リナリアの夢

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
5 / 17
第一章

金髪ハーフのカメラマン【4】

しおりを挟む



「あの、鎌倉はどうでした? 雑誌の撮影だったのでしょう?」

「すごくハードでしたよー。鎌倉だけじゃなく、千葉の房総半島もあちこち巡りました」

「あ、頼朝の史跡ですか」

「そうです。嶋村さんは話がすぐに通じるから、話してると楽しいなぁ。最近は中世史が熱いらしくて、特集誌のための取材だったんですけど、あっちでも雨続きで大変でした」

「それはお疲れ様でした。ですが、出発前におっしゃっていた日程より早めのお戻りでしたね」

「あぁ、それはですね。スケジュールを前倒しして頑張ったんです。だから、五日も早く戻ってこられた。必死で頑張ったのは、少しでも早く嶋村さんに会いたかったから、ですよ」

「え……」

 何気ない会話のつもりだった。その途中、ふと浮かんだ疑問を口にしただけ。そういえばリンゼイさんは、半月、留守にすると言って旅立ったはずなのに、意外に早く戻ってきたなぁ、と。

 確か、彼が出発したのは、〝ちょうど十日前〟。



「あの……あの……っ、すみませんっ。大事な連絡を失念していたことを思い出しました。失礼しますっ」

 立ち止まったその場から、乃亜は駆け出した。ユージンが何か言ったが、聞こえない。

 途中から傘が邪魔だと気づいて畳み、土産の入った紙袋を胸に抱え込んで全速力で資料館へと駆け戻る。そのままトイレへ直行。

 突然、とんでもない吐き気に襲われたのだ。

 館長がいない日で良かった。今日、出勤している男性スタッフは乃亜だけ。トイレで何が起こっても誰にも知られることはない。

「うぅ、っ……は……」

 嘔吐感を抑えきれず、自らが吐き出したもの。それが、十日前、自宅のシンクで水に揺れていた花と全く同じだと見て取り、乃亜は気が遠くなった。

「あぁ、そうか」

 次いで、彼の身を包んだのは、泣きたいほどの暗澹の闇。

「そうか……彼、だったか」

 自分の片恋の相手は、六つも年下の金髪灰眼のカメラマンだった。

 焦げつくような胸の痛みとともに、乃亜はようやく気づくに至った。同性への絶望的な恋心に。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

ボーダーライン

瑞原唯子
BL
最初に好きになったのは隣の席の美少女だった。しかし、彼女と瓜二つの双子の兄に報復でキスされて以降、彼のことばかりが気になるようになり――。

情けない男を知っている

makase
BL
一見接点のない同僚二人は週末に飲みに行く仲である。

手紙

ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。 そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

処理中です...