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7章 焔の神と雪の女神 (前編)
31話 炎の祠
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3頭の馬がヒートヘイズの領地を駆け回る。フレイヤは普段から馬に乗っているから扱いが上手なのは当たり前だけど、父上の乗りこなしも流石としか言いようが無かった。
父上を先頭に僕とフレイヤは隣同士では走っている。時折フレイヤは僕の方を見て追いつけているかと確認をしてくれていた。
「父上!こちらの方角に何かあるのですか?」
「あまり知られてない場所だ。無闇に他言してはならぬ」
「国王様。この先は灼熱の洞窟がある場所です。耐熱装備をなさらなくて大丈夫でしょうか?」
「灼熱の洞窟には入らない。ただ馬が気温の熱さに耐えられないので少し前で降りるぞ」
「はい」
「かしこまりました」
フレイヤが言う灼熱の洞窟はヒートヘイズ領を見守る火山に繋がる洞窟だ。火山と言ってもしばらくはは落ち着いているようで、学者の話では噴火の可能性は低いだろうとのこと。
しかし洞窟の中は名前の通り灼熱の地獄で耐火装備が無いと火傷を覆ってしまう。例えヒートヘイズ王族の体質を持つ僕や父上でもあの場所では装備が必要だった。
「ここで降りる。馬は木にでも繋いでおけ」
父上が乗る馬が速度を落としたと思うとそのまま父上は地面に足をつける。僕とフレイヤも続けて降りて近くにある木の幹に綱を巻きつけておいた。
2日連続で馬に乗るとどうも腰が痛く感じる。乗馬の訓練の時間を設けるべきだろうか。後でヒダカと相談してみよう。
「こっちだ」
僕達は火山がある方面へと進む。しかし洞窟の入り口がある方向では無かった。
ここ一帯は木々に覆われていて少し薄暗い。あまり踏みしめたことがない土地なので余計にキョロキョロと周りを見てしまう。
「イグニ王子、足元にお気を付けください」
「ああ。ありがとう」
フレイヤはここに来たことがあるのだろうか。落ち着いた様子で父上の後を着いている。しかし何処となく警戒心を出しているのでもしもの時の場合に備えて居るのかもしれない。
ここはアイシクル領から結構離れているとはいえ、油断は出来ないからな。もし敵襲があれば真っ先に父上を守らなければ。
剣を持たない僕でも炎は扱える。この体が武器だ。
「2人ともあれを見てくれ」
「あれは……洞窟?でも遺跡のようにも見えます」
「私は騎士団の任務でここ付近も担当したことがありますが、あのようなものは初めて見ました」
「ここは入り組んでいて、尚且つ木々が生い茂っている。隠すのには最適だったのだ」
「父上、隠すとは?」
「とりあえず着いて来い」
父上が入って行ったのは地下に続く遺跡のような場所。洞窟とは違って中は白い石で創られていた。となるとこれは人工的に誰がが建てたのものだ。
父上は片手で炎を出すとたいまつ代わりに降りていく。僕はフレイヤを見て頷いて階段に足をつけた。
「ここは初代ヒートヘイズの国王が創ったとされる場所だ。しかし時が過ぎるうちに使われなくなってしまった」
「何をする場所なのですか?」
「炎の神を祀る場所。炎の祠だ」
階段を降りた僕達の目の前に現れたのは大きな扉。所々錆びついているが神秘的な雰囲気を出していた。
「アイシクルには氷の塔と呼ばれる場所がある」
「っ…」
「それに対するのはここ、炎の祠だ」
氷の塔の単語だけで肩が跳ねそうになる。それをグッと耐えてから僕は改めて大扉を見た。
「国にある古文書には焔(ほむら)の神と呼ばれる存在が居たと書かれているのを見たことがあります」
フレイヤは顎に手を当てて思い出したように話す。その古文書は僕も読んだことがある。
途中で挫折して全ては読めてなかったが、古き時代のヒートヘイズの暮らしや歴史が載っている本だった。フレイヤの推測に父上は頷いてから僕を見る。
「その通りだフレイヤ。炎の祠は焔の神が住まう場所である。ではイグニに問う。焔の神はどんな存在がなれるものだ?」
「確か、ヒートヘイズの王族の血を流していること。そして誰よりも炎を扱える器を持つ者…でしょうか?」
「正解だ。ちゃんと勉強はしているようだな」
途中しか読んでませんが。そんなことは口が裂けても言えない。
「この祠を使っていた当時のヒートヘイズは国王と焔の神がこの地を守っていた。国王は民を導き、焔の神は炎を導く。それぞれの役割で成り立っていたのだ」
「それでは何故無くなってしまったんだ…?」
「古文書では突如器となる者が居なくなってしまったと書かれていました。そして最後の焔の神は自ら命を絶って亡くなって以来、神は居なくなったとか」
「そ、そういえばそうだったな!」
やっぱりフレイヤは古文書全てを読んでいたらしい。よくあの本で挫折しなかったな。僕は誤魔化すように笑うと父上がため息をついた。
「焔の神、そしてアイシクルの雪の女神もそうだが後継者が現れない限り死ぬことは出来ない。しかしそれは不老の力でしかないから不死というわけではないのだ。自ら命を絶てば死ぬ。誰かに刺されても死ぬ。神と言えど人間には変わりない」
すると父上は空いていた片方の手にも炎を宿す。そして錆びついた大扉に手をつけると、王族の力を解き放った。
「ヒートヘイズの先祖よ。呪いをまた生み出してしまうことをお許しください」
父上を先頭に僕とフレイヤは隣同士では走っている。時折フレイヤは僕の方を見て追いつけているかと確認をしてくれていた。
「父上!こちらの方角に何かあるのですか?」
「あまり知られてない場所だ。無闇に他言してはならぬ」
「国王様。この先は灼熱の洞窟がある場所です。耐熱装備をなさらなくて大丈夫でしょうか?」
「灼熱の洞窟には入らない。ただ馬が気温の熱さに耐えられないので少し前で降りるぞ」
「はい」
「かしこまりました」
フレイヤが言う灼熱の洞窟はヒートヘイズ領を見守る火山に繋がる洞窟だ。火山と言ってもしばらくはは落ち着いているようで、学者の話では噴火の可能性は低いだろうとのこと。
しかし洞窟の中は名前の通り灼熱の地獄で耐火装備が無いと火傷を覆ってしまう。例えヒートヘイズ王族の体質を持つ僕や父上でもあの場所では装備が必要だった。
「ここで降りる。馬は木にでも繋いでおけ」
父上が乗る馬が速度を落としたと思うとそのまま父上は地面に足をつける。僕とフレイヤも続けて降りて近くにある木の幹に綱を巻きつけておいた。
2日連続で馬に乗るとどうも腰が痛く感じる。乗馬の訓練の時間を設けるべきだろうか。後でヒダカと相談してみよう。
「こっちだ」
僕達は火山がある方面へと進む。しかし洞窟の入り口がある方向では無かった。
ここ一帯は木々に覆われていて少し薄暗い。あまり踏みしめたことがない土地なので余計にキョロキョロと周りを見てしまう。
「イグニ王子、足元にお気を付けください」
「ああ。ありがとう」
フレイヤはここに来たことがあるのだろうか。落ち着いた様子で父上の後を着いている。しかし何処となく警戒心を出しているのでもしもの時の場合に備えて居るのかもしれない。
ここはアイシクル領から結構離れているとはいえ、油断は出来ないからな。もし敵襲があれば真っ先に父上を守らなければ。
剣を持たない僕でも炎は扱える。この体が武器だ。
「2人ともあれを見てくれ」
「あれは……洞窟?でも遺跡のようにも見えます」
「私は騎士団の任務でここ付近も担当したことがありますが、あのようなものは初めて見ました」
「ここは入り組んでいて、尚且つ木々が生い茂っている。隠すのには最適だったのだ」
「父上、隠すとは?」
「とりあえず着いて来い」
父上が入って行ったのは地下に続く遺跡のような場所。洞窟とは違って中は白い石で創られていた。となるとこれは人工的に誰がが建てたのものだ。
父上は片手で炎を出すとたいまつ代わりに降りていく。僕はフレイヤを見て頷いて階段に足をつけた。
「ここは初代ヒートヘイズの国王が創ったとされる場所だ。しかし時が過ぎるうちに使われなくなってしまった」
「何をする場所なのですか?」
「炎の神を祀る場所。炎の祠だ」
階段を降りた僕達の目の前に現れたのは大きな扉。所々錆びついているが神秘的な雰囲気を出していた。
「アイシクルには氷の塔と呼ばれる場所がある」
「っ…」
「それに対するのはここ、炎の祠だ」
氷の塔の単語だけで肩が跳ねそうになる。それをグッと耐えてから僕は改めて大扉を見た。
「国にある古文書には焔(ほむら)の神と呼ばれる存在が居たと書かれているのを見たことがあります」
フレイヤは顎に手を当てて思い出したように話す。その古文書は僕も読んだことがある。
途中で挫折して全ては読めてなかったが、古き時代のヒートヘイズの暮らしや歴史が載っている本だった。フレイヤの推測に父上は頷いてから僕を見る。
「その通りだフレイヤ。炎の祠は焔の神が住まう場所である。ではイグニに問う。焔の神はどんな存在がなれるものだ?」
「確か、ヒートヘイズの王族の血を流していること。そして誰よりも炎を扱える器を持つ者…でしょうか?」
「正解だ。ちゃんと勉強はしているようだな」
途中しか読んでませんが。そんなことは口が裂けても言えない。
「この祠を使っていた当時のヒートヘイズは国王と焔の神がこの地を守っていた。国王は民を導き、焔の神は炎を導く。それぞれの役割で成り立っていたのだ」
「それでは何故無くなってしまったんだ…?」
「古文書では突如器となる者が居なくなってしまったと書かれていました。そして最後の焔の神は自ら命を絶って亡くなって以来、神は居なくなったとか」
「そ、そういえばそうだったな!」
やっぱりフレイヤは古文書全てを読んでいたらしい。よくあの本で挫折しなかったな。僕は誤魔化すように笑うと父上がため息をついた。
「焔の神、そしてアイシクルの雪の女神もそうだが後継者が現れない限り死ぬことは出来ない。しかしそれは不老の力でしかないから不死というわけではないのだ。自ら命を絶てば死ぬ。誰かに刺されても死ぬ。神と言えど人間には変わりない」
すると父上は空いていた片方の手にも炎を宿す。そして錆びついた大扉に手をつけると、王族の力を解き放った。
「ヒートヘイズの先祖よ。呪いをまた生み出してしまうことをお許しください」
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