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31話
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最終話:生きる
**アサヒ視点**
回復の能力を有しているというレインに傷を治癒してもらい、私たちは三百年ぶりに会話を果たした。
彼女いわく、私のことを恨んでいたのは、彼女自身のこじつけだったそうだ。
丁寧に謝罪を重ね、私はそれを快く許した。
私が彼女の一人称について訊くと、“自分を少しでも強くみせるため”らしい。
「そっか。色々と苦労したんだね。」
「…成長の糧になったから、結果オーライさ。」
それから、穏便に話し合いを終えた。その時に、天の雲から射し込む後光。神だ。
「……!」
驚くレイン。無論、私も少しは驚いていた。
「どうしてここに?」
彼はふわりと着地し、言った。
「“判決”を言い渡そうと思ってね。」
「判決?」
彼は先ず、レインの方を見て言った。
「レイン。君は人為的なギフテッド故に、あちら側の世界、“天界”から大罪人として扱われていた。」
「…天界?」
「ああ。君を始末するため、アサヒをこちらに送った次第だ。」
そして、彼は私の方を一時的に向いた。
「だけど、君はそんなつもり無かったのだろう? 話し合いで済めば、それで良いと思っていた。」
私は笑みを浮かべる。
「…“神様”は何でもお見通しってわけですね。」
神様という私の言葉に驚くレインに、彼は話し続けた。
「実は、天界もそれで良いと思っている。」
驚きの表情を浮かべる私たち。彼は続ける。
「君も彼も、罪の自覚は無かったんだ。無罪で違いないよ。それに、もう一人の大罪人、“魔王”の始末に大きく貢献した。これは紛うことなき事実だからね。」
私は相槌を打つように首を縦に振り、レインに視線を送った。
そこには、三百年を経て久しぶりに見る彼女の笑顔があった。
「良かったね。レイン。」
「うん。」
そして次に、彼は私に告げた。
「君もだよアサヒ。君には祝福される権利がある。」
「え?」
「魔王の討伐。したがって、君の望むものを与えようと思う。能力によって不本意に生き長らえる、呪いのようなものではない。歴とした“ギフト”だよ。」
「ギフト…ですか。」
正直、今私が欲しいものなんて特にない。だが、一つだけ叶えたい願いがあった。
叶えられるものの規模を聞くため、私は彼に尋ねる。
「たとえば、どのようなギフトですか?」
「そうだな…ギフテッドからの脱却とか……かな。」
ギフテッドからの脱却……か。今まで私は、ギフテッドとして幾度の死を繰り返し、苦しんで来た。
…でも────
「────ギフテッドだからこそ、見える世界があるんです。…だから、このままでいさせてください。」
すると彼は微笑んで、「そうか」と言った。彼は続けてこう言う。
「では、何が望みだ?」
「私は─────」
**
数十年後、神からの助言もあり、人類は少しずつ活気を取り戻していった。
人口もみるみるうちに増加し、幾つかの“国”が創立されていった。
私はレインから教えてもらった若返りの魔法で現在の姿を維持しながら国の成長を見届けた。
そんなある日、レインと会う約束をし、『ハラジエ』という国へ訪れた。
ハラジエにある二つ目の通りの一角、酒場がある。私たちはそこで落ち合った。
「よっ。」
「アサヒ。」
そこには、何の変哲もないレインの姿。彼女もまた若返りの魔法で姿を維持していた。
私たちは早速酒を頼み、会話を弾ませた。
「それでさ~、そいつがね~。」
口元を緩めながら話を進めるレイン。…今では普通だが、こんな表情を見ていると、和解した甲斐があったというものだ。
「そこで僕は言ってやったわけよ! “店長はスキンヘッドです”ってね!」
彼女は今、飲食店で働いているそう。この話は、彼女が酔うとよくする話だ。
彼女の話はそれなりにユーモアがあって面白い。
「あはは!」
他愛のない会話で盛り上がる。これが今の私たちの日常だ。互いに泥酔した後、会計は割り勘して酒場を後にした。
「ふぁ~…」
すっかりと泥酔し切った様子のレイン。私は彼女をおんぶして歩く。
く…時々、レインと“ハナ”の姿を重ねることがある。彼女が酔うところを見たことがなかったので、少し気になるな。
…まぁ、もう願ったって仕方の無い願いだ。私は片手でレインの頭を軽く撫でる。
「なにぃ~…?」
「…なんでもないよ。」
時間も遅いので、私たちは宿屋に泊まることにした。宿屋に着いた頃にはレインは寝ていたので、「部屋は一つで構わない」と宿主に告げた。その方が料金も安くて済むし。
私はお金を払った後、レインをおんぶしたまま部屋へと移動した。
そして彼女をベッドに寝かせ、私は床に寝転んだ。疲れもあったからか、私は直ぐに眠りにつけた。
目覚めたのは翌日…いや今日の昼だった。
先に起きたのは私の方で、私が起きたあと少ししてからレインが目覚めた。
「あ、おはよ。」
「おはよぉ~」
それから宿屋を去って食事を済ませ、せっかくだからと、二人でハラジエの観光をする事に。
私は国全体の地図を入手し、レインと一緒にそれを確認した。以前この国に来た時には、無かった物が増えていた。
それは、国の安泰と平和を願った国王の銅像。剣を空高くに掲げ、その威厳を示していた。
「この国は大丈夫かな……」
不安の言葉を口にするレイン。
「大丈夫だよ。きっとね。」
…そうだ。大丈夫さ。
この国も、この世界も。
平和が続いて欲しいと、そう願うばかりだ。
**
今まで色んな人と出会い、色んな事があった。
師匠、『アサヒ』との出会い。彼女には『蒼天(そうてん)』という魔法使いとしての秘技を教えてもらったうえに、しっかりと鍛えてもらった。
『ルウ』。彼は私の弟子であり、彼にはギフテッドであるという虚言を吐いてしまったが、結果的にその虚言も本当になった。申し訳ないとは思っていたが、中々謝れないまま、彼は命を終えてしまった。
…いつか、あちら側で再開出来たらと思う。
『カイド』、『レイ』。彼らには多くの迷惑をかけた。子供の頃から今まで、どんな時だって私たちは仲間だった。
彼らには一言、“ありがとう”とだけ言わせてほしい。
『ハナ』。彼女は、我が子のように育てただけに、思い入れが強い。魔法使いの資格を得た時には、嬉しさのあまり、大勢の人を呼んで祝福したよね。
懐かしいな。…いつかまた会おうね。
『リョウ』、そして『レイン』。リョウは非常に強かった。もちろん、プロディジーということが大きかったのだろうけど。彼は人から好かれるような人間だった。
レインが好むのも無理はない。レインには一度、長年に渡って憎まれたこともあったが、共に共闘し対話することで和解を果たした。
人との関わりを避ける一面を持っているが、根は本当に良い子。
…幸せになって欲しいな。
『デルトラ』さん。“天羽々斬(あめのはばきり)”を作ってもらった。彼の作った武器があるから魔王を倒す事が出来た。本当に感謝です、デルトラさん。
『神様』。ちなみに、彼にも名はあるらしいが、それは教えてはくれなかった。彼には本当に救われたと思っている。
彼だけではない。
私は、皆に救われた。
救われてきた。
人間が社会的存在であることの真意はここにあると思う。
集団でいるからこそ、人は救われ、人を救う事が出来るのだ。
**
季節は移り変わり、春が訪れた。賑やかな人々の声、心地よく吹く風。
私はそんな街中を一人で歩いていた。ここは『ロード』という国で、『イメドン』という国に隣接している。
それらの国境が疎かになっていることから、ロードは人々が多く訪れる。私はカフェに入店した。
それから、ここには屋上があるということで、屋上に足を運んだ。人がまあまあな量いたが、それにも納得のいくいい景色だった。
ビルとビルの間に小さな建物が遠くまで並んでいて、その向こうに小さな湖、そして広大な森。
その湖には上空に浮かぶ雲が反射して映っていた。…これは売り上げ高が良さそうだ。
風景を眺めていると、周囲の笑い声が耳に入った。
…いいな。私にはもうあんな風に笑い合える仲間も限られてきた。
私が“ハナ”であった頃には、何にも考えず、多くの仲間と酒場で笑い合う事が出来た。
今ではそんな事も叶わない。
それでも私は生きていかなければならない。あの日、神様へ自分の望みを告げたのだから。
**
「私は、もう少しだけこの世界を見ていたいです。」
「…それが望み?」
「はい。」
隣でなんとも言えない表情を浮かべていたレインが、私に尋ねた。
「本当にそれでいいの? もっとさ、億万長者になりたいー、とか……」
「私はこれで十分だよ? これ以上、何も望まないさ。」
神は納得したかのような顔を見せ、その場を後にしていった。
「じゃあ、またいつか会えるといいな。」
**
店を出てから思う。
思わず長居してしまったと。
もう日が暮れていて、人通りも少なくなっていた。でもきっと明日にはまた、多くの人でこの場所は埋め尽くされているだろう。
…そうだ。明日はいつだってやって来る。
たとえ、歩いても。たとえ走っていても。
生きてさえいれば明日は皆平等に訪れる。明日があるから人間は輝いていられる。
私は何となくで空を見上げた。
何の変哲もない空。
変わることのない、空。
この世界もそうであってほしい。何百年、何千年、その年月がどうであれ、幸せが長く続けば私はそれでいい。
私はハナの頃、よく死後の世界について考えていた。
人間の終局にして、最も恐れられる“死”。死後の世界なんて誰も知らない。
きっとその方がいい。
…でも、それでも死ぬのは怖いから、人間は縋るんだ。神という存在に。
この世界に生まれたこと、生まれてきた意味。私はもうしばらくそれについて模索しながら。そして、この世界を見守りながら。
末永く生きていこうと思う。
───【完】───
**アサヒ視点**
回復の能力を有しているというレインに傷を治癒してもらい、私たちは三百年ぶりに会話を果たした。
彼女いわく、私のことを恨んでいたのは、彼女自身のこじつけだったそうだ。
丁寧に謝罪を重ね、私はそれを快く許した。
私が彼女の一人称について訊くと、“自分を少しでも強くみせるため”らしい。
「そっか。色々と苦労したんだね。」
「…成長の糧になったから、結果オーライさ。」
それから、穏便に話し合いを終えた。その時に、天の雲から射し込む後光。神だ。
「……!」
驚くレイン。無論、私も少しは驚いていた。
「どうしてここに?」
彼はふわりと着地し、言った。
「“判決”を言い渡そうと思ってね。」
「判決?」
彼は先ず、レインの方を見て言った。
「レイン。君は人為的なギフテッド故に、あちら側の世界、“天界”から大罪人として扱われていた。」
「…天界?」
「ああ。君を始末するため、アサヒをこちらに送った次第だ。」
そして、彼は私の方を一時的に向いた。
「だけど、君はそんなつもり無かったのだろう? 話し合いで済めば、それで良いと思っていた。」
私は笑みを浮かべる。
「…“神様”は何でもお見通しってわけですね。」
神様という私の言葉に驚くレインに、彼は話し続けた。
「実は、天界もそれで良いと思っている。」
驚きの表情を浮かべる私たち。彼は続ける。
「君も彼も、罪の自覚は無かったんだ。無罪で違いないよ。それに、もう一人の大罪人、“魔王”の始末に大きく貢献した。これは紛うことなき事実だからね。」
私は相槌を打つように首を縦に振り、レインに視線を送った。
そこには、三百年を経て久しぶりに見る彼女の笑顔があった。
「良かったね。レイン。」
「うん。」
そして次に、彼は私に告げた。
「君もだよアサヒ。君には祝福される権利がある。」
「え?」
「魔王の討伐。したがって、君の望むものを与えようと思う。能力によって不本意に生き長らえる、呪いのようなものではない。歴とした“ギフト”だよ。」
「ギフト…ですか。」
正直、今私が欲しいものなんて特にない。だが、一つだけ叶えたい願いがあった。
叶えられるものの規模を聞くため、私は彼に尋ねる。
「たとえば、どのようなギフトですか?」
「そうだな…ギフテッドからの脱却とか……かな。」
ギフテッドからの脱却……か。今まで私は、ギフテッドとして幾度の死を繰り返し、苦しんで来た。
…でも────
「────ギフテッドだからこそ、見える世界があるんです。…だから、このままでいさせてください。」
すると彼は微笑んで、「そうか」と言った。彼は続けてこう言う。
「では、何が望みだ?」
「私は─────」
**
数十年後、神からの助言もあり、人類は少しずつ活気を取り戻していった。
人口もみるみるうちに増加し、幾つかの“国”が創立されていった。
私はレインから教えてもらった若返りの魔法で現在の姿を維持しながら国の成長を見届けた。
そんなある日、レインと会う約束をし、『ハラジエ』という国へ訪れた。
ハラジエにある二つ目の通りの一角、酒場がある。私たちはそこで落ち合った。
「よっ。」
「アサヒ。」
そこには、何の変哲もないレインの姿。彼女もまた若返りの魔法で姿を維持していた。
私たちは早速酒を頼み、会話を弾ませた。
「それでさ~、そいつがね~。」
口元を緩めながら話を進めるレイン。…今では普通だが、こんな表情を見ていると、和解した甲斐があったというものだ。
「そこで僕は言ってやったわけよ! “店長はスキンヘッドです”ってね!」
彼女は今、飲食店で働いているそう。この話は、彼女が酔うとよくする話だ。
彼女の話はそれなりにユーモアがあって面白い。
「あはは!」
他愛のない会話で盛り上がる。これが今の私たちの日常だ。互いに泥酔した後、会計は割り勘して酒場を後にした。
「ふぁ~…」
すっかりと泥酔し切った様子のレイン。私は彼女をおんぶして歩く。
く…時々、レインと“ハナ”の姿を重ねることがある。彼女が酔うところを見たことがなかったので、少し気になるな。
…まぁ、もう願ったって仕方の無い願いだ。私は片手でレインの頭を軽く撫でる。
「なにぃ~…?」
「…なんでもないよ。」
時間も遅いので、私たちは宿屋に泊まることにした。宿屋に着いた頃にはレインは寝ていたので、「部屋は一つで構わない」と宿主に告げた。その方が料金も安くて済むし。
私はお金を払った後、レインをおんぶしたまま部屋へと移動した。
そして彼女をベッドに寝かせ、私は床に寝転んだ。疲れもあったからか、私は直ぐに眠りにつけた。
目覚めたのは翌日…いや今日の昼だった。
先に起きたのは私の方で、私が起きたあと少ししてからレインが目覚めた。
「あ、おはよ。」
「おはよぉ~」
それから宿屋を去って食事を済ませ、せっかくだからと、二人でハラジエの観光をする事に。
私は国全体の地図を入手し、レインと一緒にそれを確認した。以前この国に来た時には、無かった物が増えていた。
それは、国の安泰と平和を願った国王の銅像。剣を空高くに掲げ、その威厳を示していた。
「この国は大丈夫かな……」
不安の言葉を口にするレイン。
「大丈夫だよ。きっとね。」
…そうだ。大丈夫さ。
この国も、この世界も。
平和が続いて欲しいと、そう願うばかりだ。
**
今まで色んな人と出会い、色んな事があった。
師匠、『アサヒ』との出会い。彼女には『蒼天(そうてん)』という魔法使いとしての秘技を教えてもらったうえに、しっかりと鍛えてもらった。
『ルウ』。彼は私の弟子であり、彼にはギフテッドであるという虚言を吐いてしまったが、結果的にその虚言も本当になった。申し訳ないとは思っていたが、中々謝れないまま、彼は命を終えてしまった。
…いつか、あちら側で再開出来たらと思う。
『カイド』、『レイ』。彼らには多くの迷惑をかけた。子供の頃から今まで、どんな時だって私たちは仲間だった。
彼らには一言、“ありがとう”とだけ言わせてほしい。
『ハナ』。彼女は、我が子のように育てただけに、思い入れが強い。魔法使いの資格を得た時には、嬉しさのあまり、大勢の人を呼んで祝福したよね。
懐かしいな。…いつかまた会おうね。
『リョウ』、そして『レイン』。リョウは非常に強かった。もちろん、プロディジーということが大きかったのだろうけど。彼は人から好かれるような人間だった。
レインが好むのも無理はない。レインには一度、長年に渡って憎まれたこともあったが、共に共闘し対話することで和解を果たした。
人との関わりを避ける一面を持っているが、根は本当に良い子。
…幸せになって欲しいな。
『デルトラ』さん。“天羽々斬(あめのはばきり)”を作ってもらった。彼の作った武器があるから魔王を倒す事が出来た。本当に感謝です、デルトラさん。
『神様』。ちなみに、彼にも名はあるらしいが、それは教えてはくれなかった。彼には本当に救われたと思っている。
彼だけではない。
私は、皆に救われた。
救われてきた。
人間が社会的存在であることの真意はここにあると思う。
集団でいるからこそ、人は救われ、人を救う事が出来るのだ。
**
季節は移り変わり、春が訪れた。賑やかな人々の声、心地よく吹く風。
私はそんな街中を一人で歩いていた。ここは『ロード』という国で、『イメドン』という国に隣接している。
それらの国境が疎かになっていることから、ロードは人々が多く訪れる。私はカフェに入店した。
それから、ここには屋上があるということで、屋上に足を運んだ。人がまあまあな量いたが、それにも納得のいくいい景色だった。
ビルとビルの間に小さな建物が遠くまで並んでいて、その向こうに小さな湖、そして広大な森。
その湖には上空に浮かぶ雲が反射して映っていた。…これは売り上げ高が良さそうだ。
風景を眺めていると、周囲の笑い声が耳に入った。
…いいな。私にはもうあんな風に笑い合える仲間も限られてきた。
私が“ハナ”であった頃には、何にも考えず、多くの仲間と酒場で笑い合う事が出来た。
今ではそんな事も叶わない。
それでも私は生きていかなければならない。あの日、神様へ自分の望みを告げたのだから。
**
「私は、もう少しだけこの世界を見ていたいです。」
「…それが望み?」
「はい。」
隣でなんとも言えない表情を浮かべていたレインが、私に尋ねた。
「本当にそれでいいの? もっとさ、億万長者になりたいー、とか……」
「私はこれで十分だよ? これ以上、何も望まないさ。」
神は納得したかのような顔を見せ、その場を後にしていった。
「じゃあ、またいつか会えるといいな。」
**
店を出てから思う。
思わず長居してしまったと。
もう日が暮れていて、人通りも少なくなっていた。でもきっと明日にはまた、多くの人でこの場所は埋め尽くされているだろう。
…そうだ。明日はいつだってやって来る。
たとえ、歩いても。たとえ走っていても。
生きてさえいれば明日は皆平等に訪れる。明日があるから人間は輝いていられる。
私は何となくで空を見上げた。
何の変哲もない空。
変わることのない、空。
この世界もそうであってほしい。何百年、何千年、その年月がどうであれ、幸せが長く続けば私はそれでいい。
私はハナの頃、よく死後の世界について考えていた。
人間の終局にして、最も恐れられる“死”。死後の世界なんて誰も知らない。
きっとその方がいい。
…でも、それでも死ぬのは怖いから、人間は縋るんだ。神という存在に。
この世界に生まれたこと、生まれてきた意味。私はもうしばらくそれについて模索しながら。そして、この世界を見守りながら。
末永く生きていこうと思う。
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