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47話 ~神鳥~
しおりを挟む「で、その黄金の果物……どうすんだよ」
「う、売れば大金に……?」
「まぁ、たしかに資金源にはなるかもしれないけど……肝心の町も村も、今は見当たらないしねぇ」
と、エリアスは濡れた顔をこすってから、ふぅとため息をついた。
そんな二人のどこかスレたリアクションに、私は思わずブンブンと両手を振った。
「お、黄金だよ、黄金!! 二人とも、もっとテンション上げてくださいよ!!」
「テン……? だってよぉ、あの宝物庫からここに飛ばされたんだぜ? なんつーか、金は食傷気味っつーか……」
「そうねぇ。もちろん、あるに越したことはないのよ? もちろん。でも、果物が突然金に変わった不気味さの方が勝るというか」
「ぶ、不気味って言うなよ!!」
あまりの言いざまに一瞬敬語が外れた。
ぽかんとする二人を前に、コホン、と咳払いしてから気を取り直す。
「まぁ、いいです。……それで、これからどうしましょう? どうやら、日も上ってきたみたいですけど」
わーわーやっている間に、空がだんだんと白んできた。
遠く荒地の向こうからは、真っ赤な太陽の光も見える。
この世界でも、太陽はこうして上るんだなぁ、と、ちょっとだけ感傷に浸っていると、
「そうねぇ……方角はわかるけれど。今の位置がどこなのかが問題よねぇ」
「あー……テキトーに進んでみるしかないよなぁ?」
この場に、地図もなければ目印となるようなものもない。
ただ、ここはエリアス家の領地の可能性が高い。
どこかの村か町に着ければ、そこから道筋がわかりそうではあるけれど――。
チピピピピ……
「ん? ……なんだ、この鳴き声」
まるで、鳥のような鳴き声だった。
それも、ただの鳥ではない、のびやかで美しい、不思議な響きの。
思わずエリアスとヴィルクリフと目を合わせ、声のした方を見る。
泉のそばにうっそうと生い茂る木々の間。
その間から、白い羽のようなモノが見えた。
「なんだろう……白鳥……??」
私が思わず立ち上がれば、鳥の方もこちらに気づいたのか、サッと全身を現した。
「え……く、孔雀……!?」
まっ白な、美しい鳥だった。
まっすぐにこちらを見つめる青い瞳と、大きく広げられた飾り羽。
太陽の光を受けて羽全体が光り輝き、まるで、神の使いでもあるかのように神々しい。
(え、でも……孔雀にしては……小さっ!!)
思わず両手を口に当てて、ぽかんとする。
大きさは、だいたいニワトリと同じくらい。
いや、それよりも小さいかもしれない。ウズラくらいだろうか。
それでも、その鳥のまとうオーラと美しさは、とんでもなかった。
周囲の青い泉や生い茂る緑すらも、その孔雀の白さを際立たせるために存在している。そんな錯覚すら感じるほどに。
私もエリアスもヴィルクリフも、しばらく言葉を失った。
「え、なんだ、あの鳥……すげぇ神々しくないか……?」
いち早く衝撃から回復したヴィルクリフが、ザザザッと後ずさった。
「ですね……あんまりにもキレイすぎて、なんか怖いんですけど……これ、逆に地獄の使者だったり、なんてことは……??」
キレイなものにはトゲがある。
脳裏に、そんな格言がパッと浮かんだ。
なにせ、この世界に来てから、規格外のことが多すぎる。
これがなにかしらのワナであってもおかしくない。
と、私が警戒心100パーセントの目を鳥に向けると、となりでエリアスがすっとんきょうに声を裏返した。
「なっ、なに言ってるの!? こ、この鳥は……うちの領地では神の鳥とあがめられている、伝説の鳥、テルペロン鳥よ!!」
「……テル、ペロン……?」
なんだその、まったくありがたくなさそうな名前は。
内心の感想を押し殺して、コホンと咳払いしてエリアスを見た。
「えっと……で、伝説の鳥、なんですか? あれ」
「そうよ! あんたね、地獄の使者なんて……いくら知らなかったとはいえ、ほんと、バチ当たるからね……!」
「えっ、バチ!? もう当たってるんじゃないかってほど不幸続きなのに、これ以上なんてそんなまさか……!!」
「お前、そんなんだから災い引き寄せてんじゃねぇか?」
辛辣なツッコミを入れるヴィルクリフをシカトしつつ、神鳥とやらを見た。
三本の白い指が、ジリッ、と土を踏む。
体がわずかに動き、白い羽がバサリと翻った。
すごい、キレイ。キレイだけど、なんか――既視感。
ジーッと、凝視する。鳥も、私を見ている。
(なんだろう……この感じ)
「えぇと……エリアスさん、あの鳥って、現れるとなにかイイコトとかあるんですか?」
「一応、吉兆を知らせると言われているわ。はるか昔から生きていて、迷い子を導く、とも……」
と、エリアスは記憶をたどるようにこめかみに手を押し当てた後、ハッと顔を上げた。
「迷い子……まさか!」
「道案内してくれる、ってことか? ……と、鳥が?」
半信半疑、というよりも疑い100パーセントの顔でヴィルクリフはうさんくさそうに神鳥を見た。
私も、エリアスも、ヴィルクリフも、そろって鳥を見る。鳥も、私たちを見る。
四対の瞳が、バッチリと交差し合った。シン、と静まり返る、その空間。
「……エリアスさん」
「ん? なにかしら」
「えぇと……あの鳥って、その、食用になったりは」
「やめなさい。ホント、やめなさいよ」
「あー、おれも気になることがあるなぁ。あれ、すげぇキレイだろ。いったいいくら位で売買されて」
「き、金額なんてつくわけないでしょ!! ま、幻の鳥なのよ!! 幻、の!!」
髪を振り乱して怒るエリアスが面白くて、完全に不謹慎かつ不毛な会話をくり広げていると、
『……まったく。敬おうという気があるのは、そこの金髪の若者だけか』
と、ゆったりした声が響き渡った。
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