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イチャイチャ天国・前編
【2】
しおりを挟む医学部のキャンパスを足早に歩きながら、一瞬で脳内を占拠したピンクな妄想に、胸中だけで叫び声をあげる。
声には出さない。武田慎吾、時と場所を選べるクレバーな男なんですー。
学生食堂に向かう通路には、俺の他にもたくさんの学生がいる。そんな中で恋の妄想でヘラヘラクネクネしてたら、どん引かれちゃうもん。
気心知れた幼馴染に囲まれてた高校時代と違って、外部進学組が多い学部だから、ちゃんと自重するんだ。しかも、俺の恋の相手は同性の土岐。テンション上がっても振る舞いは慎重に、だ。
「でもさー。その恋の相手が隣の校舎にいるのに会えてないんだから、せめて妄想でドキドキワクワクするくらいはしたいよなぁ」
ランチAセットに並ぶ列に混ざりながら、唇だけで呟きを漏らす。
脳裏に浮かぶのは、大好きなヤツの姿。メッセージのやり取りは毎日してるけど、もう二週間、顔を見ていない恋人だ。
薬学部の土岐も、医学部の俺も、大学五年生になって実習が始まった。会えない期間も回数も増えた。それぞれの進路のためとはいえ、寂しい気持ちは隠せないよ。
それに、さっき会った兼子のことも考えてしまう。同じマンションで育った兼子と常陸は、幼馴染の中でも特に仲が良くて、大親友。今は二人でルームシェアしてる。
羨ましい。
兼子たちは土岐と俺みたいに恋人同士ってわけじゃないけど、仲良しの幼馴染同士が一緒に暮らせてるのは羨ましいって思ってしまう。
俺だって……俺だってぇぇ!
今の境遇じゃなかったら、もっと土岐とラブラブな毎日を……だめだ。これは言っちゃだめなやつだ。
俺も土岐も、自分で選んだ進路なんだから、これは愚痴でも口に出しちゃだめだ。
土岐は親父さんの製薬会社を手伝うため。俺は血液内科で臨床に携わりたいから、今の学部を選んだんだ。恋愛よりも学業が優先される毎日は当然。たとえ、どんなに寂しくても……。
「ぐぬぬぬっ」
メインの巨大唐揚げを咀嚼しつつ、唸る。
恋愛よりも学業優先。そんなの、わかってる。ひと目でも会いたかったら、お互いの実習期間の合間に時間を作ればいいだけだ。それもわかってる。将来のために、今だけ我慢すればいい。これも理解してる。
でもさぁ、やっぱ、会いたい気持ちは抑えらんないよ。だって、大好きな相手だもん。
恋人が同じキャンパス内に通学してるんだもん。
イチャイチャ学園天国、かましたいじゃん!
あー、土岐の声、聞きたい。顔が見たい。電話越しじゃなく、画面越しでもない、本物のアイツに会いたい。
そんで抱きつきたいよ。匂いも吸いたい。
あぁ、そうだ。直接会えないなら……ちょい変態チックな発言だけど、残り香でもいい。嗅いで安心したい。
恋するピュア男子にとって、大好きなオトコの存在は、残り香ですら貴重なサプリ。万病に効く霊薬なんだぜ!
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