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27話 ~お守り~

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「えっと、それで……この森って、どこから外へ出られるんでしょうか」

 コソコソと森の中を移動しつつ、ヴィルクリフへと声をかけた。

 彼は「んー?」と悩むような声を出しつつ空を見上げて、

「今はまだ、森の入口……フェゼント城側だろ? そっから先、って言われてもなぁ……なんせ、魔の森なんて、ふだん入ることなんてねぇし」
「まぁ、そうよねぇ。あたしたち城の兵士ですら、基本的にココに入ることってなかったし……でも、大陸全土の地図から考えて、まっすぐ東側へ抜けるのが一番利口かしら」

 私よりはよほど土地勘のある二人が、うんうんと頭を悩ませ合っている。

「まっすぐって、移動距離的にはどのくらいなんですか?」
「そうねぇ……なにせ、広い森だし。一日で、ってわけにはいかないんじゃないかしら」
「Oh……」

 丸一日以上、森の中を歩きどおし。

 なにせ、今までずっとデスクワークのOLの身分だ。
 思わぬ体力勝負に、ズーンと背中に重しがのしかかった。

「ちなみに、追っ手は? まさか、あんた一人だけってわけじゃないんでしょう?」

 エリアスが、腰につけた剣をポン、とたたきながら首を傾げた。

 確かに、追っ手は気になるところだ。
 まさか、ヴィルクリフの一人でエリアスを暗殺できる、とふんだわけでもあるまいし。

 ジッと風になびく黒髪を見つめると、彼は首の後ろをガシガシと掻きつつ、

「つってもなぁ。暗殺って基本単独任務だし……あんまり大勢で追っかけたら、国外追放っていう名目の言い訳が立たなくなるだろ」
「あぁ、そうですよねぇ。エリアスさんは、一応国外追放ってことで森に出されたわけですもんね」
「ただなぁ……オレ、あの呪いが発動したとき、めっちゃ血ィ出たたろ」
「尋常じゃないくらい出てましたね。あれはほっといたらショック死するくらい出てましたよ」
「だよなぁ。あの血痕と刀の残骸が見つかったら、当然暗殺失敗もバレだろうから……そしたら、問答無用で兵士たちが森に派遣されてくるかもしれねぇな」

 ヴィルクリフは、サクサクと森の中を進みながら、とんでもないことをサラッと言った。

「問答無用で、って……えっ、本格的に追いかけられる、ってことですか!?」
「まぁそうよね……だって、ハナも城から逃亡してきたんでしょ? 罪人を二人も放置する、なんてできないものねぇ」
「うぐっ……も、森に詳しくもないのにどうすれば……」
「困ったわね。あたしも、魔の森には詳しくないのよ。それに、下手に森から出られたとしても……兵士たちが森の周辺で待ち構えてたら意味がないし……」

 と、三人で顔を見合わせて、ため息をついたときだった。

 チカチカチカ

「……んん??」

 ふと、私のエプロンの腰の部分が光り始めた。

「ちょっ、ハナ! あんた、なんかポケットのところが光ってるわよ!!」
「わっあっホントだ!!」

 慌てて、七色に光り出したポケットの中身をひっくり返す。
 すると、ポトン、と軽い音を立てて、小さななにかが落下した。

 地面の上で、いまだ七色に輝くもの。
 それは、王女様からもらった、あのお守りだった。

「あっ、コレ……! アウロレシア王女に頂いたんです! 光ってるってことは、なにか意味があるのかも……!?」

 慌てて、地面に落っこちたお守りを拾い上げた。

 チカチカとひときわ激しく光るそれを手のひらに乗せると、エリアスとヴィルクリフが興味津々でのぞきこんできた。

「王女様から? 光るなんて、いったいどんな魔法がかかっているのかしら」

 と、エリアスが不思議そうに首をかしげた、その時だった。

『ま……魔女、様……? き……聞こえ、ますか……?』

 そのお守りから、かわいらしい声が聞こえてきたのは。

「わっ、し、しゃべった!! お守りがしゃべった!!」

 と、両手でお守りを握って拝むように宙に突き出すと、

「ハナ、あんた声が大きいのよ!」

 となりにいたエリアスが耳をおさえて後ずさった。

 どうやら、テンションが上がり過ぎていたようだ。
 ちょっと反省してから、握ったお守りを指でつつむようにして持ち替えた。

「え、えっとぉ……こっち、聞こえてます」
『よかった……! わたくし、アウロレシアです。お話してくださってる方は魔女様ですよね? あと、さっき聞こえた声はエリアスでしょうか』

 お守りの声はだんだんと明瞭になり、こちらの声も届いているゆようだった。

(すごい……!! これぞ、まさに魔法……!!)

 と、私が感動しているとなりで、エリアスがビックリした表情でおそるおそる問いかけた。

「お、王女様、ですか?」
『ああ、やっぱり……!! ええ、わたくし、アウロレシアです』

 明るく優しい声は、城で手助けしてくれた王女に間違いない。

 私とエリアスがお守りを囲っていると、逆に、ヴィルクリフは恐ろしいものを見るような目で、スススッと三歩ほど後ろへ下がった。

 さっきまで呪いに苦しめられていたのだ。こういうのは苦手なのかもしれない。

「王女様、どうしたんですか? なにかあったんでしょうか」
『ええ……こちら、なんだか城が騒がしくなってきていて。そちら、追っ手などは大丈夫ですか?』

 その問いかけに、思わずヴィルクリフと目が合った。
 無言で、首が横に振られる。言うな、ということなんだろう。

「えぇと……エリアスさんに追っ手がひとり。ただ、それは退けましたが……」

 正直に伝えるのははばかられたので、エリアスとヴィルクリフにチラチラと視線を向けつつ答えた。
 エリアスは微妙な表情で眉をキュッとひそめ、ヴィルクリフはニヤッと笑ってピースサインをした。いいのか、暗殺者。

『そうなのですね。わたくしの方には、ほとんど情報は入ってこないのですが……なんでも、森でなにか見つかったとか。魔女様がおっしゃった、追っ手の方の遺品かもしれません』
「……あー……」

 エリアスが、思わずと言った様子で宙に視線をさまよわせた。
 あの大量の血痕と、刀の残骸が見つかったのかもしれない。

『城の兵士を増員する、などという声も聞こえました。周囲の町へ、先回りして派遣する、とも』
「へ、兵の増員……派遣……」

 ますます、身動きしにくくなってしまった。
 はやくエリアスの実家へと向かいたいが、今の話だと、先回りされている可能性もある。

 うぐぐ、と頭を抱える私をよそに、エリアスはお守りに向かって丁寧に一礼した。
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