裸の天女様~すっ裸で異世界に飛ばされた災難ファンタジーコメディ~

榊シロ

文字の大きさ
19 / 81

19話 ~死刑執行~

しおりを挟む
「うーん……女王様のあの感じ、正直よくないわね。オマケに、あなた【魔女】って言われてたでしょう? 投獄……何年になるのかしら」
「うっそ……このまま牢獄生活!? それも、年単位で……!?」

 この世界の一年が、元の世界と同じ単位かわからない。
 でも、ただでさえ暗くて寒くて狭いこの牢屋。今の時点で、すでに退屈しているくらいだ。

 このまま、ずーっと牢屋暮らしなんてイヤすぎる。

 しかも、悪いことなんてなにもしていないのに。

 むしろ、人助けした側なのに!!

「トンネルを作って……ハッ、いや、ここの床も壁も、石でできてる……」
「……脱獄する気?」
「エッ……いえ、その、あはは……」
「まぁ、大丈夫よ、たぶん。だって、牢屋にずっと入れておくのも費用がかかるもの。てっとりばやく王都から追放されるんじゃないかしら」
「つ、追放!? え、あ、じゃあもしそうなったら、エリアスさんについて行ってもいいですか!?」
「そうねぇ……結局、それが一番イイのかもしれないわ。じゃあ、その時が来たら、ね?」
「はーっ……ありがとうございます」

 よかった。

 これで、当面はどうすればいいかの方向性が見えてきた。

 深々と腹の底からため息をついて、石の床にしかれた布の薄い布団の上に寝転がった。

 この世界にやってきて、怒涛の展開の連続だった。
 これで王都から追放されて、エリアスの実家があるへき地へ行ければ、少しは気持ちも体も落ち着けるだろう。

 そんなことをボーっと考えながら、両手両足を布団の上でダラリと伸ばす。

 眠気は、まったく訪れない。
 ただただ、天井のシミを眺めることになっただけだった。






 結論から言おう。

 【王都追放】なんて、判決はそんな生易しいモノじゃなかった。

「本日、魔女であるこの女を、首切り刑に処す!!」

 まぶたに突き刺さるほど、空が青かった。
 天に存在する太陽はサンサンと照って、とても今日が処刑の日とは思えない。

 綿あめに似た雲がまばらに浮かんだ青い空は、現実逃避にもってこいだった。

 アニメでよく見たコロシアム。
 それが今、目の前――いや、私を中心として、ぐるりと周りを囲んでいる。

 戦いを娯楽とするあの円形の施設の中央に、私は今、両脇を兵士に挟まれて、ガタガタと震えて立っていた。

 服装は、あのファンシーな水色エプロンのままだ。
 完全にバカにされている。

(うぅぅぅう……まさか、し、処刑なんて……!!)

 まるく囲った観客席は、ギッシリと人で埋め尽くされていた。
 あちこちから喧騒が聞こえるが、どれもこれも、これから始まる処刑を見世物として楽しもう、という雰囲気しか感じない。

(くぅぅぅ……これから、ひ、人が殺されるっていうのに……!!)

 唇は感覚を失って、かみしめても痛みすらない。

 真正面には、ギロチン。
 風に揺らいでキィキィとおぞましい音を立ててきしみ、血でさびた刃先をにぶく光らせている。

 そして、ギロチンの向こうには、女王との謁見でも見かけた大臣らしき男が、なにかの書面をえんえんと読み上げている。

 おそらく、私がこれから処刑される罪状を言っているのだろう。
 言語としては認識しているのに、まったく頭に入ってこない。

 ――死ぬ。これから、私は死ぬかもしれない。

 あふれそうになる涙をこらえつつ、プルプルと震えていると、となりの兵士がトン、と私の肩を小突いた。

 どうやら、大臣がなにか私へ問いかけてきたらしい。

「な、な、なんですか」
「ふむ。もう一度言ってやろう。魔女よ、おぬし、なにか言い残すことはないか?」
「わ……わ、私は魔女じゃ、ありません!」

 ガクガクと震える足と指に力をこめて、思い切り言い放った。
 しかし、血の気の引いた体はちっとも声量が出ずに、スズメのさえずり程度の音量にしかならない。

「貴様、なにを言うか! 自ら、記憶を奪う能力があると申していたではないか!」
「い、いえ……あれは、傷を癒す副作用、みたいなもので。それだって、確定ってわけじゃ」
「えぇい、こざかしい! 死ぬ前くらい、潔くせんか!!」

 大義名分を背負った大臣は、私のセリフをピシャッと切って捨てた。もう、まったく話を聞く気がない。

 もはや、万事休す。打つ手がない。

(うぅぅっ……油断するんじゃなかった……!!)

 一夜明けて、牢屋でぼんやり転がっていたところを叩き出され、エリアスを中に残したまま、むりやり外へ連れ出された。

 兵士二人に両腕をとられ、いったいどこへ移動するのかと思えば――このコロシアムへまっしぐらだった、というわけだ。

 まさかの、捕まえてすぐ翌日処刑だ。

 裁判すらなかった。

 女王様、行動力がありすぎる。

 最後の晩餐の慈悲もなかった。

(いい女王様……なんてオオウソじゃん!! あんなところでノンキに見物してるし!!)

 女王は、コロシアムの一番高い位置、王族専用らしい豪華絢爛な席で、ジッとこちらを見下ろしている。

 その目はやはり、とても冷たい。
 まるで、人間じゃないみたいだ。

「それに、もし魔女でなかったとしても、それを騙ったこと自体が重罪である。情けをかける余地はなし。……さあ、罪人を前へ」
「エッ……いや、ホントに!? そ……そんな、ウソでしょう!?」

 ずりずりと、腕が引っ張られて処刑台へと引きずられていく。

 ザッ、ザッ、と砂をこする音が、遠い。

 ぐわんぐわんと、耳の奥で変な音が鳴っている。
 視界は狭くなって、目の前に映るのは、にぶい輝きを放つギロチン台だけ。

 たくさんの死刑囚の血をすすってきたのだろう。

 冷え冷えと、よく光っている。

「いやーっ、たすけ、ムグッ」
「長くは苦しまぬ。……罪人に対する、唯一の温情だ」

 口の中に布を押し込まれ、わめくことすらできなくなった。
 声を奪う魔法でもかけられているのか、布はキラキラと光を帯びている。

(なにコレ……なに、コレ!?)

 押さえつけられた腕が、そのままガチャリとギロチン台に固定される。

 つづいて、首が刃の下のくぼみにガッチリとハメこまれてしまった。

 もう――動け、ない。

(うそ、うそ、ウソ!? こ、このまま死んじゃうの!? こ、殺されるの!?)

 混乱した視界の真っ正面に、女王の顔が映った。

 マネキンのように整った、感情のない顔だ。

 これから、人が死ぬのに。
 自分が、その命を下したというのに。

 いっさいの情けもない、虫ケラが死んでいくのをただ眺めているだけの、そんな顔。

(くそっ……クソ、ッ!!)

 死にたくない。
 もしこれが、ただの夢でも。

 そうではない、現実だとしても――死にたく、ない!!

「死刑――執行」

 カチャン

 ギロチン台の安全装置が外された――その、瞬間。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...