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48話 ~再会~
しおりを挟む「なっ、なによ、この声は……!?」
「うっ、なんか、頭に響くみてぇな感じがするぜ……」
エリアスとヴィルクリフの二人が、狼狽した様子で耳をおさえた。
腹の底に響くような、宙から発せられた声のような、非常に不可思議な声だ。
ハッとしてあたりを見回せば、優雅に毛づくろいをしている伝説の鳥の姿がある。
これは、まさか。
この古風なしゃべり方、そして少年のような声、は。
「き……昨日の……魔力 タダ食い 少年!?」
ビシィ、と思わず指を鳥へつきつけた。
勢いでエプロンのすそがバサッとめくれかけたが、もう片方の手で死守する。
『タダ……ひどい言われようじゃのぉ』
しかし、鳥はまったく気にせず、ヤレヤレと言わんばかりに長い首を左右に振った。
『いやぁ、ひさしぶりの魔力は効いたわ。おかげで、鳥の姿に戻れたしのぉ』
バサァッ、と神鳥は大きく飾り羽を広げた。
半円状に広がった白い羽が、キラキラと光ってとても美しい。
後光の差す鳥の姿に、昨日の半透明だった美少年の面影が重なった。
確かに、あの少年を鳥に変えたら、こんな感じかもしれない。
「えっ……ハナ、あんた……なんで、いたってふつうにテルペロン鳥様と会話してんの……??」
しかし、まったく状況のわかっていないエリアスとヴィルクリフは、完全にヤバいものを見る目で私を見ていた。
あっこれはヤバい。ちゃんと釈明しないと。
私はアワアワと二人の前で両手を振った。
「えっと、昨日……いや、今日の深夜? にですね……そこの泉から、このテルペロン鳥の本体? に出会いまして……まぁその時にイロイロと……」
「いや、なんでそんなに説明がフワフワしてんだ」
夜。泉から出てきた美少年に魔力を吸われた。
言ってしまえばそれだけだ。
しかし、それを神鳥と結び付けてどう説明すればいいか考えていたら、なんだかわやわやになってしまった。
「あー、えぇとですね。私にもなんだかよくわかってなくって……えぇと、テルペロン鳥さん? ご説明を……」
思わず、目の前の鳥に頼み込む。
すると神鳥は、大仰にファサッと羽を広げると、くちばしを広げた。
『うむ、そうじゃな。昨日、おぬしらは泉の前でバタバタやっておったじゃろ? 実は、アレでひさびさに目覚めたんじゃが』
「あっ……そ、その節は申し訳ございません……」
『まぁそれはよい。旅人が休むためのオアシスじゃからな』
エリアスの恐縮した謝罪にも、鳥はサッパリと言った。
神と呼ばれているわりに、あまり厳しい性格ではないようだ。
『起きてみたら、そこに珍妙な魔力の持ち主がいたわけじゃ。莫大な力が、ダダ漏れ状態であふれさせておる。それなのに、本人はちっとも衰弱していない。なんとも不思議じゃ。ありえない、と言ってもいい』
ジッ、とするどい青い瞳が私を見る。
小さな鳥の瞳だというのに、妙なすごみがあった。
『だからのぉ、ちょっと試しに、魔力を分けてもらったんじゃ。ひさびさの力は効いたのぉ。おかげで、本来のこの鳥の姿にもなれたわけじゃ』
そう言って、テルペロン鳥は言葉を締めくくった。
「ハァ……なるほど……?」
しかし、ヴィルクリフはまったく理解できてない。
ぽかんと口を大開きにして、あいまいに頷いてはいるが。
「テルペロン鳥様のお力が弱まっていた、ということは……この地の力は、衰弱しているのでしょうか?」
エリアスが眉をひそめた。
彼の実家が納めている土地の一部だ。確かに、気になるところかもしれない。
『いや、それは問題ない。わしという個体の問題じゃ。……まぁそれはともかく、じゃ。おぬしら、どうやら行く先を迷っておるようじゃのぉ』
神鳥は白く長いくちばしを、ツン、と空へ向けた。
『せっかく魔力をもらったんじゃ。道案内をかってでてもよいぞ』
「エッ!? ほんとにいいんですか!?」
なんと。
昨晩、突然に魔力を奪われてしまい、もし相手が悪いヤツだったらどうしよう、なんて少し気に病んでいたのだ。
それが、こうして返ってくるなんて!
やはり、情けは人の為ならず、の格言は正しかった。
「え、エリアスさん、じゃあ……」
「そ、そうね。……では、僭越ながら。当バルシュミーデ家までの道をご教授いただけないでしょうか?」
兵士の作法なのか、エリアスは丁寧な仕草で鳥の前にひざをつき、頭を垂れた。
「恐れながら、わたくしはバルシュミーデ家の三男なのです。事情があり、家へ戻りたいのですが……見ての通り、ここがどこかもわからず、迷ってしまって」
『フム……そうか。おぬしはバルシュミーデの子孫であったのか。なれば、なおさら手を貸してやらねばならぬなぁ』
テルペロン鳥は、小さな足をペタリペタリと踏み出して、ひざをついたエリアスの目の前に立った。
そのまま、土に片手をついた彼の手の甲に、飾り羽から引き抜いた真っ白い羽を一枚載せる。
『バルシュミーデ家の子孫よ。お主の名は?』
「はい。わたくしは、エリアスと申します」
『エリアスか。……そっちの二人は?』
と、ボーっとイケメンと美鳥の絵になる構図を見守っていた私たちへ向けて、とつぜんくちばしが向いた。
とっさに、となりに立つヴィルクリフの腰をひじでつつく。
「あ痛ッ……お前な。っ、こほん、えぇと、おれ……じゃない、わたし、は……ヴィルクリフ、と申します」
「はい、えぇと、私はハナ、です。どうも」
『ヴィルクリフにハナか。……言うまでもないかもしれんが、わしはテルペロン鳥じゃ。よろしくな』
鳥はエリアスからスッと離れると、こちらに向けて優雅に飾り羽を振って、仕舞った。
あの孔雀特有の大きな羽が見えなくなると、とたんに目の前の鳥が小さく見える。
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