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19話 ~死刑執行~
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「うーん……女王様のあの感じ、正直よくないわね。オマケに、あなた【魔女】って言われてたでしょう? 投獄……何年になるのかしら」
「うっそ……このまま牢獄生活!? それも、年単位で……!?」
この世界の一年が、元の世界と同じ単位かわからない。
でも、ただでさえ暗くて寒くて狭いこの牢屋。今の時点で、すでに退屈しているくらいだ。
このまま、ずーっと牢屋暮らしなんてイヤすぎる。
しかも、悪いことなんてなにもしていないのに。
むしろ、人助けした側なのに!!
「トンネルを作って……ハッ、いや、ここの床も壁も、石でできてる……」
「……脱獄する気?」
「エッ……いえ、その、あはは……」
「まぁ、大丈夫よ、たぶん。だって、牢屋にずっと入れておくのも費用がかかるもの。てっとりばやく王都から追放されるんじゃないかしら」
「つ、追放!? え、あ、じゃあもしそうなったら、エリアスさんについて行ってもいいですか!?」
「そうねぇ……結局、それが一番イイのかもしれないわ。じゃあ、その時が来たら、ね?」
「はーっ……ありがとうございます」
よかった。
これで、当面はどうすればいいかの方向性が見えてきた。
深々と腹の底からため息をついて、石の床にしかれた布の薄い布団の上に寝転がった。
この世界にやってきて、怒涛の展開の連続だった。
これで王都から追放されて、エリアスの実家があるへき地へ行ければ、少しは気持ちも体も落ち着けるだろう。
そんなことをボーっと考えながら、両手両足を布団の上でダラリと伸ばす。
眠気は、まったく訪れない。
ただただ、天井のシミを眺めることになっただけだった。
結論から言おう。
【王都追放】なんて、判決はそんな生易しいモノじゃなかった。
「本日、魔女であるこの女を、首切り刑に処す!!」
まぶたに突き刺さるほど、空が青かった。
天に存在する太陽はサンサンと照って、とても今日が処刑の日とは思えない。
綿あめに似た雲がまばらに浮かんだ青い空は、現実逃避にもってこいだった。
アニメでよく見たコロシアム。
それが今、目の前――いや、私を中心として、ぐるりと周りを囲んでいる。
戦いを娯楽とするあの円形の施設の中央に、私は今、両脇を兵士に挟まれて、ガタガタと震えて立っていた。
服装は、あのファンシーな水色エプロンのままだ。
完全にバカにされている。
(うぅぅぅう……まさか、し、処刑なんて……!!)
まるく囲った観客席は、ギッシリと人で埋め尽くされていた。
あちこちから喧騒が聞こえるが、どれもこれも、これから始まる処刑を見世物として楽しもう、という雰囲気しか感じない。
(くぅぅぅ……これから、ひ、人が殺されるっていうのに……!!)
唇は感覚を失って、かみしめても痛みすらない。
真正面には、ギロチン。
風に揺らいでキィキィとおぞましい音を立ててきしみ、血でさびた刃先をにぶく光らせている。
そして、ギロチンの向こうには、女王との謁見でも見かけた大臣らしき男が、なにかの書面をえんえんと読み上げている。
おそらく、私がこれから処刑される罪状を言っているのだろう。
言語としては認識しているのに、まったく頭に入ってこない。
――死ぬ。これから、私は死ぬかもしれない。
あふれそうになる涙をこらえつつ、プルプルと震えていると、となりの兵士がトン、と私の肩を小突いた。
どうやら、大臣がなにか私へ問いかけてきたらしい。
「な、な、なんですか」
「ふむ。もう一度言ってやろう。魔女よ、おぬし、なにか言い残すことはないか?」
「わ……わ、私は魔女じゃ、ありません!」
ガクガクと震える足と指に力をこめて、思い切り言い放った。
しかし、血の気の引いた体はちっとも声量が出ずに、スズメのさえずり程度の音量にしかならない。
「貴様、なにを言うか! 自ら、記憶を奪う能力があると申していたではないか!」
「い、いえ……あれは、傷を癒す副作用、みたいなもので。それだって、確定ってわけじゃ」
「えぇい、こざかしい! 死ぬ前くらい、潔くせんか!!」
大義名分を背負った大臣は、私のセリフをピシャッと切って捨てた。もう、まったく話を聞く気がない。
もはや、万事休す。打つ手がない。
(うぅぅっ……油断するんじゃなかった……!!)
一夜明けて、牢屋でぼんやり転がっていたところを叩き出され、エリアスを中に残したまま、むりやり外へ連れ出された。
兵士二人に両腕をとられ、いったいどこへ移動するのかと思えば――このコロシアムへまっしぐらだった、というわけだ。
まさかの、捕まえてすぐ翌日処刑だ。
裁判すらなかった。
女王様、行動力がありすぎる。
最後の晩餐の慈悲もなかった。
(いい女王様……なんてオオウソじゃん!! あんなところでノンキに見物してるし!!)
女王は、コロシアムの一番高い位置、王族専用らしい豪華絢爛な席で、ジッとこちらを見下ろしている。
その目はやはり、とても冷たい。
まるで、人間じゃないみたいだ。
「それに、もし魔女でなかったとしても、それを騙ったこと自体が重罪である。情けをかける余地はなし。……さあ、罪人を前へ」
「エッ……いや、ホントに!? そ……そんな、ウソでしょう!?」
ずりずりと、腕が引っ張られて処刑台へと引きずられていく。
ザッ、ザッ、と砂をこする音が、遠い。
ぐわんぐわんと、耳の奥で変な音が鳴っている。
視界は狭くなって、目の前に映るのは、にぶい輝きを放つギロチン台だけ。
たくさんの死刑囚の血をすすってきたのだろう。
冷え冷えと、よく光っている。
「いやーっ、たすけ、ムグッ」
「長くは苦しまぬ。……罪人に対する、唯一の温情だ」
口の中に布を押し込まれ、わめくことすらできなくなった。
声を奪う魔法でもかけられているのか、布はキラキラと光を帯びている。
(なにコレ……なに、コレ!?)
押さえつけられた腕が、そのままガチャリとギロチン台に固定される。
つづいて、首が刃の下のくぼみにガッチリとハメこまれてしまった。
もう――動け、ない。
(うそ、うそ、ウソ!? こ、このまま死んじゃうの!? こ、殺されるの!?)
混乱した視界の真っ正面に、女王の顔が映った。
マネキンのように整った、感情のない顔だ。
これから、人が死ぬのに。
自分が、その命を下したというのに。
いっさいの情けもない、虫ケラが死んでいくのをただ眺めているだけの、そんな顔。
(くそっ……クソ、ッ!!)
死にたくない。
もしこれが、ただの夢でも。
そうではない、現実だとしても――死にたく、ない!!
「死刑――執行」
カチャン
ギロチン台の安全装置が外された――その、瞬間。
「うっそ……このまま牢獄生活!? それも、年単位で……!?」
この世界の一年が、元の世界と同じ単位かわからない。
でも、ただでさえ暗くて寒くて狭いこの牢屋。今の時点で、すでに退屈しているくらいだ。
このまま、ずーっと牢屋暮らしなんてイヤすぎる。
しかも、悪いことなんてなにもしていないのに。
むしろ、人助けした側なのに!!
「トンネルを作って……ハッ、いや、ここの床も壁も、石でできてる……」
「……脱獄する気?」
「エッ……いえ、その、あはは……」
「まぁ、大丈夫よ、たぶん。だって、牢屋にずっと入れておくのも費用がかかるもの。てっとりばやく王都から追放されるんじゃないかしら」
「つ、追放!? え、あ、じゃあもしそうなったら、エリアスさんについて行ってもいいですか!?」
「そうねぇ……結局、それが一番イイのかもしれないわ。じゃあ、その時が来たら、ね?」
「はーっ……ありがとうございます」
よかった。
これで、当面はどうすればいいかの方向性が見えてきた。
深々と腹の底からため息をついて、石の床にしかれた布の薄い布団の上に寝転がった。
この世界にやってきて、怒涛の展開の連続だった。
これで王都から追放されて、エリアスの実家があるへき地へ行ければ、少しは気持ちも体も落ち着けるだろう。
そんなことをボーっと考えながら、両手両足を布団の上でダラリと伸ばす。
眠気は、まったく訪れない。
ただただ、天井のシミを眺めることになっただけだった。
結論から言おう。
【王都追放】なんて、判決はそんな生易しいモノじゃなかった。
「本日、魔女であるこの女を、首切り刑に処す!!」
まぶたに突き刺さるほど、空が青かった。
天に存在する太陽はサンサンと照って、とても今日が処刑の日とは思えない。
綿あめに似た雲がまばらに浮かんだ青い空は、現実逃避にもってこいだった。
アニメでよく見たコロシアム。
それが今、目の前――いや、私を中心として、ぐるりと周りを囲んでいる。
戦いを娯楽とするあの円形の施設の中央に、私は今、両脇を兵士に挟まれて、ガタガタと震えて立っていた。
服装は、あのファンシーな水色エプロンのままだ。
完全にバカにされている。
(うぅぅぅう……まさか、し、処刑なんて……!!)
まるく囲った観客席は、ギッシリと人で埋め尽くされていた。
あちこちから喧騒が聞こえるが、どれもこれも、これから始まる処刑を見世物として楽しもう、という雰囲気しか感じない。
(くぅぅぅ……これから、ひ、人が殺されるっていうのに……!!)
唇は感覚を失って、かみしめても痛みすらない。
真正面には、ギロチン。
風に揺らいでキィキィとおぞましい音を立ててきしみ、血でさびた刃先をにぶく光らせている。
そして、ギロチンの向こうには、女王との謁見でも見かけた大臣らしき男が、なにかの書面をえんえんと読み上げている。
おそらく、私がこれから処刑される罪状を言っているのだろう。
言語としては認識しているのに、まったく頭に入ってこない。
――死ぬ。これから、私は死ぬかもしれない。
あふれそうになる涙をこらえつつ、プルプルと震えていると、となりの兵士がトン、と私の肩を小突いた。
どうやら、大臣がなにか私へ問いかけてきたらしい。
「な、な、なんですか」
「ふむ。もう一度言ってやろう。魔女よ、おぬし、なにか言い残すことはないか?」
「わ……わ、私は魔女じゃ、ありません!」
ガクガクと震える足と指に力をこめて、思い切り言い放った。
しかし、血の気の引いた体はちっとも声量が出ずに、スズメのさえずり程度の音量にしかならない。
「貴様、なにを言うか! 自ら、記憶を奪う能力があると申していたではないか!」
「い、いえ……あれは、傷を癒す副作用、みたいなもので。それだって、確定ってわけじゃ」
「えぇい、こざかしい! 死ぬ前くらい、潔くせんか!!」
大義名分を背負った大臣は、私のセリフをピシャッと切って捨てた。もう、まったく話を聞く気がない。
もはや、万事休す。打つ手がない。
(うぅぅっ……油断するんじゃなかった……!!)
一夜明けて、牢屋でぼんやり転がっていたところを叩き出され、エリアスを中に残したまま、むりやり外へ連れ出された。
兵士二人に両腕をとられ、いったいどこへ移動するのかと思えば――このコロシアムへまっしぐらだった、というわけだ。
まさかの、捕まえてすぐ翌日処刑だ。
裁判すらなかった。
女王様、行動力がありすぎる。
最後の晩餐の慈悲もなかった。
(いい女王様……なんてオオウソじゃん!! あんなところでノンキに見物してるし!!)
女王は、コロシアムの一番高い位置、王族専用らしい豪華絢爛な席で、ジッとこちらを見下ろしている。
その目はやはり、とても冷たい。
まるで、人間じゃないみたいだ。
「それに、もし魔女でなかったとしても、それを騙ったこと自体が重罪である。情けをかける余地はなし。……さあ、罪人を前へ」
「エッ……いや、ホントに!? そ……そんな、ウソでしょう!?」
ずりずりと、腕が引っ張られて処刑台へと引きずられていく。
ザッ、ザッ、と砂をこする音が、遠い。
ぐわんぐわんと、耳の奥で変な音が鳴っている。
視界は狭くなって、目の前に映るのは、にぶい輝きを放つギロチン台だけ。
たくさんの死刑囚の血をすすってきたのだろう。
冷え冷えと、よく光っている。
「いやーっ、たすけ、ムグッ」
「長くは苦しまぬ。……罪人に対する、唯一の温情だ」
口の中に布を押し込まれ、わめくことすらできなくなった。
声を奪う魔法でもかけられているのか、布はキラキラと光を帯びている。
(なにコレ……なに、コレ!?)
押さえつけられた腕が、そのままガチャリとギロチン台に固定される。
つづいて、首が刃の下のくぼみにガッチリとハメこまれてしまった。
もう――動け、ない。
(うそ、うそ、ウソ!? こ、このまま死んじゃうの!? こ、殺されるの!?)
混乱した視界の真っ正面に、女王の顔が映った。
マネキンのように整った、感情のない顔だ。
これから、人が死ぬのに。
自分が、その命を下したというのに。
いっさいの情けもない、虫ケラが死んでいくのをただ眺めているだけの、そんな顔。
(くそっ……クソ、ッ!!)
死にたくない。
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そうではない、現実だとしても――死にたく、ない!!
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ギロチン台の安全装置が外された――その、瞬間。
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