運命に花束を

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運命に花束を②

運命の療養生活②

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 部屋の外から中の様子を伺っていたスタール以下見張りの面々は「すげぇ」と歓喜の声を上げていた。

「グノーさんがめっちゃ普通! あの人どんな魔法使ってるんですか?!」

 キースが傍らに居たエドワードに尋ねるも、彼は「知るか」とそっぽを向いた。
 自分達ではナダールがいなければ泣いて泣いて完全に手が付けられなくなるというのに、アジェは頭を撫でても払いのけられる事すらなかった。

「あいつが小動物過ぎて毒気が抜かれたか?」

 スタールのその言葉に「アジェを動物扱いするな!」とエドワードは青筋を浮かべて怒ったが、その言い得て妙な言葉に「そうかも……」と賛同する者が続く。

「で、お前はあいつの前に顔は出さないのか?」

 スタールは悪気なくそんな事を言うのだが、エドワードは渋い表情を見せ「俺は駄目だとアジェに言われてる」とぶっきら棒にそう言った。

「何かあるのか?」
「別に何もないですけど……」

 何もないから余計に、かなと思う。
 エドワードはグノーに対してあまりいい感情を持っていない。悪い人間ではないというのは分かっている、彼の過去も現在の状況もすべて理解はしているが、アジェに対する彼の過去から現在の言動を見るにつけ、どうにも突っかからずにはいられないのだ。
 アジェとエドワードは結婚を前提とした恋人同士なのだが、過去アジェとグノーが親密な関係にあった事もはっきり覚えている。
 言ってしまえば醜い嫉妬なのだが、やはり2人が仲良くしているのはどうにも我慢がならず、売り言葉に買い言葉でつい喧嘩腰に対応してしまう。それはこんな状況でも変わる事がなく、アジェに呆れたように対面禁止を言い渡されていた。

「それにしてもあの人が言ったクロードって、クロード・マイラー様の事ですよね? 元々お知り合いだったんですか?」

 グノーとクロードだとて武闘会を一緒に戦った仲間だ、知り合いであっても不思議ではないのだが、なんだか変な組み合わせだ。
 エドワードは「自分も詳しくは知らない」と首を振ったが「どうやら幼い頃に面識があったらしい」とだけぼそっと答えた。
 クロードはグノーの事を心配しつつも、ここへ見舞いに来る事はしなかった。
 自分を覚えていてくれるとは思わないし、思い出したとしてもその記憶は彼の忘れたい過去の記憶とワンセットですから、とクロードはアジェにからくり人形だけを手渡した。

『もしこれを見て私を思い出していただけるようでしたら、その時は直接本人から返していただきますので』

 クロードはそう言ってそのおもちゃをアジェに持たせたのだ。

「クロードも子供の頃からちょっと特殊な生活環境で育っているから、どこか共感する部分があるみたいでな、特別仲がいい訳でもないんだが、あの2人には変な連帯感? 見たいな物を感じるな」
「子供の頃に……? でもマイラー様って貴族ですよね、出会える場所なんてそうあると思えないんですけど。そもそもグノーさんってメリア人ですよね?」
「あぁ……まぁな。とりあえず、あの人も聞けば分かる程度に大きな家の出だとだけ言っておくかな。聞きたかったら本人に直接聞け、話すかどうかは別問題だがな」

 ファルス国王であるブラックと友人関係で、ファルス一の大貴族であるクロードとも知人関係となればある程度の出自の高さは想像できる。ただそれにも関わらず、こんな平民の姿で平民のように暮らしているのには、あまり突っ込まれたくない理由が有るのであろうことも容易に想像できた。
 ハリーとキースは性奴隷の話も聞いていたので、身分の高い人達の考えることなんて自分達にはまったく理解できないとそう思った。
 そんな話を部屋の外でわいわいしていると、部屋の扉が開いて、アジェがひょっこり顔を覗かせた。

「ねぇ、この中でナダールさんの、何でもいいから話せるエピソード持ってる人いる?」
「話せるエピソード?」

 アジェの突然の言葉に皆首を傾げる。

「何でもいいよ、ナダールさんが出てくれば。僕、よく考えたらナダールさんとは接点少なくて、皆さんの方がナダールさんの事は詳しいでしょ?」

 「グノーがナダールさんの話なら泣かずに聞いてくれるから」とアジェはこそっとそう言った。
 「あ! じゃあオレ一緒に猫捕まえた話する!」キースがはいっ! と手を上げると「じゃあ入って」と部屋の中に招き入れられた。

「それじゃあ俺達は武闘会の話かな」
「それは僕も興味あるなぁ、僕、置いてかれちゃったしね」

 そう言ってアジェは笑い、彼等も招き入れた。

「エディは何かある?」
「ムソンでの話とか?」
「エディが酷い事言ってグノーが倒れちゃった時の? そんなの却下に決まってる! 他には?」
「武闘会には俺も出てたけど……」
「なんかエピソードある?」
「いや、普通に戦ってただけだし……」
「悪いけど、エディはそこでお留守番!」

 そう言って扉はパタンと閉じられて、室内からは楽しげな話し声が聞こえてくる。
 エドワードはその待遇がとても腑に落ちず、しかし暴れる訳にもいかず、深呼吸をしてその場にどかっと座り込んで、こちらを伺う他部屋の人間に睨みをきかせた。



 深夜ナダールが寄宿舎に戻ると「遅い!」と仏頂面のエドワードに出迎えられた。
 「すみません」と頭を下げるものの、ムソンとルーンは決して近い距離ではない。そもそも日帰りで行き来をしている事に無理があり、ムソンでの滞在時間も一時間程度のものだった。
 その足で自室へと向かうとグノーは寝ており、アジェもそのベッドに突っ伏すようにして一緒に寝てしまっていた。だが、物音に気付いたのだろう、アジェは慌てて飛び起きて「おかえりなさい、すみません、僕も寝ちゃった」と眠そうに瞳を擦った。

「いいえ、こちらこそ朝早くからこんな時間まで申し訳ないです」
「大丈夫ですよ。グノーも今日はちゃんとご飯も食べたし、お話もできたし、楽しかったですよ」

 そう言って笑みを見せるアジェに、彼に預けて正解だったなとナダールは思う。

「話、できましたか?」
「はい。言ってもナダールさんの話しかしてませんけどね」
「私の?」
「グノーはナダールさんの話なら泣かずにちゃんと聞くんです。食事も『ナダールさんが食べさせといてって言ったから』って言ったら素直に食べてくれました。ナダールさんの事が凄く好きなんだってよく分かる」
「そうでしたか……」

 眠るグノーの髪を撫でてナダールは瞳を細めた。

「ルイちゃんとユリ君は? 元気にしてた? 無理してない? なんならこっちに連れて来ればいいのに。うちで預かる事もできますよ?」

 アジェの言葉にありがたいと思いながらも首を振る。

「お言葉はありがたいですが、グノーはまだ子供達のことを思い出していませんし、本当はこんな姿を子供達に見せたくはないはずなのです。それに子供達も誰も知り合いのいないこの土地でグノーの回復を待つよりも、友達も、頼れる大人もいるムソンにいた方が落ち着くと思います」

 その言葉にアジェは「そっか……」と頷いたのだが、それでも心配そうにこちらを見上げてくる。

「でもナダールさんは大丈夫なんですか? やっぱりムソンは遠いですよ」
「大丈夫ですよ。私は頑丈なだけが取り柄ですから」

 笑みを見せても、やはりアジェは少し浮かない顔をこちらに向けるのだが、今はこれが最善だと自分で出した答えなのだ。

「聞きましたよ、最近夜もあんまり寝ないで働いてるらしいじゃないですか、ナダールさんが倒れたらグノーが悲しみます」
「ふふ、大丈夫ですよ。でも、ありがとうございます」

 礼を言うとアジェは仕方がないなという顔で「このくらいの事ならいつでもできますから、いつでも遠慮なく声をかけてください」とそう言ってくれた。

「あっと、すみません、執務室の方に確認書類が届いてないかだけ確認してきていいですか? すぐ戻ります!」

 そう言って来た時同様に慌しく出て行くナダールに「え? ちょっと!」とアジェは声をかける。だが、その姿はすでに廊下の向こう側に消えていて、ナダールさん、今日もまだ働く気なんだ……と、アジェは溜息を零した。



 アジェとエドワードの2人が帰宅し、自室で書類をめくっていると背後で人の動く気配に振り向いた。

「なに……してるの?」
「すみません、起してしまいましたか?」

 そこにはグノーがベッドの上に起き上がり、ぼんやりこちらを見ていた。

「仕事が溜まってしまって……まだ夜中ですよ、寝ててくださいね」
「……やだ」

 そう言って、緩慢な動きでベッドから這い出した彼は、ふらりふらりとナダールの方へと歩いてくる。

「仕方のない人ですね。一人寝は嫌ですか?」

 腕を差し出すと、彼はぽふんとその腕の中に収まって、満足気な表情を見せた。
 最近久しく見ないその笑みに、こちらもつい頬が緩むのだが今はそんな事をしている場合ではない。

「もう少し待っていてもらえますか、すぐに終わりますから」
「これ……なに?」

 机の上いっぱいに広げられた書類を、ぼんやり眺めながら彼は猫のように身を摺り寄せてくる。

「この土地の開墾計画の見積もり、修正書類と代替案等……なんて言っても分かりませんよね」
「開墾? なんでそんな事してるの?」
「何ででしょうねぇ、まぁ、仕事ですから」

 ふぅん、としばらく興味もなさげにその書類を眺めていたグノーだったのだが、その内焦れたのか、彼の細い指がナダールの首元をなぞるように撫で上げた。

「もう少し待ってと言っているのに……」
「お金がかかるのは無駄が多いから。時間がかかるのも無駄が多いから」
「え?」

 グノーはもう一度書類に目を向けて、見積書に大きく指で×を描いた。

「これも、これもいらない。これだけでいい」

 そう言って指で○を描いたのは商業施設の誘致。

「え? 何でですか?」

 何もない所に施設を誘致だけしてもどうしようもないと思うのだが、グノーが「地図ある?」と言うのでその近辺の地図を引っ張り出して広げて見せれば、彼は一言「やっぱりね」と呟いた。

「誘致、ここだろ?」

 そう言って指差す先はブラックに指示された通りの場所で困惑した。彼はこの仕事の概要はまるで知らないはずなのに、まるで元々知っていたかのような口ぶりだ。

「こっちからも、こっちからも来れる、道は必要。あとは勝手にやってくれるから、必要ない」
「勝手にやるって、誰がですか?」
「商人、見れば分かる。この場所はいい、分かる奴に話せば逆に金取れる。これ、考えた人頭いい」
「そうなんですか?」

 自分ではその根拠も理由もさっぱり分からないのだが「もういいだろ?」とグノーは服の中に指を這わせて、口付けてくる。

「もう少し詳しい説明を……」
「……い・や……」

 まるで駄々っ子のようにそう言って圧し掛かってくる彼を抱き上げ、こうなってしまったら仕方がないか……と諦めて、そのままその晩は彼をベッドに運び、押し倒した。

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