良い方法は無いか?」
「何もしなくても大丈夫だと思いますが、それでは殿の心が晴れないでしょう。
殿が心から安心して奥方様を委ねられる方に兵を預けて護衛に行ってもらいます。
兵も足軽だけでなく、水軍衆と小早船を送ります。
小牧山城から逃げる時に1番近い、庄内川に勢子船を置いておきましょう。
六角勢がどれほど早く攻め込んで来たとしても、庄内川の急流を下る勢子船に追いつく事はできません」
「俺が心から安心して百合を預けられる者だと……義父殿か?!」
「はい、奥方様の実の父君、五郎兵衛様に行っていただきます。
大浜城や高浜城は、三太夫様お独りで十分に治められます。
兵が減った分は、新たに人を召し抱えられたらいいのです。
百戦不敗の殿が声をかけられれば、人は直ぐに集まります」
「義父殿には俺が文を書いて頼む。
配下に誰を送るのか、どの足軽組を送るのかは次右衛門に任せる。
新たに人を召し抱えるのも、次右衛門に任せる」
「承りました、直ぐに手配させていただきます」
奥村次右衛門はそう言って部屋から出て行った。
本当に頼りになる、荒子譜代に中で差をつけるのは心配だったが、次右衛門を筆頭家老に抜擢したのは正解だった。
次右衛門の長男、奥村助十郎も父親と同じくらい才能があるという。
今は義祖父殿が手元に置いて鍛えてくれている……信長に引き抜かれないように、義祖父殿と相談したうえで呼び戻そう!
「実の父親に殺されそうになった、天下に行き場のない半端者でございます。
三輪青馬殿の慈悲により、殿に仕えさせてもらう事になりました。
この世に自らの足場を作るため、精一杯働かせていただきます」
美濃のマムシは、青鬼を殺すために自分の長男を生贄にした。
戦国乱世の武将なら、そういう生き方もあるのかもしれない。
だが、俺は嫌だ、息子を殺してまで勝とうとは思わん!
「無理はしなくていい、傷が完全に癒えるまでは休んでいればいい」
「いえ、戦っていた方が嫌な事を考えずにすみます。
どうか戦わせてください、その為にここまで来たのです」
嫌な事を忘れたいから戦いに身を投じたいと言う気持ちは分かる。
「駄目だ、完全に傷が癒えるまでは戦わせん。
俺の家臣になったからには、命令には従ってもらう。
足の傷が完全に癒えて、力も元に戻るまでは戦わせん。
十分に戦えるようになるまでは、代官として働いてもらう。
斉藤家の長男として身に着けた事は全部使ってもらう、良いな?!」
「実の父親にも捨てられた身を、拾ってくださった恩は忘れません。
代官として働けと申されるのでしたら、働かさせていただきます。
しかし、傷が完全に癒えたら戦わせていただきます!」
「分かっている、新九郎には黄鬼として働いてもらうつもりだ。
鬼を名乗る以上、天寿を全うするまで負ける事は許されん。
傷を完全に癒すだけでなく、これまで以上の武勇を期待している」
「有り難き幸せでございます!
鬼の名に恥じぬ働きができるように、傷を癒し力をつけてみせます!」
斉藤新九郎が脚を引きずりながら下がって行った。
以前と同じように戦えるかは、今後のリハビリ次第だろう。
元通りに戦えなくても、代官として働いてくれればいい。
斉藤新九郎は、誰にも求められていない天下に行き場のない者と自分を卑下していたが、それは嘘だ、織田信長が家臣に迎えようと誘っていた。
斉藤新九郎は、ああ見えて情に厚いようで、生贄にされたにもかかわらず、父親に刃を向ける気にはならないのだろう、信長の誘いを断っている。
何度も一騎打ちを繰り返した、青鬼に友情を感じていたのもあるだろうが、親兄弟で殺し合うのを避けたのだろう。
そんな理由もあるのだろうが、信長を振って俺に仕えると言ってきたのだ、大切にしなければならない。
斉藤新九郎が仕えているだけで、他人からは信長よりも俺の方が上だと思われる。
その織田信長だが、マムシが新九郎を殺そうとした事を大いに利用した。
勝つためなら自分の長男すら生贄にするのがマムシだと言って、何時裏切られて見殺しにされるか分からないぞと、美濃の国人地侍を調略した。
信長は不破郡と池田郡の調略に成功した。
だがそれで、近江と国境を接する事になった。
近江には六角と浅井がいるが、実質的に六角が浅井を属将にしている。
伊賀の三郡と北伊勢、大和の一部にまで勢力を及ぼしている六角だ。
美濃の斉藤と手を組んで攻め込んで来ると厄介な事になる。
信長なら何とかすると思うが、万が一の事があれば、小牧山城下の館で人質生活をしている、百合の身が危うくなる!
百合を安全な場所に移すために、信長から独立しようかと悩む。
俺の側が一番安全だと言いたいが、そう断言する事ができない。
俺が常に最前線の城にいるからだ。
だからと言って、三河の大浜城や田原城が安全とも言えない。
この1年の間に寄り子にした国人地侍は、心からは信じられない。
親や子ですら殺してしまうのが戦国乱世だ、家臣など何時裏切るか分からない。
そう考えれば、百合の祖父と伯父がいる小山城が1番マシかもしれない。
美濃のマムシは稲葉山城に封じこめられているし、近江の六角が美濃に攻め込んできたとしても、先に不破郡や池田郡の確保を優先すると次右衛門が言っていた。
次右衛門が言うなら間違いないだろう。
とはいえ、心配なのは変わりない、どうしたものか?
「次右衛門、百合と龍千代が心配だ、何か良い方法は無いか?」
「何もしなくても大丈夫だと思いますが、それでは殿の心が晴れないでしょう。
殿が心から安心して奥方様を委ねられる方に兵を預けて護衛に行ってもらいます。
兵も足軽だけでなく、水軍衆と小早船を送ります。
小牧山城から逃げる時に1番近い、庄内川に勢子船を置いておきましょう。
六角勢がどれほど早く攻め込んで来たとしても、庄内川の急流を下る勢子船に追いつく事はできません」
「俺が心から安心して百合を預けられる者だと……義父殿か?!」
「はい、奥方様の実の父君、五郎兵衛様に行っていただきます。
大浜城や高浜城は、三太夫様お独りで十分に治められます。
兵が減った分は、新たに人を召し抱えられたらいいのです。
百戦不敗の殿が声をかけられれば、人は直ぐに集まります」
「義父殿には俺が文を書いて頼む。
配下に誰を送るのか、どの足軽組を送るのかは次右衛門に任せる。
新たに人を召し抱えるのも、次右衛門に任せる」
「承りました、直ぐに手配させていただきます」
奥村次右衛門はそう言って部屋から出て行った。
本当に頼りになる、荒子譜代に中で差をつけるのは心配だったが、次右衛門を筆頭家老に抜擢したのは正解だった。
次右衛門の長男、奥村助十郎も父親と同じくらい才能があるという。
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