闇ギルドの影は目的を果たすために戦い続ける

夜納木ナヤ

文字の大きさ
上 下
14 / 26
再会~敵か味方か~

影になった日

しおりを挟む
 闇のギルドに入る前、俺は普通よりもちょっといい家で暮らしていた。
 両親は世間体ばかり気にして、学校でいい成績を取ることを強要してきた。
 けれど俺は知っていた。
 実際に会社を回していたのは有能な別の人物で、二人は出社しても騒ぐだけの、煙たがられてる存在だということを。

 それでも、ちょっとでも成績が悪いと罵倒をしてくる。
 俺は、どうしたら怒られないのか考えた。だが、答えなんてなかった。満点をとっても、彼らは文句を言うのだ。

 そんな俺の憩いは、夕方の公園だった。
 ここに来れば同い年の友達がたくさんいて、大人の社会のことは忘れていられた。
 特に仲の良かった女の子がいて、彼女は帰り際にポニーテールを揺らして走っていくと、公園の前で必ず振り向き、手を振ってくれた。
「また明日」と。

 いつもどおりに遊んでいたある日、公園にモンスターが現れた。なんてことない、Fランクのモンスターだった。
 けれど子供には荷が重すぎた。俺たちは次々と食われていった。

 粗暴な奴で、一人は腕だけを食われ、一人は足だけを食われた。
 それはまるで、生き地獄だ。
 痛みだけを残し、すぐには死ねずに悶え苦しむ。

 そして俺もそいつに食われた。
 何を思ったのか、俺だけは、腕も、足も食われた。残ったのは頭と胸から上だけ。
 そこらじゅう熱くて、最早痛みは感じなかった。

 俺は死ぬ。
 そう持った時に浮かんだのは、両親の顔だった。
 走馬灯って奴だろう。
 俺を罵倒し、見下したような態度…どうして俺は、そこまで虐げられないといけなかったんだ?
 俺が子供だから?…いや違う。弱いからだ。
 
 あいつらはモンスターと同じだ。
 自分の方が優位と思っているから、好き勝手やるのだ。目の前にいる、こいつのように。

 きっと俺の顔は、恨みや憎しみで歪んでいる。
 このまま死ぬなんて耐えられない…せめて、あいつらの顔を俺以上の苦痛で歪ませてからではないと。

 そう思った瞬間、ひらめいた。
 どうせみんな体の一部しか残っていないんだ。
 だったらそれをかき集めて、俺の体にすればいい!

 突如、俺を中心に魔法陣が浮かび上がった。
 原理は今も分からない。分かっているのは、倒れている奴らの影が集まってきたことだ。
 傷はふさがり、食われたはずの腕も、足も再生されていった。さっいまで感じていた熱はどこにもない。
 
 立ち上がろうとしたが、体に力が入らない。
 痛みもないのになぜ?

 ふと、目の前で女の子が襲われていた。
 仲のいいあの子だ。
 
 あの子だけは…エリスだけは痛い目に合わせられない!
 そう思った瞬間、俺は叫んでいた。

「代償はいくらでもくれてやる!だからっ、動けよ俺の体!」

 何が起こったわけでもない。
 けれど体は軽かった。

 エリスの前に立つと、モンスターをぶん殴った。
 一撃だった。そいつは倒れ、動かなくなった。

「やった!」

 俺が振り返ると、彼女は怯えていた。
 なぜだ?俺が守ったのに。

 手を伸ばそうとすると、拒否された。
 
「どうして…」

 俺の声に、か細い声が答えた。

「影が…」
 
 言われて気がついた。
 女の子の影が、俺の影に吸収されているのだ。

 そして女の子から、影は消えた。
 モンスターに襲われ、怯えていた顔はさらに歪み、走り去っていた。

 次の日、公園は閉鎖され、俺がエリスに会うことは二度となかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...