19 / 26
惜別~バベルの塔~
バベルの塔~第4階層~
しおりを挟む
バベルの塔はもうすぐ第5階層。いよいよボスのご登場だ…を前にして、俺たちは立ち往生していた。
場所は第4階層最後の扉の前。目の前には深い崖があって、行く手を阻んでいる。
「あーもう、見えてるのに進めないのはイライラする!」
咲は剣で壁を何度も叩いた。
これもエンジェルセンスか?と一瞬思ったが、ただの地団駄だった。
そもそも、手の届く範囲に仕掛けは存在しない。
「エリカ、なにか分かる?」
「いえ、私も探っているのですが…怪しいものはなにも」
気配がわかるエリカにも、仕掛けの場所は見つけられないようだ。
有効範囲は目で見える範囲と言ったところか。これはひとつ収穫だ。
「私もこんな地形は聞いたことがないな…それにこの穴、どこまで続いているんだ?」
眼鏡は眼鏡を光らせながら、見えない底を覗き込んでいる。
「試しに降りてみるか?今なら後ろから蹴飛ばしてやるぞ」
うまくいけば合法的に落下死だ。
俺に非はない。
「命をかけて確かめる趣味はないよ。それより君こそ、突っ立ているだけではないか。何か策をめぐらせたらどうだい?」
策も何も、答えを教えてやったんだけどな。
この崖は深さ20メートルほどで、底にはスイッチがある。そいつを押すと橋が出来、扉までの道が作られる。
スイッチの効果についてはご丁寧に、石板が用意して書いてあった。誰が読むのかは甚だ疑問ではあるが。
「ここにいるのも飽きたわ。カケル、どうにかして」
「そんな雑な…まあ、いいけどさ。縄を俺の体に縛り付けて降ろしてくれ」
「おいおい、そこまで命をかける必要は…」
「分かったわ。大志、早くして」
「……」
眼鏡はついに、考えることをやめた。
☆☆
ただの縄が20メートルもあるはずはない。あってもせいぜい5メートルだ。
ぶっちゃけ何メートルでも関係ない。
これはただのフェイクだからな。降りた先に何かあったと思わせればそれで十分だ。
2メートルほど降りたところで、槍を右手で握った。
二度三度下に向けて振る素振りをしながら、意識を影へと溶かしていく。
スイッチは穴の底、真っ暗な影に覆われた中にある。
それをちょっと押すのなんて、指を動かすのと同じ感覚で出来る。
ガーーーーーっと音がして、地面が揺れる。そして下から橋が上がってきた。
橋の出来る仕組みまでは分かっていなかった。
魔法陣で召喚的なのを予想していたが、外れだった。
ま、なんでもいいけど。
「上げてくれー」
叫ぶと同時に、体は浮き上がっていく。
そして、地面に上がったと同時に、咲に抱きつかれ、頭を撫で回される。
「さすがカケルー、凄い凄い!偉い偉い!」
「咲、やめろ…」
抵抗虚しく、俺は3分間拘束された続けた。
眼鏡とエリカは止めるのを諦めていたようで、ずっと休憩していた。
☆☆
さて、いよいよ5階層。ボスのご登場だ。
ここまでの成果は、エリカの魔術に有効範囲があると分かったことぐらいか。
そう言えば眼鏡は何もしていない。実は無能なんじゃないだろうか?
「いよいよボスですね…」
エリカの言葉に緊張が込もった。それは眼鏡も同じようで、眼鏡に触れたまま呼吸を落ち着かせている。
意外だったのは、咲がテンパっていることだ。
「さてさて、どんなモンスターがでるのでしょうね」
普通に聞こえるが、咲が言うにはいささか弱気だ。
こいつは敵モンスターのことなんて気にしない。
出たとこ勝負ですべて倒すのだ。
さて、俺も確認しておくか…。
意識を影の中に溶かしていく。
地形は…確認完了。罠はない。
この先には広いボス部屋があるだけだ。
ボスは…いない…?それどころか、モンスター一匹いない。
あるのは床から壁、天井に至るまで、すべてを覆い尽くす影だけだ。密度がやたら濃い気がするが、なぜだろう。
「エリカ、なにか分かる?」
「やってみます」
エリカは右手の人差し指と中指を立てると額に当てると、目を見開いた。
赤と青のオッドアイが、青だけに変わっていく。
「千里眼!」
視線はじっと、ボス部屋に向けられる。
これがエリカの本当の力か…先ほどは目に見える範囲しか分からなかったようだが、今はどうなんだろうか。
「モンスターの気配すらしません」
「そう…」
咲はこわばった顔を浮かべながら、ふーっと息を吐いた。
ずっとおかしいと思っていたが、今回はあからさまだ。
こんなに余裕のない姿は、見たことがない。
「ねえカケル」
「なんだよ」
いつもと違う様子に、声が上ずった。
「私ね、カケルのことが好きよ」
「なんだよいきなり。そんなことは知っている」
上ずった声がさらに上ずった。
俺は何をやっているんだ?
それになぜか、体の奥底が熱い。
「分かってないわ。カケルが思っているよりもずっと、私はカケルのことが好きなのよ」
「急になんだよ」
「さあね…それじゃあ、行きましょう!」
場所は第4階層最後の扉の前。目の前には深い崖があって、行く手を阻んでいる。
「あーもう、見えてるのに進めないのはイライラする!」
咲は剣で壁を何度も叩いた。
これもエンジェルセンスか?と一瞬思ったが、ただの地団駄だった。
そもそも、手の届く範囲に仕掛けは存在しない。
「エリカ、なにか分かる?」
「いえ、私も探っているのですが…怪しいものはなにも」
気配がわかるエリカにも、仕掛けの場所は見つけられないようだ。
有効範囲は目で見える範囲と言ったところか。これはひとつ収穫だ。
「私もこんな地形は聞いたことがないな…それにこの穴、どこまで続いているんだ?」
眼鏡は眼鏡を光らせながら、見えない底を覗き込んでいる。
「試しに降りてみるか?今なら後ろから蹴飛ばしてやるぞ」
うまくいけば合法的に落下死だ。
俺に非はない。
「命をかけて確かめる趣味はないよ。それより君こそ、突っ立ているだけではないか。何か策をめぐらせたらどうだい?」
策も何も、答えを教えてやったんだけどな。
この崖は深さ20メートルほどで、底にはスイッチがある。そいつを押すと橋が出来、扉までの道が作られる。
スイッチの効果についてはご丁寧に、石板が用意して書いてあった。誰が読むのかは甚だ疑問ではあるが。
「ここにいるのも飽きたわ。カケル、どうにかして」
「そんな雑な…まあ、いいけどさ。縄を俺の体に縛り付けて降ろしてくれ」
「おいおい、そこまで命をかける必要は…」
「分かったわ。大志、早くして」
「……」
眼鏡はついに、考えることをやめた。
☆☆
ただの縄が20メートルもあるはずはない。あってもせいぜい5メートルだ。
ぶっちゃけ何メートルでも関係ない。
これはただのフェイクだからな。降りた先に何かあったと思わせればそれで十分だ。
2メートルほど降りたところで、槍を右手で握った。
二度三度下に向けて振る素振りをしながら、意識を影へと溶かしていく。
スイッチは穴の底、真っ暗な影に覆われた中にある。
それをちょっと押すのなんて、指を動かすのと同じ感覚で出来る。
ガーーーーーっと音がして、地面が揺れる。そして下から橋が上がってきた。
橋の出来る仕組みまでは分かっていなかった。
魔法陣で召喚的なのを予想していたが、外れだった。
ま、なんでもいいけど。
「上げてくれー」
叫ぶと同時に、体は浮き上がっていく。
そして、地面に上がったと同時に、咲に抱きつかれ、頭を撫で回される。
「さすがカケルー、凄い凄い!偉い偉い!」
「咲、やめろ…」
抵抗虚しく、俺は3分間拘束された続けた。
眼鏡とエリカは止めるのを諦めていたようで、ずっと休憩していた。
☆☆
さて、いよいよ5階層。ボスのご登場だ。
ここまでの成果は、エリカの魔術に有効範囲があると分かったことぐらいか。
そう言えば眼鏡は何もしていない。実は無能なんじゃないだろうか?
「いよいよボスですね…」
エリカの言葉に緊張が込もった。それは眼鏡も同じようで、眼鏡に触れたまま呼吸を落ち着かせている。
意外だったのは、咲がテンパっていることだ。
「さてさて、どんなモンスターがでるのでしょうね」
普通に聞こえるが、咲が言うにはいささか弱気だ。
こいつは敵モンスターのことなんて気にしない。
出たとこ勝負ですべて倒すのだ。
さて、俺も確認しておくか…。
意識を影の中に溶かしていく。
地形は…確認完了。罠はない。
この先には広いボス部屋があるだけだ。
ボスは…いない…?それどころか、モンスター一匹いない。
あるのは床から壁、天井に至るまで、すべてを覆い尽くす影だけだ。密度がやたら濃い気がするが、なぜだろう。
「エリカ、なにか分かる?」
「やってみます」
エリカは右手の人差し指と中指を立てると額に当てると、目を見開いた。
赤と青のオッドアイが、青だけに変わっていく。
「千里眼!」
視線はじっと、ボス部屋に向けられる。
これがエリカの本当の力か…先ほどは目に見える範囲しか分からなかったようだが、今はどうなんだろうか。
「モンスターの気配すらしません」
「そう…」
咲はこわばった顔を浮かべながら、ふーっと息を吐いた。
ずっとおかしいと思っていたが、今回はあからさまだ。
こんなに余裕のない姿は、見たことがない。
「ねえカケル」
「なんだよ」
いつもと違う様子に、声が上ずった。
「私ね、カケルのことが好きよ」
「なんだよいきなり。そんなことは知っている」
上ずった声がさらに上ずった。
俺は何をやっているんだ?
それになぜか、体の奥底が熱い。
「分かってないわ。カケルが思っているよりもずっと、私はカケルのことが好きなのよ」
「急になんだよ」
「さあね…それじゃあ、行きましょう!」
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
【完結】前世の記憶があっても役に立たないんですが!
kana
恋愛
前世を思い出したのは階段からの落下中。
絶体絶命のピンチも自力で乗り切ったアリシア。
ここはゲームの世界なのか、ただの転生なのかも分からない。
前世を思い出したことで変わったのは性格だけ。
チートともないけど前向きな性格で我が道を行くアリシア。
そんな時ヒロイン?登場でピンチに・・・
ユルい設定になっています。
作者の力不足はお許しください。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる