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32.屋根裏部屋の不思議な小箱②(怖さレベル:★☆☆)
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それから、彼のうちで遊ぶときには、
この秘密基地にこもることが多くなりました。
さすがにTVゲームは持ち込めないし、
訪れる時間によっては暗くてとてもいられないこともあって、
毎回というわけにはいきませんでしたが。
そこで遊ぶたびに、オレもコースケ君も、
例の小箱を力ずくで押したり引いたり叩いてみたり、
やれるだけのことはやってみました。
一度、水に濡らしたり、マッチであぶってみたりなど
考えられる手段をいろいろ使ってみましたが、
これがまた、まったく動く気配すらありませんでした。
「片岡ぁ、今日もやるぞ!」
「うん」
その日も彼のうちにお邪魔することになり、
いつものように脚立を伝い、
屋根裏部屋へと移動します。
何度も訪れたそこはすっかりオレたちの
秘密の部屋と化していて、
空っぽだった空間には、マンガ雑誌や持ち込まれた
お菓子などがバラバラと点在していました。
「今日はとっておきのヤツ、持ってきたんだぜ!」
彼が背負ったリュックの中から、
何やらゴソゴソと取り出します。
小さな袋に入った白い粉と、
小粒のガラス玉が連なったリング。
「……塩、と、数珠?」
なぜそんなモノが出てくるのだろう、と
疑問符を飛ばしていると、
「おう! こないだ葬式であんなような箱を
見たんだ。だからやってみよーと思ってさ」
葬式で、黒い箱?
オレは自分の行ったことのある葬式を思い返しつつ、
首を傾げていましたが、
彼は上機嫌で箱の前に陣取り、
さっそく白い粉を手にとりました。
「えっと……どうやるの?」
「わかんねぇ! 葬式の箱はフツーに開いてたし。
でもたぶん、こうやって……」
ブツブツと呟きつつ、彼はその小袋を開けて、
中身をすべて箱にぶちまけます。
「えーっと、そんで、えいやっ!」
右手に持っていた数珠を、
バシン! とその箱に叩きつけたのです。
「あっ」
バラバラバラ……。
箱に打ち付けられた数珠は、
無残にも紐がちぎれて崩れ去ってしまいました。
「うへぇ……母ちゃんに怒られる……」
「あ、コースケ君、みてみて!」
あわあわと焦る彼の肩を、
オレは思わずむんずと掴みました。
「開いてる……開いてるよ!!」
今の衝撃のせいでしょうか。
それとも本当に、塩と数珠の効果ゆえか。
何をしても開くことの無かったあの箱の蓋――
それがほんの僅か、動いていたのです。
「うわ、マジか……っ!」
ゴクリ、とコースケ君が息を飲みました。
オレも、いざ開いてしまったそれを前にすれば、
どうにも躊躇してしまって、手を出すことができません。
「……よし。オイ、片岡。
オレが塩とか数珠とかやったんだからさ、
お前が開けろよ」
「えっ、ええっ!?」
不意に彼に指名され、オレはおののきました。
「フタ、動かしたんはオレだろ?
お前もちょっとはコーケンしろよ」
と、彼はあっけらかんと言い放ちました。
確かに、オレは彼のやることをずっと眺めていただけで、
何もしていません、
そう言われてしまえば、オレとて一介の男、
グッと唇を引き結んで、例の小箱の前にしゃがみこみました。
「……。……っ、行くよ」
「……おう」
緊張で震える指先にギュッと力を込めて、
箱の蓋を両手でしっかり握り――
グッ、と上に動かしました。
パカッ。
開けるまでの苦労がウソであったかのごとく、
あまりにあっけなくそれは動きました。
そして、それがどけられたその先には。
「……へ、え?」
紙きれが、一枚。
ふかふかとした銀色のクッションの上に、
土色にしおれた紙が収まっていたのです。
「なんだ……こりゃ?」
後ろから覗きこんでいたコースケ君が、
ひょいっとそれを手にとります。
「うわ、古っ…それに、汚ねぇ」
彼の持つそれをまじまじと見やれば、
なにかシミのようなものまで滲んでいます。
表面には、読めないくらい画数の多い漢字が、
なにごとかびっしりと書き込まれていました。
「あ、それ……お札、じゃないかな」
「お札? ああ、アレか。お化け退治に使うやつか」
「うん、たぶん……」
小学生のお札への認識なんてその程度のものです。
オレはその札を物珍しそうに眺める彼を放置し、
開いた箱の方に目を向けました。
「コースケ君、それ、箱に戻さなくていいの?」
「お札だろ? カッケーから、これ、お守りにする!」
彼はその札を掲げるように持ち上げ、
ウロウロと上機嫌で歩き回っています。
「えーっ、ズルい!」
「あー……じゃ、半分こにするか!」
言うが早いか。
彼はなんの躊躇もなく、
それを真っ二つに引き裂いてしまったのです。
「えっ……こ、コースケ君!?」
「キレーに分かれたな! ほら、半分」
カラリと笑った彼は、悪気もなくその半分をオレに手渡し、
自分もその半分を大事そうにズボンのポケットに差し込みました。
「よし! 目標達成だな!
あとは下でゲームでもやろうぜ」
「う、うん……」
ニコニコと満面の笑みの彼は、
放られていた箱を屋根裏の隅へ戻し、
いつもの出入り口から下を覗きました。
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この秘密基地にこもることが多くなりました。
さすがにTVゲームは持ち込めないし、
訪れる時間によっては暗くてとてもいられないこともあって、
毎回というわけにはいきませんでしたが。
そこで遊ぶたびに、オレもコースケ君も、
例の小箱を力ずくで押したり引いたり叩いてみたり、
やれるだけのことはやってみました。
一度、水に濡らしたり、マッチであぶってみたりなど
考えられる手段をいろいろ使ってみましたが、
これがまた、まったく動く気配すらありませんでした。
「片岡ぁ、今日もやるぞ!」
「うん」
その日も彼のうちにお邪魔することになり、
いつものように脚立を伝い、
屋根裏部屋へと移動します。
何度も訪れたそこはすっかりオレたちの
秘密の部屋と化していて、
空っぽだった空間には、マンガ雑誌や持ち込まれた
お菓子などがバラバラと点在していました。
「今日はとっておきのヤツ、持ってきたんだぜ!」
彼が背負ったリュックの中から、
何やらゴソゴソと取り出します。
小さな袋に入った白い粉と、
小粒のガラス玉が連なったリング。
「……塩、と、数珠?」
なぜそんなモノが出てくるのだろう、と
疑問符を飛ばしていると、
「おう! こないだ葬式であんなような箱を
見たんだ。だからやってみよーと思ってさ」
葬式で、黒い箱?
オレは自分の行ったことのある葬式を思い返しつつ、
首を傾げていましたが、
彼は上機嫌で箱の前に陣取り、
さっそく白い粉を手にとりました。
「えっと……どうやるの?」
「わかんねぇ! 葬式の箱はフツーに開いてたし。
でもたぶん、こうやって……」
ブツブツと呟きつつ、彼はその小袋を開けて、
中身をすべて箱にぶちまけます。
「えーっと、そんで、えいやっ!」
右手に持っていた数珠を、
バシン! とその箱に叩きつけたのです。
「あっ」
バラバラバラ……。
箱に打ち付けられた数珠は、
無残にも紐がちぎれて崩れ去ってしまいました。
「うへぇ……母ちゃんに怒られる……」
「あ、コースケ君、みてみて!」
あわあわと焦る彼の肩を、
オレは思わずむんずと掴みました。
「開いてる……開いてるよ!!」
今の衝撃のせいでしょうか。
それとも本当に、塩と数珠の効果ゆえか。
何をしても開くことの無かったあの箱の蓋――
それがほんの僅か、動いていたのです。
「うわ、マジか……っ!」
ゴクリ、とコースケ君が息を飲みました。
オレも、いざ開いてしまったそれを前にすれば、
どうにも躊躇してしまって、手を出すことができません。
「……よし。オイ、片岡。
オレが塩とか数珠とかやったんだからさ、
お前が開けろよ」
「えっ、ええっ!?」
不意に彼に指名され、オレはおののきました。
「フタ、動かしたんはオレだろ?
お前もちょっとはコーケンしろよ」
と、彼はあっけらかんと言い放ちました。
確かに、オレは彼のやることをずっと眺めていただけで、
何もしていません、
そう言われてしまえば、オレとて一介の男、
グッと唇を引き結んで、例の小箱の前にしゃがみこみました。
「……。……っ、行くよ」
「……おう」
緊張で震える指先にギュッと力を込めて、
箱の蓋を両手でしっかり握り――
グッ、と上に動かしました。
パカッ。
開けるまでの苦労がウソであったかのごとく、
あまりにあっけなくそれは動きました。
そして、それがどけられたその先には。
「……へ、え?」
紙きれが、一枚。
ふかふかとした銀色のクッションの上に、
土色にしおれた紙が収まっていたのです。
「なんだ……こりゃ?」
後ろから覗きこんでいたコースケ君が、
ひょいっとそれを手にとります。
「うわ、古っ…それに、汚ねぇ」
彼の持つそれをまじまじと見やれば、
なにかシミのようなものまで滲んでいます。
表面には、読めないくらい画数の多い漢字が、
なにごとかびっしりと書き込まれていました。
「あ、それ……お札、じゃないかな」
「お札? ああ、アレか。お化け退治に使うやつか」
「うん、たぶん……」
小学生のお札への認識なんてその程度のものです。
オレはその札を物珍しそうに眺める彼を放置し、
開いた箱の方に目を向けました。
「コースケ君、それ、箱に戻さなくていいの?」
「お札だろ? カッケーから、これ、お守りにする!」
彼はその札を掲げるように持ち上げ、
ウロウロと上機嫌で歩き回っています。
「えーっ、ズルい!」
「あー……じゃ、半分こにするか!」
言うが早いか。
彼はなんの躊躇もなく、
それを真っ二つに引き裂いてしまったのです。
「えっ……こ、コースケ君!?」
「キレーに分かれたな! ほら、半分」
カラリと笑った彼は、悪気もなくその半分をオレに手渡し、
自分もその半分を大事そうにズボンのポケットに差し込みました。
「よし! 目標達成だな!
あとは下でゲームでもやろうぜ」
「う、うん……」
ニコニコと満面の笑みの彼は、
放られていた箱を屋根裏の隅へ戻し、
いつもの出入り口から下を覗きました。
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