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第1章

第25話:キャンサー襲撃

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神歴1817年皇歴213年2月27日皇都拝領屋敷:ロジャー皇子視点

「キャンサーだ、キャンサーが現れたぞ!」

 今日の宿泊する予定の子爵領に入ってから最初の駅家で休憩していたら、川に住むモンスター、キャンサーが現れたと騒ぎ出した。

 キャンサーはカニ型のモンスターで、甲羅がイチョウのような丸みを帯びている。
 甲羅の全長は1メートルで全幅は2メートル、縦よりも横に大きいモンスターだ。
 それに短い脚を大きく広げると3メートルを越える大きさがある。

 怖いのは陸上でも素早く動ける事と力強い両方のハサミで獲物を軽々と潰す事。
 ハサミは鋭さよりも圧し潰す力強さに発達している。
 しかもたくさん食べるので、人間の村に入り込まれたら大変な事になる。

 駅家の周りには街道に沿って家が並んでいる。
 このようなモンスターの襲撃を恐れて、人は少しでも戦力の有る公共の場所に集まり助け合って生きている。

 駅家を中心とした村は、街道に沿って細長く並んでいる。
 防御を考えれば円形に集まるべきなのだが、街道を通る人たちの落とすお金が大切な収入源なのでしかたがない。

 それでも街村の周りには浅い壕が掘られているし、庭もなくして集まり家の壁を防壁にしているから、モンスターが入り難くしている。

 普通のモンスターならそれである程度侵入を防げるのだが、斜面どころか壁すら登れるカニ型モンスターが相手だと、何の役にも立たない。

「余はロジャー皇子である、戦える者は今直ぐタイマツを用意しろ!
 キャンサーは火に弱い、あるだけのタイマツを用意しろ!
 火魔術が使える者がいるなら余と一緒に戦え!」

 俺がキャンサーを倒せるほどの攻撃魔術を使えると知られると困る。
 睡眠魔術や麻痺魔術なら評価されないが、攻撃魔術は評価されてしまうのだ。

 本当は実戦で役に立つ魔術を評価すべきなのだが、長い平和が見た目の派手な魔術を評価する風潮にしてしまっている。

 運が良いのか悪いのか、1匹や2匹ではなく、23匹ものキャンサーが川から上がってきている。

 川沿いの街道にある駅家村なら、キャンサーにも慣れているはずなのだが、数が多過ぎて平常心を失っているのか、戦う準備が全くできていない。

「お前らやる気が有るのか?!
 これは大金を稼げる絶好の機会なのだぞ!
 23匹ものキャンサーが手に入れば、まとまった金になるのだぞ!」

 キャンサーの外骨格はとても硬くて、上手く処理すれば盾や武器に加工できる。
 更に外骨格以上にお金になるのが、とても美味しい身とミソだ。
 外骨格が硬く厚くて高価な分、身の量が少ないが、それだけに高く売れる。

 駄目だ、駅家の役人も村人も逃げ腰で役に立ちそうにない。
 血が遠い枝葉とはいえ、皇室から分かれた子爵領で勝手な事をする気はなかったが、駅家や村が破壊されるのを黙って見てはいられない。

 どうせ戦うのなら、俺の利益になるようにする。
 キャンサーの金額的な価値は、俺には大して意味はないが、美味しいカニを確保できる事には大きな意味がある!

 まだキャンサーの身を食べた事はないが、柔らかいチーズのような独特の食感でほぐれやすく、とても甘みがあって美味しいらしい。

「お前らに駅家も村も守る気がないのなら余が狩る」

 俺はそう宣言すると逃げ腰の役人と村人をにらみつけてやった。

「キャンサーを売った時の金になど何の興味もないが、美味いいと評判の身とミソには興味がある!
 余が眠りと麻痺の魔術で動けなくする、そこを叩き殺せ!」

 俺は配下の騎士たちに命じた。

「「「「「はっ!」」」」」

 剣で叩き殺したら、外骨格に亀裂が入って金額的な価値が下がってしまう。
 だが金には全く困っていないから何の問題もない。
 まあ、火魔術で倒しても外骨格が変質して金額的価値が下がるのだが。

「殿下、もう少し下がっていてください、お前らは殿下の側を絶対に離れるな!」

 スレッガー叔父上は演技が上手いな。
 俺には指導力と支援魔術の才はあるが、実戦能力はないのだと、同僚の護衛騎士や周囲の者たちに思わせようとしてくれている
 
 あっ、俺は馬鹿だ、あれだけ派手に眠りと麻痺の魔術を使っているのだ。
 狡猾な人間なら俺の実戦能力を理解している。

 皇帝はともかく皇父や黒幕には気付かれているはずだ。
 もしかしたら、何かとんでもない方法で俺を殺そうとするかもしれない。
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