裸の天女様~すっ裸で異世界に飛ばされた災難ファンタジーコメディ~

榊シロ

文字の大きさ
20 / 81

20話 ~処刑台からの逃走~

しおりを挟む
 バキィン!!

 ギロチン台が――爆発した。

「――え??」

 もくもく、と粉塵が舞い上がる。

 私の体を拘束していたすべて――ギロチンの台も、板も、刃そのものすらも、こっぱみじんに、消し飛んでいた。

「う……うわぁああ!! 魔女だ!! 魔女の魔法だ!!」

 と、静まり返ったコロシアムの中で、誰かの悲鳴が響き渡った。

「ヒィッ……ば、爆発だ!! 殺されるぞ!!」
「みんなーっ、に、逃げろーっ!!」
「魔女だ、本物の魔女なんだ!!」

 怒号のような悲鳴が沸き上がり、コロシアムの中が大混乱に陥った。

 まさに阿鼻叫喚、私を中心とした恐怖の渦が巻き起こって、あっちこっちで人が押し合い圧し合いを起こしている。

「こらっ、まだ処刑は終わっていないぞ!! おい、兵士ども!! その魔女を即刻取り押さえろ!!」

 と、硬直していた大臣が我に返り、私のことをビシッと指さした。

 しかし、

「む、むりです、大臣!! 爆発させられてしまいます!!」
「イヤだ、っ、死ぬのはイヤだ……っ!!」

 私をここまで連れてきた兵士ふたりは、今のできごとにすっかりおびえてしまい、へっぴり腰で後ずさっていく。

「……え、なに、これ」

 口から半分出ていた布をペイッと吐き出し、一番呆然としていたのは私だった。

 だって、わけがわからない。

 死ぬと思ったら、生きていた。

 それも、コロシアム全体を恐怖のドン底に突き落として。

 もくもくと爆破の煙が流れていく。

 私の周囲にあるのは、ギロチンの残骸だけ。
 兵士たちは遠く離れ、私は今、自由になった。

(た、助かった……? って、このままじゃ、ダメだ!! 逃げないと!!)

 首が飛ぶのは免れたけれど、次は毒か、首つりか、水責めか、いったいなにを試されるかわかったものじゃない!

 キョロキョロと、周囲をすばやく見回した。

 民衆のいる観客席はごった返していて、とても紛れ込むことはできそうにない。
 大臣のいる方向は兵士が密集しているし、あそこへ突撃すれば捕まりに行くようなものだ。

 と、なれば。

「うーっ、戻りたくない……けど、ッ!!」

 ギュンッ、と方向転換して向かったのは――コロシアムの裏にある、城の方角だ。

 ついさきほどまで捕らえられていた、この王都の中心地。
 四方向あるコロシアムの出入り口の中で、一番人が密集していないところだ。

 出入り口を警備していた兵士たちが、王族の警護へ向かった今、手薄な逃走経路だった。

「ま、待てーっ、魔女、どこへ行く!?」
「あの不届き物を、捕まえろ!!」

 と、私が走り出したのを見て、後ろから怒号が響いてきた。

 バタバタと、いくつもの足音も聞こえてくる。
 正直、私の運動神経は並。足の速さで、とても現役兵士に勝てるとは思えない。

 と、なれば。

「ち、近づかないでください!! あのギロチンの台のように、爆破させますよ!!」

 走る速度はそのままに、大きく片手を空へ伸ばして声を張り上げた。

 どすどすと聞こえていた大勢の足音が、だんだんと速度を落として遠ざかっていく。

「……こ、こら!! お前たち、ひるむんじゃない!! 王国の……女王様の為だぞ! すぐにヤツをとらえるんだ!!」

 しかし、そこに大臣からのゲキが飛び、再び足音が迫ってくる。
 待て、やら、止まれ、やら、私に向けた声も聞こえてきた。

(だ、誰が止まるか……!!)

 もはや、誰ひとりツッコミを入れないハダカエプロン(フリフリ)のまま、ひたすらへ城への道を爆走していく。

 ほとんどの兵士がコロシアムに動員されていたのか、城の裏手までやってきたものの、すれ違う兵士はひとりもいなかった。

(勢いでここまで来ちゃったけど……城の中へ入ったら袋のネズミだよね。……さて、どうしよう?)

 土地勘はない。
 服もコレ。
 顔だって、割れてしまっている。

 正直、かなり詰みの状況だ。

 背後から追いかけてくる足音は遠いものの、ぐずぐずしていたらアッという間に牢屋へ逆戻りだろう。

 どうする。
 どうしよう?

「え、あれ? お姉さん?」
「あっ……ブラウ、くん……!?」

 神の導き、天の助け。

 ちょうど城の庭園を横切っているとき、見知った少年兵がふと声をかけてきたのだ。

「ど、どうしたんです? 半べそ状態で……」

 戸惑いの表情を浮かべている彼は一人きりだ。
 周囲にサッと目を配った後、慌てて問いかけた。

「く、詳しい話はあとで! この辺に、王都から出られる場所ってある!?」

 長々と話している時間はないし、詳細を言って彼を巻き込むわけにもいかない。
 かじりつくような勢いで尋ねると、ブラウは鬼気迫った様子に押されてか、コクコクと頷いた。

「は、はい。えっと……あの、バラの生垣が続いているところ、わかりますか? あの裏をずーっとまっすぐ行くと、裏の森へ出ることができます。普段だったら警備兵がいるんですが、今日はコロシアムで魔女の処刑があるとかで、誰もいないみたいですね」
「そ……そっか! ありがとね!!」

 魔女の処刑。
 大いに覚えのある単語に心をえぐられながら、引きつった笑みで礼を言った。

 そんな私の態度を見てどう思ったのか、ブラウはキュッ、と悲しそうに眉を下げた。

「お姉さん……せっかく王都へ来たのに、もう出て行ってしまうんですか?」
「そ……そうなの! 残念だけど! ……短い間だってけど、本当にありがとうね、ブラウくん。……それじゃ!!」

 丁寧に別れのあいさつをしたい気持ちはやまやまだった。

 でも、ダメだ。
 遠く向こうの方から聞こえてくる足音やら声やらが、心を焦らせる。

「ええ、また。その時はぜひボクらを訪ねてくださいね」
「うん、ありがとう……それじゃ、またね!」

 これから城の巡回なのか、そのまま城の中へと向かうブラウの背中を流し見た後、全力疾走でバラの生垣へと向かう。
 これも魔女の力ゆえか、いっさい速度をゆるめず走り続けても、息切れも疲れもまったく無いのが幸いだ。

「えっと……? 生垣をまっすぐ、で、裏の森へ出られるって言ってたよね……!?」

 うっそうと生い茂る生垣の間を駆け回り、石畳を裸足で踏みしめていく。
 まさか逃亡者が花壇へ逃げているとは思っていないのか、追っ手らしき足音はかなり遠いようだ。

 どうか、今のうちに逃げたい。

(どこか……出られる目印があると思うんだけど……!)

 足音が響かないようにスピードを落とし、壁に這うように姿を隠しながら進んでいく。

(お……あった!!)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...