闇ギルドの影は目的を果たすために戦い続ける

夜納木ナヤ

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惜別~バベルの塔~

強制連行

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「私のカケルがいじめられていないか心配して来てみたんだけど…杞憂だったみたいだねえ」
「俺はお前のものではない。それに、そんな暇なやつはいないだろうよ」
「そう?カケル以上の男を私は知らないよ?…ということでっ、今から一緒に来てね!」

 さも当たり前のように腕を絡めてくると、空いている手を上に向けた。

「意味がわからん」
「クエストよ。カケルの力が必要なの」
「俺は死神らしいぞ。一緒に行ったら強いモンスターが出る」
「あらカケル、冗談のセンスがまた上がったわね。それに強いモンスターを倒しに行くんだから、出るのは当たり前じゃない」

 くっついたまま咲が歩き出すので、諦めて一緒に進んだ。
 どうせ逃げ出せないからな。

「あ、先生っ。カケル借りるね!」
「言う前に確認してほしいんだが…ま、いいさ」
「あ、あのっ、陽同院先輩っ」

 後ろから声がして振り返ると、エリカが立っていた。

「あらエリカ、昨日ぶり」
「はい、それで、私も連れて行ってくれませんか?」
「エリカも?んーどうしようかな…カケルはどう思う?」
「知らん。あと俺は行くとは一言も言ってない」

 ここぞとばかりに反論してみせる。
 が、やはり俺の意見は無視だった。

「んー…どうしよっかな…」

 咲の中には、最初から答えがある。
 エンジェルセンスによって、未来が見えているのだ。

 それでもたまに悩むことがある。
 理由を聞いたら、納得できない未来が見えることがあるからと答えていた。
 納得の中身は『乙女の秘密』らしく、教えてもらえなかった。

「大志はどう思う?」
「陽同院の適当な勘とは違って、早乙女後輩は根拠をつけられる。連れて行っていいんじゃないか」
「へえ…大志がそんなことを言うなんて珍しいね」
「彼女はマッドクラーケンと対峙して生き残っている。根拠のないことは嫌いだが、運は重要だ」

 咲はまだ悩んでいたようだが、意を決したように言った。

「分かった。それじゃあエリカ、一緒に来て」
「ありがとうございます!」

 エリカは頭を下げると、俺の後ろに立った。

「なんのつもりだ」
「逃さないよ?」
「あはははは、残念だったねカケル。美女二人に囲まれちゃ、断れないでしょー」
「美女って誰のことだ。俺には見えないぞ」
「このこの、照れちゃって」

 咲は頭をグリグリとしてくる。
 ったく…いつにもまして鬱陶しいし騒がしい。
 
「そうそうカケル、剣じゃなくて槍を持ってきてね。そうしないと、死んじゃうかもしれないから」

 最後の部分だけは、突き放したように冷たく、本気だった。
 無理やり連れて行こうとしているの身勝手なやつだ。

「チャンスかもよ」

 耳元で囁いたのは、エリカだった。
 咲の弱点を探るチャンス、か。
 今日はそういう気分じゃなかったんだが…まあいいか。

「そう言えば俺、自前の武器を持ち込んでねえわ」
「嘘でしょっ」

 咲が大声を上げた。
 
「着替えしか持ち込んでないから。あとはその辺で拾って使うつもりでいた」
「馬鹿なの?」
「咲にだけは言われたくない」
「酷くないっ!?」

 うるうると泣いたふりをする咲を無視して、武器をどうするか考える。

「槍ならばここにある」

 差し出されたのは煌びやかに光る真っ黒な槍だ。
 見たところ長さもちょうどいい。
 
 実際に手にすると、見た目よりも軽い。けれど触り心地もよくて手に馴染んだ。

「使いやすそうだ。それに、長さも丁度いい」
「君と戦った時のリーチに合わせて作らせてもらった」
「オーダーメイドかよ…しかも戦ったのって…二日前だぞ…」
「無礼を詫びるにはこれが一番だと思ってな。安心しろ、素材も上級品だ」

 うわー…何これ、振られた相手とヨリを戻そうとしてプレゼントするぐらいの重さじゃね?
 けど、ここで断るともっと重く…じゃなかった、面倒なことになりそうだ。

「どうだろうか?」
「ああ、丁度いいから使わせてもらう」
「ならばよかった。これでクエストの準備は整ったな」
「ええ、さあ行きましょう!目的地はバベルの塔よ!」

 咲は楽し気に宣言した…のだが、場は静寂に包まれた。

 それから数秒後…。

「えええええええええええええええええええええええええ」

 クラス中の叫びが響き渡る。
 エリカは目と口をまん丸に開き、口だけは慌てて手で隠した。
 徹矢と渉なんて驚きで固まっている。

 バベルの塔はモンスターが大量に出るダンジョンだ。
 前触れもなく、どこにでも出現する。放っておけばモンスターが中から出て来て被害が出る。
 時間が経てば勝手に消えるのだが、半年後なのか、一年後なのかは分からない。

「カ、カ、カ」

 エリカは口をぱくぱくさせながら何かを言おうとしてる。
 影がなくてもこれはさすがに分かる。俺の仕業じゃないのか疑っているのだろう。
 首を横に振って否定すると、さらに動揺していた。
 

「そう言えば咲、学園にいる理由は危機が迫っているからと言っていたな。このことか?」
「難しいことは分からないけど、行ってみればわかるんじゃない?」

 だからお前はどうして…そんなピクニックにでも行くような笑顔を浮かべているんだよ…。
 少しは周りの動揺を気にしてもいいんじゃないだろうか。

 って、あれ?
 触れられている咲の影がやけに揺らぐ。
 これはまるで…震えている様だ。

「咲、お前…」
「大丈夫!無事に帰ってきて、カケルは凄いんだって証明しないと!」
「そういうのは別に…」
「さあ、行くよー」

 いつもよりも声を張り上げると、無理やり引っ張られた。
 こいつ…何か隠しているのか?
 
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