僕は君だけの神様

神原オホカミ

文字の大きさ
41 / 51
第三章

第39話

しおりを挟む
 9月2日
〈 生徒会室の窓からは、学校の屋上が見える。
 少し遠くだけれども、立ち入り禁止の屋上で人影が見える。
 簡単によじ登れるフェンスの向こうから、じっと地面を見つめている人がいる。
 あの黒髪おさげの彼女は、今日もそんな屋上を見に来ている。
 飛び込んでしまわないだろうか。心配だな。
 なんていったって、あそこからは簡単に飛び降りることができる。
 だから、立ち入り禁止なのに。
 鍵が壊れているのを、彼女も知ってしまったんだ。 〉


 9月4日
〈 今日もあのおさげ髪の彼女は、屋上の柵から、ずっと下を見ている。
 地面をそんなに見ても、楽しいものが見えるはずがない。
 屋上に行って下に何かが見えるのか確認したけれど、
 そこにはただの地面しかなかった。
 ただのアスファルトの、黒い地面だ。
 飛び降りたら、ちゃんと死ねるくらいには固いけれど。
 彼女はあそこから飛び降りてしまうのだろうか?
 あの真っ黒な地面に、儚く命を散らしてしまうのだろうか?
 あの子が飛び降りたところで、世界は何一つ変わらないのに。
 自殺なんて、お願いだから考えないで欲しい。 〉


 9月7日
〈 あの黒髪おさげの、屋上に現れる彼女を、今日は廊下で見た。
 ついつい、興味本位で教室までこっそりついて行ってしまった。
 どうやら二年生で、クラスでは委員長をやっているらしい。
 真面目で正義感が強そうだ。
 先生に好かれている様子だし、勉強もできそうな感じがする。
 委員長に選ばれてしまって辛いのだろうか。
 とても優しそうな子だし、一生懸命に仕事をしているのに、
 何で屋上から地面ばかりを見るのだろうか。
 まさかとは思うけれど、自殺考えているのだろうか。
 でも、あんなにまじめな子が、自殺を考えるなんて信じられないけれど。
 でも、彼女は確かに飛ぼうとしていると思う。
 そういう、切羽詰まった感じがする。
 命が燃え尽きて行く、そんな雰囲気を彼女からは感じる。 〉


 9月9日
〈 彼女のことがもっと知りたい。
 僕は、彼女のことを助けることができるだろうか。
 助けるために、彼女のことをもっと知りたい。
 知ったところで、何ができるかは分からないけれど。
 何もできない僕だけど、彼女を救いたい。
 悩んでいるなら話を聞くし、助けて欲しいと言ってくれるなら全力で助けたい。
 でもいきなり僕が話しかけたら、気味悪がるんじゃないだろうか?
 何で知っているんだと気持ち悪く思われてしまわないだろうか。
 僕は君のことが知りたいけれど、君が僕のことを知りたいとは限らないから。
 どうやったら、彼女を助けられるだろうか。
 話を聞いてあげたら、思いとどまってくれるだろうか。 
 さて、どうしたものか。
 神様、これはもしかして僕への試練でしょうか? 〉


 9月10日
〈 自分の寿命があとどれくらいあるのかを彼女は知っているのだろうか。
 今日も、彼女は屋上から地面を見ている。
 どうも、様子がおかしい。
 やっぱり、命を散らそうとしているように見えてしまう。
 彼女には、そんなことをして欲しくない。
 彼女は、あとどれくらい生きるんだろう。
 分からないけれど、その限られた時間を、自分の手で縮めてしまうのは、
 あまりにももったいない。
 この世界には、きっともっと、楽しいことがある。
 でも、僕の寿命は、あと三ヶ月しかない。
 本当は死にたくないけれど、お医者さんがそう言うのなら、そうなんだろう。
 ああ、あの空と同じ名前の女の子は、まだある寿命を縮めようとしている。
 なんてことだろう。
 僕は生きたいのに、彼女は死にたいんだ。
 彼女の死にたい気持ちに気がついているのは、僕だけだろうか?
 僕は、彼女を助けたい。
 僕の分まで、生きていてほしい。
 僕は死んでしまうのに。
 神様はなんて意地悪なんだろう。
 僕は、もっと生きたい。
 まだ、やっていないことが多すぎる。
 ああ、僕はどうしても生きることを手放したくないんだ。 〉



 そこまで読んで、美空ははっとした。

「まさか――私の寿命が三ヶ月なんじゃなくて、先輩の寿命が三カ月だったの……?」

 美空は思い出の中の夕を反芻する。

 いつでも冷たい指先、よく生徒会室で貧血で休んでいるという噂。実際に美空と話すようになってからも、授業は頻繁に休んでいるのを美空も知っている。

 抜けるような白い肌は、外で行う体育を見学するからで、最後にミサンガを巻いた腕が、明らかに細くなっていたのは――。

 それらが意味するものの答えを、夕の日記はきっと教えてくれる。美空は鳴りやまない心臓を押さえつけた。呼吸を整えて、しっかりとノートを掴む。

 美空は、ページをめくった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...