裸の天女様~すっ裸で異世界に飛ばされた災難ファンタジーコメディ~

榊シロ

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33話 ~洞窟の奥~

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「そ、そんな高度なことはとても……!! あの、ワタクシとしては、吹っ飛ばすつもりだった、と言いますか」

 さきほど煙を噴き出した両手を目の前にかざして、握って、開く。

 しかし、今度はなにも起きなかった。

「あんたね……記憶喪失なんだから、あんまり無茶しちゃダメでしょう! カエルに襲われて、死んじゃってたかもしれないのよ!?」

 そんな私の頭を、エリアスがぐしゃぐしゃと撫でまわした。
 怒りまじりの心配がなんだか照れくさくて、テヘヘ、と頬を掻く。

「あ、あはは……その、心配させちゃってすみません。それで……あの。アレ、どうするか、なんですけど」

 と、ひっくり返ったままのカエルへと視線を向けた。

 巨大カエルは、手足をピクピクさせてしばらく痙攣した後、ふと正気を取り戻したかのように、スタッと姿勢をもとに戻した。

 グ……ゲ、ゲコ……

 しかし、今の出来事ですっかり意気消沈してしまったようで、体をぎゅうっと小さくして、ゲコゲコと頼りなさげに鳴いている。

 ペロン、と目も左右に垂れてしまい、手足を内側へしまいこんで、洞窟の奥で縮まっている。

 どうやら、完全に戦意はなくなったようだ。

「どうする、って……殺す、以外にあるか?」

 落としたナイフを拾い上げ、ヴィルクリフがスッと目を細めた。

 その瞳には、つよい不快感がありありとにじんでいる。
 ついさっきまで、幻覚をかけられていたのだ。はらわたは煮えくり返っているだろう。

(うーん……でも)

 ジィ、と縮こまったカエルに視線を移した。

 その生き物は、大きな体をビクビクと震わせて、舌をしまい込んでいる。

「そのぅ……あのカエル。もしかしたら、そんなに敵意はなかったのかもしれません」
「は!? なに言ってるの、ハナ」

 エリアスが、思ってもないことを言われた、とばかりに目を見開いた。

「あんた、もうちょっとで殺されるところだったじゃない!」

 ビシッ、と剣の先でカエルを示し、エリアスは声を荒げる。

「それに、あたしたちだって……! 敵意もなく、あんなことをするわけないわ!」

(たしかに、あのカエルは私の間近まで来ていた。あとちょっとで、舌で攻撃されるところだった……けど)

「もし、本当に私を殺そうとしていたなら」

 一歩、二歩、三歩。

 洞窟の奥でうずくまるカエルに近づき、目線を合わせた。

「この子……きっと、爆発四散していたはずです」
「「……えっ?」」

 私の言葉に、うしろの二人は間抜けな声を上げた。

「ほら、覚えてます? 私、ヴィルクリフさんの刀、破壊しちゃったでしょう。あれ、生き物に対しても同じなんですよ」

 以前、魚を爆発させてしまったことを思い出す。

 当時はなにもわからなかったけれど、今思い返せば、きっとアレもヤバい魚だったのだろう。

「ギロチン台に、オオカミの魔物……は、爆発まで行きませんでしたけど。たぶん、私のもつ魔力とやらが反応して、命の危機に属するものに触れると、自動的に反撃、もしくは爆発させちゃうっぽいんですよね」

 さきほど幻覚返しが起こったのも、きっと、受けそうになったパワーをそのまま跳ね返したから、なんだろう。

「だから、その……殺す、までいかなくてもいいかな、って……また襲ってきたら、反撃もできますから」

 正直なところ、私の能力はまだ未知数だ。
 巨大カエルも、もしかしたら、ここで殺しておいた方がいいのかもしれない。

 でも、あえて――あえて、命を奪うこともない、と思ったのだ。
 それが、平和な世界で今までぬくぬく暮らしてきた私の、ただのエゴだったとしても。

「……ま、オレだって、ムリに殺したいってわけでもねぇ。お前らがいいなら、別にいい」

 ヴィルクリフはスッとナイフをケースにしまって、両手を頭のうしろで組んだ。

「幻覚は厄介だけど……まぁ、対処する手段があるならいいわ。ここに来た目的は、魔物を倒すことじゃなくて、転移装置を探すことだしね」

 エリアスも剣をしまい、ため息交じりに苦笑いした。

「ああ、そうですよね……転移装置……この向こうに、あればいいんですけど」

 洞窟内は、ポワポワと綿毛のような白い光がいくつも浮かんで、ぼんやりと明るい。
 さっき幻覚を反射したときに発動した魔力が、なんだかイイ感じに明かり代わりとなっているようだ。

 エプロンについた砂ぼこりをぱたぱたと払い落し、見やすくなった洞窟の奥へと視線を飛ばす。
 カエルの向こうにはまだ空間が続いていて、さらに先が続いているようだった。

「えぇっと……」

 一歩一歩足を進めて、道のど真ん中に居座るカエルに視線を合わせる。

「そこ、どいてくれるかな?」

 敵意はありません、とわかるように両手を上げて、もう一歩足を踏み出した。

 グ……グ、グエェェエエ……

 カエルはビクッと大きく跳ねた後、ザザザッと壁側に背中を押し当てて、おびえたように目を垂らした。

(なんだか……ものすっごく、悪いことをしてるような気分……)

 あまりにもビビっている動きにギュッと胸が罪悪感でいっぱいになったものの、これ以上、情けをかけるわけにもいかない。

「エリアスさん、ヴィルクリフさん。とりあえず、先に進みましょうか」
「そうだなぁ。これ以上魔物とか出てこねぇといいんだが」
「ふつう幻覚なんて破れないし、これ以上なにか来ることはないと思うんだけどね……」

 と、調子を取り戻しつつのんびりしゃべりつつ進んでいく。
 道の先はだんだんとゆるやかにカーブを描き、なぜか、道はさらに太くなっていった。

 いよいよゴールが近いんだろうか、と、三人とも慎重に足取りを進めていく、と。

 カーブを抜けた先、すぐに、目の前が明るく開けた。

「おお、もしかして最奥……って、ああ!?」

 一歩先に進んだヴィルクリフが、すっとんきょうな声を上げた。
 つられるように後ろからエリアスが首を伸ばして、喉をひきつらせる。

「え……ウソ、なに、この空間……!!」

 二人の背中越しにその光景を目にして、息をのんだ。

「こ……これ、は……!!」

 目の前には、小さな山のひとつが入るんじゃないか、と思えるほどに巨大な空間が広がっていた。

 長い長い洞窟の先に、こんな広々とした空間があるなんて! というのも、もちろん驚きのひとつだ。

 しかし、それよりなにより、目に飛び込んできた品々、は。
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