転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店

文字の大きさ
上 下
77 / 124
第6章

5話 精霊の迷い家~第1領域・課金トラップ~

しおりを挟む


「お、クソ王が最初のステージに入ったみたいね」

 正面のモニターに映った映像を見て、私がポップコーン摘みながら声を上げると、他のみんなも自然とモニターに視線を移した。
 モニター内の様子から察するに、現在精霊の迷い家の中には、クソ王を始めとした兵士達、おおよそ100名程度が足を踏み入れているようだ。

 第1領域のゲームは『キャンディイレイザー』。
 連中には今から、ソシャゲなんかでよくある、典型的なパズルゲームをプレイしてもらう。
 ちなみに、一本道の通路を塞ぐ形で設置されている、飴玉をぎっしり並べたガラス板は、観覧用のモニターを兼ねたバリケードのようなもの。

 実際のプレイヤーは、バリケードの手前に置いてあるタブレット端末を、自分の指か備え付けのペンで操作してゲームを進めていく事になる。
 ゲームをクリアするごとに、中に飴玉を収めているモニター型バリケードが消失し、先へ進む道が出現するようにしてみた。
 ベタな演出だけど、連中からして見ればクリア感があってテンション上がるかもね。

 なお、問題のクソ王達へのルール説明だが、いちいちアナウンスするのが面倒だったので、基本操作などの情報含めて全て、入り口近くに据え付けた石碑に書き付けて済ませた。
 連中が石碑をスルーしたり、読もうとしなかった時の事は考えてない。
 そん時は、勝手に自滅して勝手にどこぞへ飛ばされりゃいいのだ。私は知らん。

「うわ、大きいガラス板ね。あの中に並べてあるのってみんな飴玉でしょ? 赤、青、緑、紫に黄色……カラフルで綺麗よね」

「飴玉って言う割には随分デカいけどなぁ。確かあれ、どの飴玉も上下1マスだけ動かせるんだよな。で、そうやって移動させた飴玉を、縦か横に3つ以上同じ色で揃えると弾けて消える……って感じだったっけ?」

 後ろの席に座っているトリアが感心したように呟き、トリアの隣に座るゼクスが腕組みしながら訊いてくる。

「そうよ。……ガラス板の右斜め上に、でっかい赤い色の数字と青い飴玉、それから、飴玉の隣にも数字が表示されてるの、見える?
 赤い色の数字は『ターン数』っていって、飴玉を移動させるたびに1ずつ減ってくの。あの数字がゼロになる前に、ノルマの飴玉を指定された数だけ消せばゲームクリア。逆に、ターン内に指定された数の飴玉を消せなかったら、ゲームオーバーよ。
 ゲームオーバーになると、飴玉を移動させるゲームに挑戦してた奴……プレイヤーは30秒後、自動的に結界の外の適当な場所に、強制転移させられる事になるわ。つまり、ザルツ山から遠く離れた場所に放り出されるって寸法ね。
 一応これはゲームだから、救済措置として、強制転移されるまでの間に相応の対価を払えば、追加でゲームに再挑戦できるよう設定してあるけど」

「ええ~、なんで? 再挑戦なんてさせないで、さっさと放り出しちゃえばいいのに」

 口を尖らせるトリアに、私は笑いながら「まあ、考えあっての事だから」と、わざと曖昧に答えた。今口で説明するより、実際に連中の様子を見てもらった方が面白いだろうし、真の目的にもすぐ察しが付くだろうから。
 すると今度はゼクスが、「並んだ飴玉の中に何個か、クッキーみたいなものが混ざってるけど、あれなんだ?」と訊いてくる。

「ああ、あれ? 『お邪魔クッキー』よ。お邪魔クッキーは、あれ単体だけじゃ消せなくて、隣にある飴玉を消す時だけ、釣られて消える設定にしてあるの。
 飴玉とクッキーの配置を考えてくれたのはレフさんなんだけど、どのクッキーも、地味に邪魔くさい所に配置してあるわね」

「あー、確かに。アレがなきゃ、簡単に消せる飴玉結構いっぱいあるよな」

「でしょ? ……ま、それでもこのステージはまだまだ序の口。後半になったら、あのクソ王間違いなくキレて頭掻き毟るわよー。この領域を抜ける頃、きちんと武装してる奴は一体何人残るのかしらね♪」

「? なにそれ、どういう事?」

「見てれば分かるわよ」

 首をかしげるトリアに、私は再び曖昧な言葉を述べ、悪戯っぽい笑みを向けた。



 シュレイン達王国軍が、精霊の迷い家へそうと知らぬまま足を踏み入れてから、1時間以上が経過した。

「ぐうう……っ! なんだこれは! どうなっている! 何度挑戦しても、一向に赤い飴玉を規定の数消せんではないか!!」

「ああ……。まだあと赤い飴玉を20消さなければいけないというのに、移動数が3しか残ってない……」

「またゲームオーバーか……」

「うるさい黙れ! ……クソッ、おい誰か! 兜を脱いでこっちへ寄越しておけ!」

「へ、陛下、お言葉ですがもう、兜を所持している兵士は誰も……」

「ならば代わりの装備を寄越せ! 鎧でも具足でもなんでもいい! このままでは私が、どことも知れぬ場所に放り出されてしまうではないか!」

「では、ひとまず具足を持って来させましょう。おい、誰か! 陛下の御為に具足を脱いで持て!」

「将軍閣下、大変申し上げづらいのですが、具足を装備している者も、もう……」

「ならば鎧だ! 鎧を持てぇいッ!」

「ええっ!? よ、鎧をですか!?」

「仕方ないだろ! 陛下に口答えするな!」

「……ま、待って下さい、今脱いでますから……!」

「早くしろ! モタモタするな! あと1ターンしかないのだぞ!」

「も、申し訳ございません陛下! ええい、取りに行くから早く脱げッ!」

 思うようにゲームをクリアできない苛立ちから、シュレインは辺り構わず喚き散らし、護衛の将軍はひたすらに、シュレインと兵士達の間を行ったり来たりし続けていた。

 現在シュレインは、第1領域のパズルゲームを56面までクリアしていたが、王国軍の面々の表情は、決して明るくない。
 むしろ、シュレインに付き従ってここへ来た兵士の多くが、兜を始めとした装備品を失い、心許ない表情でシュレインの後に続いているという体たらくだ。
 もはや、指揮系統をギリギリ維持するだけで精一杯な有り様である。

 実の所、シュレインがプレイしているこの『キャンディイレイザー』は、プレイヤーへの配慮が一切ない、非常にえげつない設定のゲームだ。
 全100面にも及ぶステージで構成された、各パズルの難易度は先へ進むごとにどんどん上がっていく……と言う所までは、定石通りだが、そのうち何度も課金して、複数個のお助けアイテムを入手しないと、絶対にクリアできないステージばかりになるという、金満設定のクソゲー仕様。

 しかも、タチが悪い事にこの『課金』システムも、単純に金を支払う形にはなっていない。
 1つのお助けアイテムを購入、もしくはリトライ希望時に、プレイヤーないしその周囲にいる誰か1人の装備品を1つ、課金ボックスに投入させる設定になっていた。

 正攻法では決してクリアできないクソゲーに、半ば無理矢理手を付けさせ、プレイヤーと観戦者に精神的負荷をかけて散々ストレスを与え、士気を低下させると共に、装備品を放棄せねばらない状況を強制的に作り上げる事。
 それこそが、このゲームの真の目的なのである。


「うがあああああッ!! あと2つ! あと2つ赤い飴玉を消すだけでクリアだというのに! なぜ肝心な所で連鎖が途切れる! なぜターンが足りない! いい加減にしろ! 私を愚弄しているのかこのゲームはッ!!」

「陛下! 落ち着いて下さい! ――クソ、もうこうなったら誰でもいい! ありったけの装備をここに置け! ターン追加とアイテムを手に入れるんだ!」

「将軍、無茶を言わんで下さい! こんな所で装備を全て失ったら」

「全ては陛下の御為だ! 装備がなくなった者は外に出ればよかろう!」

「そんなご無体な! 大体ここからどうやって外に出ればいいんですかあっ!」

 プリムローズの予想通り、シュレインは半ギレして頭を掻き毟り、将軍含めた兵士達は、混乱もあらわに右往左往するばかり。

 やがて、更に2時間ほどが経過した後。
 兵士や将軍のみならず、シュレイン自身も装備品の大半を失った状態で、王国軍はようやく第1領域を突破したのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護
ファンタジー
11歳・小学5年生の唯は交通事故に遭い、気がついたら何処かの部屋にいて、目の前には黒留袖を着た女性-鈴がいた。ここが死後の世界と知りショックを受けるものの、現世に未練があることを訴えると、鈴から異世界へ転生することを薦められる。理由を知った唯は転生を承諾するも、手続き中に『記憶の覚醒が11歳の誕生日、その後すぐにとある事件に巻き込まれ、数日中に死亡する』という事実が発覚する。 異世界の神も気の毒に思い、死なないルートを探すも、事件後の覚醒となってしまい、その影響で記憶喪失、取得スキルと魔法の喪失、ステータス能力値がほぼゼロ、覚醒場所は樹海の中という最底辺からのスタート。これに同情した鈴と神は、唯に統括型スキル【料理道[極み]】と善行ポイントを与え、異世界へと送り出す。 持ち前の明るく前向きな性格の唯は、このスキルでフェンリルを救ったことをキッカケに、様々な人々と出会っていくが、皆は彼女の料理だけでなく、調理時のスキルの使い方に驚くばかり。この料理道で皆を振り回していくものの、次第に愛される存在になっていく。 これは、ちょっぴり恋に鈍感で天然な唯と、もふもふ従魔や仲間たちとの異世界のんびり物語。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...