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第2章

第95話:事情説明と宣戦布告

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神歴1818年皇歴214年9月10日帝国帝都帝宮:ロジャー皇子視点

 深夜の非常識な宣戦布告直後に侵攻してきた敵軍は、30秒で瞬殺した。
 常識的な対応をするなら、夜が明けてから大陸各国に事情を説明する。

 だがそうすると、西側の愚国と歩調をそろえて侵攻する気だった、東側の隣国が何も知らずに早朝に宣戦布告を行い攻め込んで来る。

 俺としても、弱い者虐めで末端の兵士をこれ以上皆殺しにするのは胸が痛む。
 支配者として民を護るために必要なら断じて行うが、進んでやりたい訳ではない。
 
「殿下が情けをかけた事で解放奴隷が死ぬことになっても良いのですか?
 そんな事になったら後悔されるのではありませんか?」

 俺の血と魔力を多めに与えて総司令官級に強く賢くした、金色のクマ型使い魔が、俺を心から心配して諫言してくれる。

 この子は西方方面の使い魔部隊を束ねる総司令官だ。
 同じくらい強く賢い金色のクマ型使い魔が、東方方面と大山脈方面にもいる。
 南方の海には、俺の血と魔力を与えて金色になった特別なザラタンがいる。

「分かった、お前の諫言を有り難く受け入れよう」

 俺は金色の毛皮を持つ可愛い使い魔の諫言を素直に聞く事にした。
 その気になれば、地位や権力を捨てる気になれば、不名誉な侵攻命令を拒んで軍を辞める事はできるのだ。

 他国に侵攻して、女を犯し富を略奪して殺戮の愉悦に浸る。
 そんな獣欲を満たそうとする連中をここで見逃して、俺が皇国に戻ってから再び侵攻してきたら、解放奴隷がまた地獄落されるかもしれないのだ。

 だから俺は、東の隣国だけは西側の王が行った愚行を知らせない事にした。
 それ以外の各国には、非常識な深夜に、事の顛末を書いた親書を送った。
 星明りしかない深夜でも飛べる鳥型の使い魔に運んでもらった。

 非常識な深夜に、国王や宰相宛に届いた親書を、処罰や叱責を覚悟して提出する家臣がる国が幾つあるか分からない。

 俺としては翌朝や昼になってから国王や宰相に伝えられても構わない。
 その方が深夜に宣戦布告をした西側の国、愚王の非常識を強調できる。

 ただ、親書が届いていないとウソをつく国王や宰相がいるかもしれない。
 そんなウソがつけないように、国王や宰相には最低5通の親書を送ってやった。
 同じ役所ではなく、複数の役所にまたがって親書を送ってやった。
 
 国王や宰相だけでなく、その国の有力な貴族にも送ってやった。
 その国の基準に従って上から100家の貴族に、王に送ったのと同じ内容の親書を送ってやったから、知らぬ存ぜぬは通用しない。

 俺は、西の国境で敵軍を皆殺しにしてくれた使い魔たちに、感謝の魔力を与えながら時間が経つのを待っていた。

 東側の国が大陸の常識に従うなら、王に謁見できるのは御前10時以降だ。
 西側の国と協調して宣戦布告をする気だったら、9時半ごろに宣戦布告の為に王宮に来たと言って謁見を願い出るだろう。

 西の愚王が何を考えて、日付が変わる30分前に全権大使に宣戦布告をさせ、日付が変わって30分後に軍を侵攻させたのかは分からない。

 恐らくだが、急に思いついて強行させたのだろう。
 そうでなければ、東側の国と協調する意味がない。
 ほぼ同時に攻め込まないと、先に攻め込んだ自分たちだけが被害を受ける。

 まあ、そんな事も思いつかないバカだから、正式な宣戦布告とは認められないような時間に、全権大使に謁見を願わせたのだろう。

 などと考えながら、頑張ってくれた西側の使い魔に魔力を与えた。
 国境なので結構長大な距離が南北に渡ってある。
 西側の国とは、おおよそ900kmもの土地が接していた。

 その国境の5カ所に分かれて1万の軍が侵攻してきたのだ。
 使い魔たちが守ってくれていなかったら、どこかで突破されていた。
 多くの民が戦渦に巻き込まれて死傷していた。

 それを考えても、西側の愚王と王族は皆殺しにするしかない。
 東側の軍、王、王族も許す訳にはいかない。

 俺は西側の国境900kmを南北に移動して、頑張ってくれた使い魔に魔力を与えながら決断した。

 俺は夜が明ける前に帝都に戻った。
 不眠不休で働いてくれている、護衛騎士や帝国騎士団や帝国徒士団に、西側の軍の結末を伝え、東側の軍の動きを伝えるためだ。

 頑張ってくれている者たちに、朝夜が明けたら起こる事を伝えて仮眠を取らせた。
 俺も仮眠を取って東側の全権大使が来るのを待ち受けた。

「『ロジャー皇子殿下が帝王陛下を家臣のように扱うのは許せない』と我が主は申しております。どうか言動を改めてください」

 宣戦布告の為の言い掛かりは、西国と示し合わせていたのだろう。
 深夜に受けた西国の宣戦布告と全く同じ言葉を、東国の全権大使に言ってきた。

 彼は西国の全権大使がいない事に、内心不安を感じているようだ。
 自国だけで帝国に戦争を仕掛ける事になるかもしれないのを恐れている。

 本来なら宣戦布告を中止すべきなのだが、もう既に5万の大軍が東の国境に集結しており、宣戦布告をしないと卑怯な侵攻になってしまう。

 まあ、どう考えても、侵攻30分前の宣戦布告は卑怯以外の何物でもない。
 こんな際どい開戦方法を考えるから、西国がバカをやっても開戦を中止できない。
 そもそも、バカと組んで戦争を始めようとすること自体が愚かだ。

「同じ言葉を、昨日の深夜に西のバカから全権を委任された大使から聞いた。
 まあ、よくも、こんな卑怯な方法を考え実行できるな?
 侵攻してきた5万軍は既に皆殺しにして、事の顛末を大陸各国に知らせた。
 貴国もその卑怯下劣な侵攻に加担していた事が今はっきりした」

「お待ちください殿下、間違いでございます、誤解でございます」

「今さっき、余を悪し様に罵って宣戦布告をしたその口で、何が間違っていて、何が誤解なのか、教えてくれるかい、全権大使殿」

「騙されたのでございます、我が国の王は騙された被害者なのでございます」

「被害者なのは、愚王の野心のために家族を残して死ぬ5万の家臣だろう。
 まあ、余が直ぐに愚王と王族を皆殺しにして、彼らの恨みを晴らしてやるがな」

 まだ何か言い訳しようとする東の全権大使を、帝国の近衛騎士たちがぼろ雑巾のようになるまで殴り倒して、引きずりながら連れ出した。

 東の5万兵が5軍に分かれて侵攻して来るまで時間がない。
 全権大使の相手をしている間に侵攻時間直前になっている。
 やるべき事を粛々と行い、自分が守るべき民の安全を確保するだけだ。
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