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第一章
金髪ハーフのカメラマン【4】
しおりを挟む「あの、鎌倉はどうでした? 雑誌の撮影だったのでしょう?」
「すごくハードでしたよー。鎌倉だけじゃなく、千葉の房総半島もあちこち巡りました」
「あ、頼朝の史跡ですか」
「そうです。嶋村さんは話がすぐに通じるから、話してると楽しいなぁ。最近は中世史が熱いらしくて、特集誌のための取材だったんですけど、あっちでも雨続きで大変でした」
「それはお疲れ様でした。ですが、出発前におっしゃっていた日程より早めのお戻りでしたね」
「あぁ、それはですね。スケジュールを前倒しして頑張ったんです。だから、五日も早く戻ってこられた。必死で頑張ったのは、少しでも早く嶋村さんに会いたかったから、ですよ」
「え……」
何気ない会話のつもりだった。その途中、ふと浮かんだ疑問を口にしただけ。そういえばリンゼイさんは、半月、留守にすると言って旅立ったはずなのに、意外に早く戻ってきたなぁ、と。
確か、彼が出発したのは、〝ちょうど十日前〟。
「あの……あの……っ、すみませんっ。大事な連絡を失念していたことを思い出しました。失礼しますっ」
立ち止まったその場から、乃亜は駆け出した。ユージンが何か言ったが、聞こえない。
途中から傘が邪魔だと気づいて畳み、土産の入った紙袋を胸に抱え込んで全速力で資料館へと駆け戻る。そのままトイレへ直行。
突然、とんでもない吐き気に襲われたのだ。
館長がいない日で良かった。今日、出勤している男性スタッフは乃亜だけ。トイレで何が起こっても誰にも知られることはない。
「うぅ、っ……は……」
嘔吐感を抑えきれず、自らが吐き出したもの。それが、十日前、自宅のシンクで水に揺れていた花と全く同じだと見て取り、乃亜は気が遠くなった。
「あぁ、そうか」
次いで、彼の身を包んだのは、泣きたいほどの暗澹の闇。
「そうか……彼、だったか」
自分の片恋の相手は、六つも年下の金髪灰眼のカメラマンだった。
焦げつくような胸の痛みとともに、乃亜はようやく気づくに至った。同性への絶望的な恋心に。
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