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手術当日
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健一の手術が翌日に迫ってきていると思うとろくに眠れないまま朝が来ていた。
鳥のさえずりに目を覚ますと和室の中には朝日が差し込んできていた。
心地の良さそうな日だ。
「おはよーミーコ!」
鳥のさえずりの次に聞いたのは裕太の元気な声だった。
裕太はさっそくミーコを抱き上げて頬ずりしてくる。
最近では子猫の扱いに慣れてきたのか、当初ほど乱暴な扱いは受けなくなくなっていて、安心してまかせていられる。
「ミーコ、この首輪キレイだね」
小さな手のひらでミーコの首輪についているネームプレートに触れる。
それは健一が奮発して作ってくれたものだ。
こんな効果なものいらないと言ったのに、通じなかった。
思い出して懐かしい気持ちになって、胸の奥がポカポカしてくる。
「僕も幼稚園のときに名前を持っていくんだよ!」
裕太くんはそう言うと幼稚園も制服につけているネームを持ってきて見せてくれた。
そこには《せき ゆうた》と書かれている。
「僕の名前は関裕太。僕のお父さんは将来副社長っていう人になるんだ!」
胸を張って言う裕太くんに尚美はえっと目を丸くする。
裕太くん自身は副社長がなんなのかわかっていないようだけれど、家庭内でそんな話しまで聞いているのかと驚いた。
でも、副社長ということは社長には誰が就任するんだろう?
てっきり素直に家業を継いでいる弟さんがなるのだと思いこんでいた。
「だけどね、健一おじさんの方が偉い人になるんだよ!」
健一おじさん……。
それって関さんのこと!?
思わず「ミャア」と鳴き声を上げて先を急かしてしまう。
関さんが社長になる。
長男だしそれがごく自然な形なのかもしれない。
「健一おじさんはいつかこの家に戻ってくるんだよ」
そう……なんだ。
元々自分には縁遠い人だった。
小会社の中だといっても地位のある人だし、人望も厚くて人気もある。
そんな人とこうして一緒にいられていることが奇跡だったんだ。
いずれバラバラの道に戻ることはわかっていたはずなのに。
胸の奥が苦しくて仕方ない。
いかないで。
ずっとそばにいて。
そんなふうに考えてしまうようになった私はきっと、わがままだ。
関さんの猫として飼われることで、もう十分なはずなのに。
「健一の手術が始まったようだ」
その声にハッとして振り向くとお父さんが立っていた。
いつの間にかお母さんも座っている。
「もう、食事が手につかなくて」
と、シワのある手で顔を覆い隠す。
そんなお母さんに寄り添うようにして義理妹さんが座り込んだ。
今日はみんな気が気ではない様子だ。
ただ1人、弟さんの姿がないのは病院へ行っているからだろう。
大勢で押しかけたところでできることは少ない。
邪魔にならないように行くのを我慢したのだとわかった。
「もし健一になにかがあったら……」
「きっと大丈夫ですよ。健一さんには元気になってもらわないと、私も困るんですから」
義理妹さんに励まされてお母さんはどうにかため息を吐き出した。
それでも室内の重たい空気は消えない。
手術は何時間くらいで終わるんだろうか。
予定通り進んでくれればいいけれど。
1度、義理妹さんがお茶を作りに席を立った意外はほとんど会話もなく時間だけが過ぎていく。
裕太くんもなにかしらを感じ取っているようで、今日はおとなしく絵本を読んでいた。
柱時計のカチカチッという音だけがやけに大きく聞こえてきて、そのたびに尚美の胸には焦燥感が浮かんでくる。
まだ終わったという連絡は来ない。
皮膚を開いていてみて手術不可能だと判断された場合はすぐに縫合されるから、手術時間は短くなると聞いたことがある。
だから大丈夫。
時間が長いのは、うまく行っているからだ。
自分自身にそう言い聞かせた。
それでも重たい時間がすぎれば過ぎるほど不安は膨らんでいく。
だんだん健一に会いたい気持ちが膨れあがってくる。
ここへ来て今日で4日目。
あれだけ毎日顔を合わせていたのに、もう会いたいと思ってしまうなんて。
やっぱり自分はどこか傲慢になってしまったのかもしれない。
お母さんが立ち上がり、和室から出ていったすきをついて尚美は駆け出していた。
広い廊下をはしり、少しだけ開いている大きな窓から庭へと飛び出す。
「ミーコ!!」
裕太くんがすぐに追いかけてきたけれど、振り向きもせずに走った。
鳥のさえずりに目を覚ますと和室の中には朝日が差し込んできていた。
心地の良さそうな日だ。
「おはよーミーコ!」
鳥のさえずりの次に聞いたのは裕太の元気な声だった。
裕太はさっそくミーコを抱き上げて頬ずりしてくる。
最近では子猫の扱いに慣れてきたのか、当初ほど乱暴な扱いは受けなくなくなっていて、安心してまかせていられる。
「ミーコ、この首輪キレイだね」
小さな手のひらでミーコの首輪についているネームプレートに触れる。
それは健一が奮発して作ってくれたものだ。
こんな効果なものいらないと言ったのに、通じなかった。
思い出して懐かしい気持ちになって、胸の奥がポカポカしてくる。
「僕も幼稚園のときに名前を持っていくんだよ!」
裕太くんはそう言うと幼稚園も制服につけているネームを持ってきて見せてくれた。
そこには《せき ゆうた》と書かれている。
「僕の名前は関裕太。僕のお父さんは将来副社長っていう人になるんだ!」
胸を張って言う裕太くんに尚美はえっと目を丸くする。
裕太くん自身は副社長がなんなのかわかっていないようだけれど、家庭内でそんな話しまで聞いているのかと驚いた。
でも、副社長ということは社長には誰が就任するんだろう?
てっきり素直に家業を継いでいる弟さんがなるのだと思いこんでいた。
「だけどね、健一おじさんの方が偉い人になるんだよ!」
健一おじさん……。
それって関さんのこと!?
思わず「ミャア」と鳴き声を上げて先を急かしてしまう。
関さんが社長になる。
長男だしそれがごく自然な形なのかもしれない。
「健一おじさんはいつかこの家に戻ってくるんだよ」
そう……なんだ。
元々自分には縁遠い人だった。
小会社の中だといっても地位のある人だし、人望も厚くて人気もある。
そんな人とこうして一緒にいられていることが奇跡だったんだ。
いずれバラバラの道に戻ることはわかっていたはずなのに。
胸の奥が苦しくて仕方ない。
いかないで。
ずっとそばにいて。
そんなふうに考えてしまうようになった私はきっと、わがままだ。
関さんの猫として飼われることで、もう十分なはずなのに。
「健一の手術が始まったようだ」
その声にハッとして振り向くとお父さんが立っていた。
いつの間にかお母さんも座っている。
「もう、食事が手につかなくて」
と、シワのある手で顔を覆い隠す。
そんなお母さんに寄り添うようにして義理妹さんが座り込んだ。
今日はみんな気が気ではない様子だ。
ただ1人、弟さんの姿がないのは病院へ行っているからだろう。
大勢で押しかけたところでできることは少ない。
邪魔にならないように行くのを我慢したのだとわかった。
「もし健一になにかがあったら……」
「きっと大丈夫ですよ。健一さんには元気になってもらわないと、私も困るんですから」
義理妹さんに励まされてお母さんはどうにかため息を吐き出した。
それでも室内の重たい空気は消えない。
手術は何時間くらいで終わるんだろうか。
予定通り進んでくれればいいけれど。
1度、義理妹さんがお茶を作りに席を立った意外はほとんど会話もなく時間だけが過ぎていく。
裕太くんもなにかしらを感じ取っているようで、今日はおとなしく絵本を読んでいた。
柱時計のカチカチッという音だけがやけに大きく聞こえてきて、そのたびに尚美の胸には焦燥感が浮かんでくる。
まだ終わったという連絡は来ない。
皮膚を開いていてみて手術不可能だと判断された場合はすぐに縫合されるから、手術時間は短くなると聞いたことがある。
だから大丈夫。
時間が長いのは、うまく行っているからだ。
自分自身にそう言い聞かせた。
それでも重たい時間がすぎれば過ぎるほど不安は膨らんでいく。
だんだん健一に会いたい気持ちが膨れあがってくる。
ここへ来て今日で4日目。
あれだけ毎日顔を合わせていたのに、もう会いたいと思ってしまうなんて。
やっぱり自分はどこか傲慢になってしまったのかもしれない。
お母さんが立ち上がり、和室から出ていったすきをついて尚美は駆け出していた。
広い廊下をはしり、少しだけ開いている大きな窓から庭へと飛び出す。
「ミーコ!!」
裕太くんがすぐに追いかけてきたけれど、振り向きもせずに走った。
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