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35話 ~プレゼント~
しおりを挟む「なにか……なにか、そういう探り当てる系の……サーチ系の魔法とか使えたら……!!」
この、体をめぐる魔力とやらで、そういう便利能力が発動できないものだろうか。
グッ、とまた手のひらに力をこめて、金の山へ向かってつきだした。
「……ふっ……ぐぐ、っ……!」
五秒、三十秒、一分。
なにも起きない。不発だ。
「…………」
残念な目でヴィルクリフがこちらを見た。やめろ。見るな。
ゲロッ……
と、この広い空間の入口でシュンとしていた巨大ガエルが、私たちの様子を見て、ノロノロと近寄ってきた。
「あれ、どうかした?」
カエルは、ズズッと巨体を動かしながらさらに近づき、おずおずと口から黄色い舌を伸ばしてきた。
「んん?」
なんだろう、と舌の先を見ると、なにか小さいものが光っている。
これは『どうぞ』ということなのだろうか。
「えっと、くれるの? ……って、コレ」
手のひらを差し出すと、そっ、と小さな物体が乗せられた。
なにかイイモノだろうか、とまじまじと見る。と。
「えーっと……っ、ぎゃあっ!? 虫!?」
ヌラリと光る、大型のコガネムシもどき。
それが、もぞっ、と手のひらの上に乗ったのだ。
「いいいいいらないっての!!」
ビターン!! と思わず地面に叩きつければ、どうやらまだ息があったらしく、ピクピクッ、と足が動いた。グロい。
「あ~……さっき食事の話したから、かしらね。たべものを分けてくれようとしたんじゃない?」
「うっ……善意……でも……う、うう……っ!」
カエルは叩きつけられたコガネムシを悲しそうに見つめると、ピャッ、と長い舌を伸ばしてペロリ、と食べた。
視界からアレが消えて、ちょっとホッとする。
が、なんの解決もしていない上に、ドッと疲れてしまった。精神的に。
「う~……転移装置……転移装置様……出てきてください……我々が干からびる前に~……」
「なんて縁起でもねぇことを言いやがる……」
めっきりやる気が削がれつつ、ダラダラと仕分け作業を再開した。
ジャラッ、と財宝の山からキラキラ輝く宝石でできた剣をとりだして、フムフムと検分する。
(剣……はないよね。盾とか防具類も間違いなく違うでしょ。だって、戦ってる最中にワープしちゃったら大変だもんね。装飾品……ネックレスとか指輪ならありえるかな……)
ブツブツと小声でさびしいひとり言を言いつつ、宝の山をより分けていく。
三十分ほどやったところで、額ににじんだ汗をぬぐった。
「あー……つめたーいお茶が飲みたい!」
「ああ……たしかに喉、乾いたわね……」
と、向こうで作業しているエリアスも疲れた顔で同意する。
こうして、キンキラキンの品々に囲まれて数時間。
なにも飲んでいないし、当然食べてもいなかった。
(あー……でも、喉自体は乾いてないんだよなぁ、私)
疲れた体に一杯! なノリで言ってはみたものの、よくよく思い返してみれば、この世界に来てから、食欲すらもわいてこないのだった。
ゲロゲロォ……
ぼんやりとそんなことを考え込んでいると、再び例のカエルが、しずしずと近寄ってきた。
「……今度はなにかな? カエルくん」
虫は。虫だけは勘弁して欲しい。
その願いも込めて飛び出した目を凝視すると、カエルは申し訳なさそうにきょろきょろと眼球を動かした後、なにかを思いついたかのようにピョンッ、と跳ねた。
ゲロ、ゲロッ
ずしずし、とちょっと床が揺れる。
「あ、もしかして……水の話してたし、水脈にでも案内してくれる? カエルって両性類だし、キミも水がないと生きていられないもんね!」
洞窟の中に、水の湧き出る場所でもあるのかもしれない。
調べていた宝石を置いて、ウキウキでカエルへと近づく。
すると彼(彼女?)は、プクッ、と頬をふくらませて、
「えっまさか……」
バシャアァァァ
と、水をヒッ被せてきたのだった。
「えぇぇぇえ……」
「は、ハナ!? 大丈夫!?」
「だっはっはっは!!」
慌てるエリアスと爆笑するヴィルクリフ。
びちゃびちゃと、髪の毛から足の先まで滴ってくる大量の水。
「……善意……とは……」
全身ずぶぬれた姿で、うらめしくカエルを見つめる。
虫に、水。もはや、これはイヤがらせなのではないだろうか。
「ふっ……くく、っ。そーだよな、カエルの感覚じゃ、全身ずぶぬれはむしろ大歓迎なんだろうしな……っ」
ヴィルクリフが腹を抱えつつ、巨大ガエルのフォローをしている。
「……カエルくん。あの人にも水たっぷりかけてやって」
「あ、おいっ! お、オレはいらねぇ! いらねぇから!!」
あわあわとヴィルクリフは金塊の向こうへ引っ込んでいった。
「あー、風邪ひきそう……いや、この体は風邪引かないのかなぁ」
と、肩を落として水気を払っていた時だ。
「ん……あれっ?」
ピカッ、と肌が突然まばゆく光った。
「うぉっまぶしっ」
「ちょっ、あんた全身が光ってるわよ!?」
と、周りの二人が呆然と私を見る。
言われるがままに体を見下ろすと、肌も髪も着ているエプロンもすべて、ピカピカと光り輝いていた。
「ええ……!? あっ」
だが、シュンッ、と光は一瞬でおさまった。
なんだったんだろう、とペタペタと自分の体をさわって、気づく。
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