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イチャイチャ天国・前編
【1】
しおりを挟む「武田くーん!」
あ?
「武田くーん、待ってー」
「おー、兼子じゃん。なんか用かぁ?」
陽光の照り返しで真っ白に見えるコンクリートの向こうから、見知った姿が俺に向かって駆けてくる。
「やっと追いついたー」
小柄な幼馴染が追いつくまで立ち止まって待っていたら、よく知ってる朗らかな笑みが俺を見上げてきた。
「ひさしぶりだなぁ、兼子。昼飯、一緒に食うか?」
同じキャンパスに通ってるのに、話すのはひさびさだ。たぶん、一ヶ月ぶりくらい。
「ほんと、ひさしぶりだね。でも、ごめん。ランチはご一緒できないんだ。伝えたいことがあっただけなんだよ」
「なんだ、残念。んで、俺に言いたいことって、何?」
「あのね、明日、雪夜が帰国するんだけど、武田くん宛てにお土産があるらしいから、来週か再来週、うちに遊びに来ない?」
「えっ、俺に土産買ってくれてんの? やったー。行く行くっ。つーか、常陸は今回、どこで仕事だったんだ? 帰国ってことは海外で撮影だったんだろ?」
「マレーシアだよ」
「マレーシアですとっ? ということは俺への土産って、まさか! ナマっ、ナマナ、ナマナマっ……」
「せいかーい! ナマコ石鹸でーす。前に、使ってみたいって言ってたでしょ?」
「ふおおおっ。覚えてくれてたんか! ありがとう、ありがとう! 常陸にもよろしく言っといてくれよ。会った時に礼は言うけどさ」
「うん、言っとく。じゃあ、日程は雪夜が帰ってから連絡するね」
「おう、連絡、待ってる。じゃあ、またなー」
俺を追ってきた時と同じく、軽いランニングペースで去って行く兼子と、手を振り合って別れた。バネのある走りは、さすが、元、駅伝選手。引退して四年が経つはずだけど、やっぱ速いなーと感心する。
「それにしても、常陸も兼子も、だいぶ前の会話をちゃんと覚えててくれたんだな。幼馴染って、ありがたいなー。マジで」
マレーシア土産、ナマコ石鹸! その名の通り、海洋生物のナマコから作られる石鹸で、マレーシア北西部のランカウイ島が名産地。
「やっと、使用感を確かめられるんだな。うへへへっ、楽しみだーっ」
古くから漢方薬の材料に使われてるナマコは『海の朝鮮人参』と呼ばれていて、美容効果が期待できる実用的な土産。という紹介をテレビで観て、使ってみたいって飲み会で話したんだ。
どうする、どうする?
ナマコ石鹸効果でツルピカなハゲハゲ……違った、艶々ピッカピカのツルッツルお肌になったら、慎ちゃん、どうなっちゃうと思う?
土岐、めっちゃびっくりするんじゃね? 惚れ直しちゃうんじゃね?
そしたら、いつもよりも、じっくりねっとりな、めくるめくアレな夜が熱ーく訪れちゃうんじゃね?
ぎゃーっ。妄想だけで倒れそう!
応援ありがとうございます!
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