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30話 ~地震~
しおりを挟む「こんな状況で、ノンキに手品なんてしませんよっ! ほら、たいまつっぽくなりました!」
と、枝を数本集めて束ね、明かりのようにする。
布も油もないから、長い時間はもたないだろうが、なにもないよりははるかにマシだろう。
「これで、奥まで進みやすくなりましたね!」
「ほお、なるほど。じゃ、頼む」
「……んん?」
炎魔法が使えたことで、自信満々に胸を張った私に、ヴィルクリフがフムフムと頷き、洞窟の奥を指さした。
「当然、明かりをもってるヤツが先に行くんだ。当然だよな?」
「か、かよわい女性に、先に進めと……!?」
「お前はかよわいのか?」
「…………。……いえ……」
この世界では、自分は魔女(仮)だ。
爆発はもちろん、こうしてなにもないところから火を起こせてしまった時点で、ゼッタイにふつうの人間ではなかった。
いや、むしろ。自動で悪いものが爆発四散するなら、この男性陣二人よりも、はるかに強いのでは――?
「ハイハイ。冗談はそのくらいにして、ほら、行くわよ」
と、うなっている私の手からたいまつを受け取ると、エリアスはハキハキと先を歩き始めた。
「え、エリアスさん……?」
「そこの男、あんたをからかうのが楽しいのよ。ほら、危ないから、後ろからついてきて」
「あっはっは、面白いなぁ、お前ら」
「……なんと……!」
ヴィルクリフが軽快な笑い声を上げつつ、エリアスの後に続いて歩き出した。
男女平等のこの社会。
意を決して先に進まなければならないかと思ったが、意外に二人とも、紳士だったようだ。
それから、およそ、三十分ほど中へ進んだだろうか。
歩いても歩いても、いっこうに光が差さない洞窟の内部。
幸い分かれ道はなく、現状、あやしい獣や魔物らしい姿もない。
最初は緊張して、口数も少なく警戒して歩いていた私たちも、三十分もまっすぐ歩いていると、洞窟にも慣れてしまった。
一番奥には巨大蜘蛛が待ち受けていたりして、やら、実はアリジゴクでもう入口には戻れなくなってるかも、やら、軽口のたたき合いをして気が緩んでいた時だ。
「止まって」
明かりを手に、順調に先を進んでいたエリアスの足が、不意に停止した。
「ど……どうか、しました?」
耳を澄ましてみる。
が、とくに怪しい物音もしない。
ビビッて身をすくませる私に対し、後ろを警戒していたヴィルクリフが、グルッと周囲を見回した。
「あー……えぐれてるな」
「えぐっ……!?」
彼の視線の向く、洞窟の天井付近。
たしかに、ゴリッと壁面がへこんでいる部分があった。
ただ崩れただけ、とはとても考えられない、あきらかに何者かの爪痕風のえぐれ方をしている。
「こっち、足元も見て。……なにかの足跡があるわ」
「え、これ……足跡、ですか?」
エリアスが、そっと火を地面に近づけると、その全容が明らかになった。
デカい。
人間の靴のサイズとは、あきらかに違う。
形自体は、まるで人間の手のひらのように開いている。
しかし、指の本数は四本だし、
サイズが、ザッと人の十倍くらいはあるだろうか。
「…………!」
ガタガタガタ、と無言で震えだした私をスルーして、エリアスとヴィルクリフが顔を見合わせて話し合い始めた。
「これだけのサイズとなると……かなり大きな獣、もしくは魔物かしら」
「【王家の秘宝】とやらがあるんだろ? もしかしたら、それを守る聖獣、っつー可能性もあるよな」
「だとしたら……あたしたちじゃ、とても歯は立たないでしょうけど……」
「だが、王女が勧めてきたんだろ? なら、ある程度勝算あるんじゃねぇか」
「まぁねぇ……でも、あくまで伝聞っぽい感じだったし」
と、二人があぁでもないこうでもない、と困ったように相談していた時だった。
「アレッ……??」
洞窟の奥、暗闇の向こうで、なにかがキラッと光った。
「ねぇねぇ、お二人とも。なんか、あっち光ってませんか?」
「光る、って……こんな暗ぇ洞窟でなにが……ん??」
一寸先は闇。
まさに、それを体現するほどの暗闇だ。
その先、奥で――赤い光が、二つ。
「これって……アレ、ですかね」
ジリジリと、一歩、また一歩と後ずさった。
となりの二人も異常に気付いたらしく、顔を引きつらせる。
「あぁいう光って……その、バケモノの目、とか、そういうオチ……」
「ま、まさか……! だって、ここからあそこまで、けっこうな距離があるわよ。アレだけハッキリ赤く光ってるのが見えるって……もし生き物だったら、とんでもない大きさってことに……」
と、エリアスの乾いた笑い声が響いた、そんな時だった。
ズゴゴゴゴゴ……
「な、なんだッ!?」
体全体が震えるほど大きな地面の揺れに、ヴィルクリフがすばやくナイフを取って身構えた。
「ひぃぃぃ……じ、地響き!?」
「ちょっ……シャレになんないわよ、これ、っ!!」
横揺れと縦揺れ。
それが相互に合わさったかのような、グラグラと激しい揺れだ。
三半規管がイカれるのではないかと錯覚するほど強烈で、とても立っていられない。
「じ、じじ……地震!? こ、こんなところで!?」
「じ、じしんって、なんだ!? 足場が揺れるなんて……せ、世界が滅亡でもすんのか!?」
ヴィルクリフは、動揺と混乱で、表情からまっしろく色が抜けている。
(そ、そっか……日本じゃないんだし、この世界じゃありえない現象なんだ……!!)
となりのエリアスも、舌を噛まないようにするために口を閉じているようだが、ヴィルクリフと同じように顔色はまっしろだった。
二人が私以上に動揺しているのを見て少し冷静になったものの、依然、状況は変わりない。
「こ、これ……この洞窟がくずれかけてる、とかですかね……!?」
「だ、だったら、足場までこんな揺れねぇだろ!!」
「じ、じゃあ、洞窟の魔物の仕業とか……!!」
「奥に本体がいるとしても、これじゃあ自分だって埋まっちまうだろーが!!」
「た、たしかに……!!」
ヴィルクリフの言う通り、この揺れは縦横に動いている。
ロクに立っていられないほどの揺れなのだ。魔物にとってもマイナスでしかない。
「う、うぅぅう……っ」
床にひざをついて、頭上を見上げた。
これだけの振動だ。岩盤でも落下してきたら、即お陀仏になりかねない。
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