40 / 51
第三章
第38話
しおりを挟む
夕がいなくなった冬休み明けすぐの時には、話を聞いたクラスの女子たちに美空は大いに同情されていた。しばらくは、腫物を扱うようにみんな接してくれて、美空も心の傷が深くてみんなに迷惑をかけるほどに心配されていた。
しかし、それも日が経つにつれて話されなくなり、古い話題となった。まゆは何人目になるか分からない大学生の彼氏とつきあい、奈々も別の高校に通う人とつきあった。
誰も夕のことを語らなくなり、いつの間にか夕がとつじょ消えた胸の痛みは薄れていったが、美空は、いまだに誰ともつきあう気にはなれない。
失った痛みを埋めるのは、他の人をその傷口に埋め込むのではなくて、時間だけなのだと美空は理解した。一度他校生とカラオケに行って、美空のことを気に入ってくれた子から告白まがいのアプローチをされたのだが、美空は乗り気になれなかった。
未だに、夕のことを引きずっている。そんな気持ちのまま、他の人で傷口を埋めたところで、それは虚しいだけだし、相手にも失礼なことだと思っていた。
そうして何人かにアプローチをされて行くうちに、自分の気持ちが一ミリも動かないことを知り、時間こそが、全ての傷を癒す最高の手段なのだと気がついた。
傷が完全に癒えるのに、時間がかかるのであれば時などすぐさま過ぎ去れと悪態をつくのだが、春の風は心地よくそれを受け流してしまっていた。
青葉が芽生えて、その内に夏がやってくるだろうという予感を、みんなが胸の内に感じる頃に、家のポストに美空宛の封筒が届いた。
手紙はいつもならリビングの机に置いておくのだが、差出人が書かれていないそれを不思議に思った母親が、美空へとわざわざ手渡しした。
「誰からかしら、心当たりある?」
危ないものか、学校の誰かが届けてくれたものかしら、と母親は首をかしげる。美空は受け取ってから裏表を何度も見てみる。しかし、全く見当もつかない。間違いではないのは、宛名にはきれいな文字で坂木美空さまへと書かれているからだ。
不審に思いながらも、美空は少しだけ厚みのあるそれを持って口を尖らせた。
「うーん……部屋で開けてみる。ありがと」
部屋へ戻ってそれを眺め、そしてなぜか突然、胸がザワリとした。
触りながら中身を確認しようとして、そのサイズ感に覚えがった。美空はカッターを取り出すと、丁寧にそれを開けて行く。すると、中からB5サイズのノートが出てきた。
「まさか……」
急に、手が震え出す。血の気が引いて、真っ白になって行く。美空は奮い立たせると、自分の机の引き出しに大事にしまってあった、魔法のノートを取り出した。
そして、たった今封筒から取り出したノートを、机の上に置いて二冊を並べる。
「どうして……!」
全く同じサイズに、同じメーカー。おまけに、色まで同じだった。美空の心臓が、飛び上がったように血液を流し始める。あまりにも緊張と驚きが押し寄せてきて、耳の奥が痛くなる。
封筒を確認しようとしたところで、はらりと一緒に入っていた手紙が机に落ちて、美空はまずそれを広げて言葉を失った。
そこには、「息子のものです。受け取ってください」と一言、丁寧な文字で書かれている。
美空は震えた。よく使いこまれて、何度も読み返した跡があるB5サイズのノートを手に取ると、恐る恐る一ページ目をめくる。
開けた瞬間に飛び込んできた懐かしい文字に、美空は声が続かなくなった。
「先輩っ……」
ノートの一ページ目には、夕の文字がくっきりと書かれていた。
〈 僕は、君だけの神様だ――。
いずれ死にゆく君へ、最大級の愛を込めて。 〉
まぎれもなく、夕の筆跡だった。愛おしいその文字を見つめて、美空は空白が、自分の胸にぽっかりと開いた穴が埋まっていくような満足感に満たされた。
夕の魔法が、美空に届いた瞬間だった。それは、夕が書いていた日記だった。
しかし、それも日が経つにつれて話されなくなり、古い話題となった。まゆは何人目になるか分からない大学生の彼氏とつきあい、奈々も別の高校に通う人とつきあった。
誰も夕のことを語らなくなり、いつの間にか夕がとつじょ消えた胸の痛みは薄れていったが、美空は、いまだに誰ともつきあう気にはなれない。
失った痛みを埋めるのは、他の人をその傷口に埋め込むのではなくて、時間だけなのだと美空は理解した。一度他校生とカラオケに行って、美空のことを気に入ってくれた子から告白まがいのアプローチをされたのだが、美空は乗り気になれなかった。
未だに、夕のことを引きずっている。そんな気持ちのまま、他の人で傷口を埋めたところで、それは虚しいだけだし、相手にも失礼なことだと思っていた。
そうして何人かにアプローチをされて行くうちに、自分の気持ちが一ミリも動かないことを知り、時間こそが、全ての傷を癒す最高の手段なのだと気がついた。
傷が完全に癒えるのに、時間がかかるのであれば時などすぐさま過ぎ去れと悪態をつくのだが、春の風は心地よくそれを受け流してしまっていた。
青葉が芽生えて、その内に夏がやってくるだろうという予感を、みんなが胸の内に感じる頃に、家のポストに美空宛の封筒が届いた。
手紙はいつもならリビングの机に置いておくのだが、差出人が書かれていないそれを不思議に思った母親が、美空へとわざわざ手渡しした。
「誰からかしら、心当たりある?」
危ないものか、学校の誰かが届けてくれたものかしら、と母親は首をかしげる。美空は受け取ってから裏表を何度も見てみる。しかし、全く見当もつかない。間違いではないのは、宛名にはきれいな文字で坂木美空さまへと書かれているからだ。
不審に思いながらも、美空は少しだけ厚みのあるそれを持って口を尖らせた。
「うーん……部屋で開けてみる。ありがと」
部屋へ戻ってそれを眺め、そしてなぜか突然、胸がザワリとした。
触りながら中身を確認しようとして、そのサイズ感に覚えがった。美空はカッターを取り出すと、丁寧にそれを開けて行く。すると、中からB5サイズのノートが出てきた。
「まさか……」
急に、手が震え出す。血の気が引いて、真っ白になって行く。美空は奮い立たせると、自分の机の引き出しに大事にしまってあった、魔法のノートを取り出した。
そして、たった今封筒から取り出したノートを、机の上に置いて二冊を並べる。
「どうして……!」
全く同じサイズに、同じメーカー。おまけに、色まで同じだった。美空の心臓が、飛び上がったように血液を流し始める。あまりにも緊張と驚きが押し寄せてきて、耳の奥が痛くなる。
封筒を確認しようとしたところで、はらりと一緒に入っていた手紙が机に落ちて、美空はまずそれを広げて言葉を失った。
そこには、「息子のものです。受け取ってください」と一言、丁寧な文字で書かれている。
美空は震えた。よく使いこまれて、何度も読み返した跡があるB5サイズのノートを手に取ると、恐る恐る一ページ目をめくる。
開けた瞬間に飛び込んできた懐かしい文字に、美空は声が続かなくなった。
「先輩っ……」
ノートの一ページ目には、夕の文字がくっきりと書かれていた。
〈 僕は、君だけの神様だ――。
いずれ死にゆく君へ、最大級の愛を込めて。 〉
まぎれもなく、夕の筆跡だった。愛おしいその文字を見つめて、美空は空白が、自分の胸にぽっかりと開いた穴が埋まっていくような満足感に満たされた。
夕の魔法が、美空に届いた瞬間だった。それは、夕が書いていた日記だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる