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20話 ~処刑台からの逃走~
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バキィン!!
ギロチン台が――爆発した。
「――え??」
もくもく、と粉塵が舞い上がる。
私の体を拘束していたすべて――ギロチンの台も、板も、刃そのものすらも、こっぱみじんに、消し飛んでいた。
「う……うわぁああ!! 魔女だ!! 魔女の魔法だ!!」
と、静まり返ったコロシアムの中で、誰かの悲鳴が響き渡った。
「ヒィッ……ば、爆発だ!! 殺されるぞ!!」
「みんなーっ、に、逃げろーっ!!」
「魔女だ、本物の魔女なんだ!!」
怒号のような悲鳴が沸き上がり、コロシアムの中が大混乱に陥った。
まさに阿鼻叫喚、私を中心とした恐怖の渦が巻き起こって、あっちこっちで人が押し合い圧し合いを起こしている。
「こらっ、まだ処刑は終わっていないぞ!! おい、兵士ども!! その魔女を即刻取り押さえろ!!」
と、硬直していた大臣が我に返り、私のことをビシッと指さした。
しかし、
「む、むりです、大臣!! 爆発させられてしまいます!!」
「イヤだ、っ、死ぬのはイヤだ……っ!!」
私をここまで連れてきた兵士ふたりは、今のできごとにすっかりおびえてしまい、へっぴり腰で後ずさっていく。
「……え、なに、これ」
口から半分出ていた布をペイッと吐き出し、一番呆然としていたのは私だった。
だって、わけがわからない。
死ぬと思ったら、生きていた。
それも、コロシアム全体を恐怖のドン底に突き落として。
もくもくと爆破の煙が流れていく。
私の周囲にあるのは、ギロチンの残骸だけ。
兵士たちは遠く離れ、私は今、自由になった。
(た、助かった……? って、このままじゃ、ダメだ!! 逃げないと!!)
首が飛ぶのは免れたけれど、次は毒か、首つりか、水責めか、いったいなにを試されるかわかったものじゃない!
キョロキョロと、周囲をすばやく見回した。
民衆のいる観客席はごった返していて、とても紛れ込むことはできそうにない。
大臣のいる方向は兵士が密集しているし、あそこへ突撃すれば捕まりに行くようなものだ。
と、なれば。
「うーっ、戻りたくない……けど、ッ!!」
ギュンッ、と方向転換して向かったのは――コロシアムの裏にある、城の方角だ。
ついさきほどまで捕らえられていた、この王都の中心地。
四方向あるコロシアムの出入り口の中で、一番人が密集していないところだ。
出入り口を警備していた兵士たちが、王族の警護へ向かった今、手薄な逃走経路だった。
「ま、待てーっ、魔女、どこへ行く!?」
「あの不届き物を、捕まえろ!!」
と、私が走り出したのを見て、後ろから怒号が響いてきた。
バタバタと、いくつもの足音も聞こえてくる。
正直、私の運動神経は並。足の速さで、とても現役兵士に勝てるとは思えない。
と、なれば。
「ち、近づかないでください!! あのギロチンの台のように、爆破させますよ!!」
走る速度はそのままに、大きく片手を空へ伸ばして声を張り上げた。
どすどすと聞こえていた大勢の足音が、だんだんと速度を落として遠ざかっていく。
「……こ、こら!! お前たち、ひるむんじゃない!! 王国の……女王様の為だぞ! すぐにヤツをとらえるんだ!!」
しかし、そこに大臣からのゲキが飛び、再び足音が迫ってくる。
待て、やら、止まれ、やら、私に向けた声も聞こえてきた。
(だ、誰が止まるか……!!)
もはや、誰ひとりツッコミを入れないハダカエプロン(フリフリ)のまま、ひたすらへ城への道を爆走していく。
ほとんどの兵士がコロシアムに動員されていたのか、城の裏手までやってきたものの、すれ違う兵士はひとりもいなかった。
(勢いでここまで来ちゃったけど……城の中へ入ったら袋のネズミだよね。……さて、どうしよう?)
土地勘はない。
服もコレ。
顔だって、割れてしまっている。
正直、かなり詰みの状況だ。
背後から追いかけてくる足音は遠いものの、ぐずぐずしていたらアッという間に牢屋へ逆戻りだろう。
どうする。
どうしよう?
「え、あれ? お姉さん?」
「あっ……ブラウ、くん……!?」
神の導き、天の助け。
ちょうど城の庭園を横切っているとき、見知った少年兵がふと声をかけてきたのだ。
「ど、どうしたんです? 半べそ状態で……」
戸惑いの表情を浮かべている彼は一人きりだ。
周囲にサッと目を配った後、慌てて問いかけた。
「く、詳しい話はあとで! この辺に、王都から出られる場所ってある!?」
長々と話している時間はないし、詳細を言って彼を巻き込むわけにもいかない。
かじりつくような勢いで尋ねると、ブラウは鬼気迫った様子に押されてか、コクコクと頷いた。
「は、はい。えっと……あの、バラの生垣が続いているところ、わかりますか? あの裏をずーっとまっすぐ行くと、裏の森へ出ることができます。普段だったら警備兵がいるんですが、今日はコロシアムで魔女の処刑があるとかで、誰もいないみたいですね」
「そ……そっか! ありがとね!!」
魔女の処刑。
大いに覚えのある単語に心をえぐられながら、引きつった笑みで礼を言った。
そんな私の態度を見てどう思ったのか、ブラウはキュッ、と悲しそうに眉を下げた。
「お姉さん……せっかく王都へ来たのに、もう出て行ってしまうんですか?」
「そ……そうなの! 残念だけど! ……短い間だってけど、本当にありがとうね、ブラウくん。……それじゃ!!」
丁寧に別れのあいさつをしたい気持ちはやまやまだった。
でも、ダメだ。
遠く向こうの方から聞こえてくる足音やら声やらが、心を焦らせる。
「ええ、また。その時はぜひボクらを訪ねてくださいね」
「うん、ありがとう……それじゃ、またね!」
これから城の巡回なのか、そのまま城の中へと向かうブラウの背中を流し見た後、全力疾走でバラの生垣へと向かう。
これも魔女の力ゆえか、いっさい速度をゆるめず走り続けても、息切れも疲れもまったく無いのが幸いだ。
「えっと……? 生垣をまっすぐ、で、裏の森へ出られるって言ってたよね……!?」
うっそうと生い茂る生垣の間を駆け回り、石畳を裸足で踏みしめていく。
まさか逃亡者が花壇へ逃げているとは思っていないのか、追っ手らしき足音はかなり遠いようだ。
どうか、今のうちに逃げたい。
(どこか……出られる目印があると思うんだけど……!)
足音が響かないようにスピードを落とし、壁に這うように姿を隠しながら進んでいく。
(お……あった!!)
ギロチン台が――爆発した。
「――え??」
もくもく、と粉塵が舞い上がる。
私の体を拘束していたすべて――ギロチンの台も、板も、刃そのものすらも、こっぱみじんに、消し飛んでいた。
「う……うわぁああ!! 魔女だ!! 魔女の魔法だ!!」
と、静まり返ったコロシアムの中で、誰かの悲鳴が響き渡った。
「ヒィッ……ば、爆発だ!! 殺されるぞ!!」
「みんなーっ、に、逃げろーっ!!」
「魔女だ、本物の魔女なんだ!!」
怒号のような悲鳴が沸き上がり、コロシアムの中が大混乱に陥った。
まさに阿鼻叫喚、私を中心とした恐怖の渦が巻き起こって、あっちこっちで人が押し合い圧し合いを起こしている。
「こらっ、まだ処刑は終わっていないぞ!! おい、兵士ども!! その魔女を即刻取り押さえろ!!」
と、硬直していた大臣が我に返り、私のことをビシッと指さした。
しかし、
「む、むりです、大臣!! 爆発させられてしまいます!!」
「イヤだ、っ、死ぬのはイヤだ……っ!!」
私をここまで連れてきた兵士ふたりは、今のできごとにすっかりおびえてしまい、へっぴり腰で後ずさっていく。
「……え、なに、これ」
口から半分出ていた布をペイッと吐き出し、一番呆然としていたのは私だった。
だって、わけがわからない。
死ぬと思ったら、生きていた。
それも、コロシアム全体を恐怖のドン底に突き落として。
もくもくと爆破の煙が流れていく。
私の周囲にあるのは、ギロチンの残骸だけ。
兵士たちは遠く離れ、私は今、自由になった。
(た、助かった……? って、このままじゃ、ダメだ!! 逃げないと!!)
首が飛ぶのは免れたけれど、次は毒か、首つりか、水責めか、いったいなにを試されるかわかったものじゃない!
キョロキョロと、周囲をすばやく見回した。
民衆のいる観客席はごった返していて、とても紛れ込むことはできそうにない。
大臣のいる方向は兵士が密集しているし、あそこへ突撃すれば捕まりに行くようなものだ。
と、なれば。
「うーっ、戻りたくない……けど、ッ!!」
ギュンッ、と方向転換して向かったのは――コロシアムの裏にある、城の方角だ。
ついさきほどまで捕らえられていた、この王都の中心地。
四方向あるコロシアムの出入り口の中で、一番人が密集していないところだ。
出入り口を警備していた兵士たちが、王族の警護へ向かった今、手薄な逃走経路だった。
「ま、待てーっ、魔女、どこへ行く!?」
「あの不届き物を、捕まえろ!!」
と、私が走り出したのを見て、後ろから怒号が響いてきた。
バタバタと、いくつもの足音も聞こえてくる。
正直、私の運動神経は並。足の速さで、とても現役兵士に勝てるとは思えない。
と、なれば。
「ち、近づかないでください!! あのギロチンの台のように、爆破させますよ!!」
走る速度はそのままに、大きく片手を空へ伸ばして声を張り上げた。
どすどすと聞こえていた大勢の足音が、だんだんと速度を落として遠ざかっていく。
「……こ、こら!! お前たち、ひるむんじゃない!! 王国の……女王様の為だぞ! すぐにヤツをとらえるんだ!!」
しかし、そこに大臣からのゲキが飛び、再び足音が迫ってくる。
待て、やら、止まれ、やら、私に向けた声も聞こえてきた。
(だ、誰が止まるか……!!)
もはや、誰ひとりツッコミを入れないハダカエプロン(フリフリ)のまま、ひたすらへ城への道を爆走していく。
ほとんどの兵士がコロシアムに動員されていたのか、城の裏手までやってきたものの、すれ違う兵士はひとりもいなかった。
(勢いでここまで来ちゃったけど……城の中へ入ったら袋のネズミだよね。……さて、どうしよう?)
土地勘はない。
服もコレ。
顔だって、割れてしまっている。
正直、かなり詰みの状況だ。
背後から追いかけてくる足音は遠いものの、ぐずぐずしていたらアッという間に牢屋へ逆戻りだろう。
どうする。
どうしよう?
「え、あれ? お姉さん?」
「あっ……ブラウ、くん……!?」
神の導き、天の助け。
ちょうど城の庭園を横切っているとき、見知った少年兵がふと声をかけてきたのだ。
「ど、どうしたんです? 半べそ状態で……」
戸惑いの表情を浮かべている彼は一人きりだ。
周囲にサッと目を配った後、慌てて問いかけた。
「く、詳しい話はあとで! この辺に、王都から出られる場所ってある!?」
長々と話している時間はないし、詳細を言って彼を巻き込むわけにもいかない。
かじりつくような勢いで尋ねると、ブラウは鬼気迫った様子に押されてか、コクコクと頷いた。
「は、はい。えっと……あの、バラの生垣が続いているところ、わかりますか? あの裏をずーっとまっすぐ行くと、裏の森へ出ることができます。普段だったら警備兵がいるんですが、今日はコロシアムで魔女の処刑があるとかで、誰もいないみたいですね」
「そ……そっか! ありがとね!!」
魔女の処刑。
大いに覚えのある単語に心をえぐられながら、引きつった笑みで礼を言った。
そんな私の態度を見てどう思ったのか、ブラウはキュッ、と悲しそうに眉を下げた。
「お姉さん……せっかく王都へ来たのに、もう出て行ってしまうんですか?」
「そ……そうなの! 残念だけど! ……短い間だってけど、本当にありがとうね、ブラウくん。……それじゃ!!」
丁寧に別れのあいさつをしたい気持ちはやまやまだった。
でも、ダメだ。
遠く向こうの方から聞こえてくる足音やら声やらが、心を焦らせる。
「ええ、また。その時はぜひボクらを訪ねてくださいね」
「うん、ありがとう……それじゃ、またね!」
これから城の巡回なのか、そのまま城の中へと向かうブラウの背中を流し見た後、全力疾走でバラの生垣へと向かう。
これも魔女の力ゆえか、いっさい速度をゆるめず走り続けても、息切れも疲れもまったく無いのが幸いだ。
「えっと……? 生垣をまっすぐ、で、裏の森へ出られるって言ってたよね……!?」
うっそうと生い茂る生垣の間を駆け回り、石畳を裸足で踏みしめていく。
まさか逃亡者が花壇へ逃げているとは思っていないのか、追っ手らしき足音はかなり遠いようだ。
どうか、今のうちに逃げたい。
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