34 / 81
33話 ~洞窟の奥~
しおりを挟む「そ、そんな高度なことはとても……!! あの、ワタクシとしては、吹っ飛ばすつもりだった、と言いますか」
さきほど煙を噴き出した両手を目の前にかざして、握って、開く。
しかし、今度はなにも起きなかった。
「あんたね……記憶喪失なんだから、あんまり無茶しちゃダメでしょう! カエルに襲われて、死んじゃってたかもしれないのよ!?」
そんな私の頭を、エリアスがぐしゃぐしゃと撫でまわした。
怒りまじりの心配がなんだか照れくさくて、テヘヘ、と頬を掻く。
「あ、あはは……その、心配させちゃってすみません。それで……あの。アレ、どうするか、なんですけど」
と、ひっくり返ったままのカエルへと視線を向けた。
巨大カエルは、手足をピクピクさせてしばらく痙攣した後、ふと正気を取り戻したかのように、スタッと姿勢をもとに戻した。
グ……ゲ、ゲコ……
しかし、今の出来事ですっかり意気消沈してしまったようで、体をぎゅうっと小さくして、ゲコゲコと頼りなさげに鳴いている。
ペロン、と目も左右に垂れてしまい、手足を内側へしまいこんで、洞窟の奥で縮まっている。
どうやら、完全に戦意はなくなったようだ。
「どうする、って……殺す、以外にあるか?」
落としたナイフを拾い上げ、ヴィルクリフがスッと目を細めた。
その瞳には、つよい不快感がありありとにじんでいる。
ついさっきまで、幻覚をかけられていたのだ。はらわたは煮えくり返っているだろう。
(うーん……でも)
ジィ、と縮こまったカエルに視線を移した。
その生き物は、大きな体をビクビクと震わせて、舌をしまい込んでいる。
「そのぅ……あのカエル。もしかしたら、そんなに敵意はなかったのかもしれません」
「は!? なに言ってるの、ハナ」
エリアスが、思ってもないことを言われた、とばかりに目を見開いた。
「あんた、もうちょっとで殺されるところだったじゃない!」
ビシッ、と剣の先でカエルを示し、エリアスは声を荒げる。
「それに、あたしたちだって……! 敵意もなく、あんなことをするわけないわ!」
(たしかに、あのカエルは私の間近まで来ていた。あとちょっとで、舌で攻撃されるところだった……けど)
「もし、本当に私を殺そうとしていたなら」
一歩、二歩、三歩。
洞窟の奥でうずくまるカエルに近づき、目線を合わせた。
「この子……きっと、爆発四散していたはずです」
「「……えっ?」」
私の言葉に、うしろの二人は間抜けな声を上げた。
「ほら、覚えてます? 私、ヴィルクリフさんの刀、破壊しちゃったでしょう。あれ、生き物に対しても同じなんですよ」
以前、魚を爆発させてしまったことを思い出す。
当時はなにもわからなかったけれど、今思い返せば、きっとアレもヤバい魚だったのだろう。
「ギロチン台に、オオカミの魔物……は、爆発まで行きませんでしたけど。たぶん、私のもつ魔力とやらが反応して、命の危機に属するものに触れると、自動的に反撃、もしくは爆発させちゃうっぽいんですよね」
さきほど幻覚返しが起こったのも、きっと、受けそうになったパワーをそのまま跳ね返したから、なんだろう。
「だから、その……殺す、までいかなくてもいいかな、って……また襲ってきたら、反撃もできますから」
正直なところ、私の能力はまだ未知数だ。
巨大カエルも、もしかしたら、ここで殺しておいた方がいいのかもしれない。
でも、あえて――あえて、命を奪うこともない、と思ったのだ。
それが、平和な世界で今までぬくぬく暮らしてきた私の、ただのエゴだったとしても。
「……ま、オレだって、ムリに殺したいってわけでもねぇ。お前らがいいなら、別にいい」
ヴィルクリフはスッとナイフをケースにしまって、両手を頭のうしろで組んだ。
「幻覚は厄介だけど……まぁ、対処する手段があるならいいわ。ここに来た目的は、魔物を倒すことじゃなくて、転移装置を探すことだしね」
エリアスも剣をしまい、ため息交じりに苦笑いした。
「ああ、そうですよね……転移装置……この向こうに、あればいいんですけど」
洞窟内は、ポワポワと綿毛のような白い光がいくつも浮かんで、ぼんやりと明るい。
さっき幻覚を反射したときに発動した魔力が、なんだかイイ感じに明かり代わりとなっているようだ。
エプロンについた砂ぼこりをぱたぱたと払い落し、見やすくなった洞窟の奥へと視線を飛ばす。
カエルの向こうにはまだ空間が続いていて、さらに先が続いているようだった。
「えぇっと……」
一歩一歩足を進めて、道のど真ん中に居座るカエルに視線を合わせる。
「そこ、どいてくれるかな?」
敵意はありません、とわかるように両手を上げて、もう一歩足を踏み出した。
グ……グ、グエェェエエ……
カエルはビクッと大きく跳ねた後、ザザザッと壁側に背中を押し当てて、おびえたように目を垂らした。
(なんだか……ものすっごく、悪いことをしてるような気分……)
あまりにもビビっている動きにギュッと胸が罪悪感でいっぱいになったものの、これ以上、情けをかけるわけにもいかない。
「エリアスさん、ヴィルクリフさん。とりあえず、先に進みましょうか」
「そうだなぁ。これ以上魔物とか出てこねぇといいんだが」
「ふつう幻覚なんて破れないし、これ以上なにか来ることはないと思うんだけどね……」
と、調子を取り戻しつつのんびりしゃべりつつ進んでいく。
道の先はだんだんとゆるやかにカーブを描き、なぜか、道はさらに太くなっていった。
いよいよゴールが近いんだろうか、と、三人とも慎重に足取りを進めていく、と。
カーブを抜けた先、すぐに、目の前が明るく開けた。
「おお、もしかして最奥……って、ああ!?」
一歩先に進んだヴィルクリフが、すっとんきょうな声を上げた。
つられるように後ろからエリアスが首を伸ばして、喉をひきつらせる。
「え……ウソ、なに、この空間……!!」
二人の背中越しにその光景を目にして、息をのんだ。
「こ……これ、は……!!」
目の前には、小さな山のひとつが入るんじゃないか、と思えるほどに巨大な空間が広がっていた。
長い長い洞窟の先に、こんな広々とした空間があるなんて! というのも、もちろん驚きのひとつだ。
しかし、それよりなにより、目に飛び込んできた品々、は。
0
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる