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第三章
第39話
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9月2日
〈 生徒会室の窓からは、学校の屋上が見える。
少し遠くだけれども、立ち入り禁止の屋上で人影が見える。
簡単によじ登れるフェンスの向こうから、じっと地面を見つめている人がいる。
あの黒髪おさげの彼女は、今日もそんな屋上を見に来ている。
飛び込んでしまわないだろうか。心配だな。
なんていったって、あそこからは簡単に飛び降りることができる。
だから、立ち入り禁止なのに。
鍵が壊れているのを、彼女も知ってしまったんだ。 〉
9月4日
〈 今日もあのおさげ髪の彼女は、屋上の柵から、ずっと下を見ている。
地面をそんなに見ても、楽しいものが見えるはずがない。
屋上に行って下に何かが見えるのか確認したけれど、
そこにはただの地面しかなかった。
ただのアスファルトの、黒い地面だ。
飛び降りたら、ちゃんと死ねるくらいには固いけれど。
彼女はあそこから飛び降りてしまうのだろうか?
あの真っ黒な地面に、儚く命を散らしてしまうのだろうか?
あの子が飛び降りたところで、世界は何一つ変わらないのに。
自殺なんて、お願いだから考えないで欲しい。 〉
9月7日
〈 あの黒髪おさげの、屋上に現れる彼女を、今日は廊下で見た。
ついつい、興味本位で教室までこっそりついて行ってしまった。
どうやら二年生で、クラスでは委員長をやっているらしい。
真面目で正義感が強そうだ。
先生に好かれている様子だし、勉強もできそうな感じがする。
委員長に選ばれてしまって辛いのだろうか。
とても優しそうな子だし、一生懸命に仕事をしているのに、
何で屋上から地面ばかりを見るのだろうか。
まさかとは思うけれど、自殺考えているのだろうか。
でも、あんなにまじめな子が、自殺を考えるなんて信じられないけれど。
でも、彼女は確かに飛ぼうとしていると思う。
そういう、切羽詰まった感じがする。
命が燃え尽きて行く、そんな雰囲気を彼女からは感じる。 〉
9月9日
〈 彼女のことがもっと知りたい。
僕は、彼女のことを助けることができるだろうか。
助けるために、彼女のことをもっと知りたい。
知ったところで、何ができるかは分からないけれど。
何もできない僕だけど、彼女を救いたい。
悩んでいるなら話を聞くし、助けて欲しいと言ってくれるなら全力で助けたい。
でもいきなり僕が話しかけたら、気味悪がるんじゃないだろうか?
何で知っているんだと気持ち悪く思われてしまわないだろうか。
僕は君のことが知りたいけれど、君が僕のことを知りたいとは限らないから。
どうやったら、彼女を助けられるだろうか。
話を聞いてあげたら、思いとどまってくれるだろうか。
さて、どうしたものか。
神様、これはもしかして僕への試練でしょうか? 〉
9月10日
〈 自分の寿命があとどれくらいあるのかを彼女は知っているのだろうか。
今日も、彼女は屋上から地面を見ている。
どうも、様子がおかしい。
やっぱり、命を散らそうとしているように見えてしまう。
彼女には、そんなことをして欲しくない。
彼女は、あとどれくらい生きるんだろう。
分からないけれど、その限られた時間を、自分の手で縮めてしまうのは、
あまりにももったいない。
この世界には、きっともっと、楽しいことがある。
でも、僕の寿命は、あと三ヶ月しかない。
本当は死にたくないけれど、お医者さんがそう言うのなら、そうなんだろう。
ああ、あの空と同じ名前の女の子は、まだある寿命を縮めようとしている。
なんてことだろう。
僕は生きたいのに、彼女は死にたいんだ。
彼女の死にたい気持ちに気がついているのは、僕だけだろうか?
僕は、彼女を助けたい。
僕の分まで、生きていてほしい。
僕は死んでしまうのに。
神様はなんて意地悪なんだろう。
僕は、もっと生きたい。
まだ、やっていないことが多すぎる。
ああ、僕はどうしても生きることを手放したくないんだ。 〉
そこまで読んで、美空ははっとした。
「まさか――私の寿命が三ヶ月なんじゃなくて、先輩の寿命が三カ月だったの……?」
美空は思い出の中の夕を反芻する。
いつでも冷たい指先、よく生徒会室で貧血で休んでいるという噂。実際に美空と話すようになってからも、授業は頻繁に休んでいるのを美空も知っている。
抜けるような白い肌は、外で行う体育を見学するからで、最後にミサンガを巻いた腕が、明らかに細くなっていたのは――。
それらが意味するものの答えを、夕の日記はきっと教えてくれる。美空は鳴りやまない心臓を押さえつけた。呼吸を整えて、しっかりとノートを掴む。
美空は、ページをめくった。
〈 生徒会室の窓からは、学校の屋上が見える。
少し遠くだけれども、立ち入り禁止の屋上で人影が見える。
簡単によじ登れるフェンスの向こうから、じっと地面を見つめている人がいる。
あの黒髪おさげの彼女は、今日もそんな屋上を見に来ている。
飛び込んでしまわないだろうか。心配だな。
なんていったって、あそこからは簡単に飛び降りることができる。
だから、立ち入り禁止なのに。
鍵が壊れているのを、彼女も知ってしまったんだ。 〉
9月4日
〈 今日もあのおさげ髪の彼女は、屋上の柵から、ずっと下を見ている。
地面をそんなに見ても、楽しいものが見えるはずがない。
屋上に行って下に何かが見えるのか確認したけれど、
そこにはただの地面しかなかった。
ただのアスファルトの、黒い地面だ。
飛び降りたら、ちゃんと死ねるくらいには固いけれど。
彼女はあそこから飛び降りてしまうのだろうか?
あの真っ黒な地面に、儚く命を散らしてしまうのだろうか?
あの子が飛び降りたところで、世界は何一つ変わらないのに。
自殺なんて、お願いだから考えないで欲しい。 〉
9月7日
〈 あの黒髪おさげの、屋上に現れる彼女を、今日は廊下で見た。
ついつい、興味本位で教室までこっそりついて行ってしまった。
どうやら二年生で、クラスでは委員長をやっているらしい。
真面目で正義感が強そうだ。
先生に好かれている様子だし、勉強もできそうな感じがする。
委員長に選ばれてしまって辛いのだろうか。
とても優しそうな子だし、一生懸命に仕事をしているのに、
何で屋上から地面ばかりを見るのだろうか。
まさかとは思うけれど、自殺考えているのだろうか。
でも、あんなにまじめな子が、自殺を考えるなんて信じられないけれど。
でも、彼女は確かに飛ぼうとしていると思う。
そういう、切羽詰まった感じがする。
命が燃え尽きて行く、そんな雰囲気を彼女からは感じる。 〉
9月9日
〈 彼女のことがもっと知りたい。
僕は、彼女のことを助けることができるだろうか。
助けるために、彼女のことをもっと知りたい。
知ったところで、何ができるかは分からないけれど。
何もできない僕だけど、彼女を救いたい。
悩んでいるなら話を聞くし、助けて欲しいと言ってくれるなら全力で助けたい。
でもいきなり僕が話しかけたら、気味悪がるんじゃないだろうか?
何で知っているんだと気持ち悪く思われてしまわないだろうか。
僕は君のことが知りたいけれど、君が僕のことを知りたいとは限らないから。
どうやったら、彼女を助けられるだろうか。
話を聞いてあげたら、思いとどまってくれるだろうか。
さて、どうしたものか。
神様、これはもしかして僕への試練でしょうか? 〉
9月10日
〈 自分の寿命があとどれくらいあるのかを彼女は知っているのだろうか。
今日も、彼女は屋上から地面を見ている。
どうも、様子がおかしい。
やっぱり、命を散らそうとしているように見えてしまう。
彼女には、そんなことをして欲しくない。
彼女は、あとどれくらい生きるんだろう。
分からないけれど、その限られた時間を、自分の手で縮めてしまうのは、
あまりにももったいない。
この世界には、きっともっと、楽しいことがある。
でも、僕の寿命は、あと三ヶ月しかない。
本当は死にたくないけれど、お医者さんがそう言うのなら、そうなんだろう。
ああ、あの空と同じ名前の女の子は、まだある寿命を縮めようとしている。
なんてことだろう。
僕は生きたいのに、彼女は死にたいんだ。
彼女の死にたい気持ちに気がついているのは、僕だけだろうか?
僕は、彼女を助けたい。
僕の分まで、生きていてほしい。
僕は死んでしまうのに。
神様はなんて意地悪なんだろう。
僕は、もっと生きたい。
まだ、やっていないことが多すぎる。
ああ、僕はどうしても生きることを手放したくないんだ。 〉
そこまで読んで、美空ははっとした。
「まさか――私の寿命が三ヶ月なんじゃなくて、先輩の寿命が三カ月だったの……?」
美空は思い出の中の夕を反芻する。
いつでも冷たい指先、よく生徒会室で貧血で休んでいるという噂。実際に美空と話すようになってからも、授業は頻繁に休んでいるのを美空も知っている。
抜けるような白い肌は、外で行う体育を見学するからで、最後にミサンガを巻いた腕が、明らかに細くなっていたのは――。
それらが意味するものの答えを、夕の日記はきっと教えてくれる。美空は鳴りやまない心臓を押さえつけた。呼吸を整えて、しっかりとノートを掴む。
美空は、ページをめくった。
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