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十二話 フレイお父様

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 馬車が公爵邸に近づく頃には父の顔色も多少良くなってきた。

 フレイ・シュタイト公爵。エミアの父親である彼。

 エミアと入れ替わった当初、私は正直家族の事なんて考えていなかった。

 自分の半身を追い詰めた相手が許せなくて、反抗してやりたいという気持ちばかりだった。

 公爵令嬢の器の中で息を潜めて存在を消し続けた私にとって片割れ以外の存在は希薄だった。

 けれど今は違う。国王にあれ程追い詰められた後でもシュタイト公爵は私を一切責めなかった。

 それが娘を持つ父親として当たり前の姿だと私は思わない。聖女時代の私は両親によって教会に売られたのだから。

 国でも有数の名家であるシュタイト家の当主としては情に傾き過ぎているところがあるかもしれない。けれど私は。

 違う、そんな小難しいことを考えたい訳ではなくて。

 私はシュタイト公爵に嫌われたくないのだ。優しい彼に娘として扱われ続けたいのだ。

 エミアの代わりでもいい。けれどエミアの振りをしたままではシュタイト家は守れない。

 私は緊張しながら口を開く。サイモン王に逆らうよりも恐ろしい気持ちにさえなっていた。


「お父様は、私が別人のように変わってしまっても……娘だと思ってくださいますか?」

「……エミア?」

「今までのような大人しい性格ではなくなり、気が強くて冷たくて可愛げがなくなっても」


 エミヤ時代に人から言われた欠点を口にし続ける私をシュタイト公爵は驚いた顔をして見ていた。

 けれどすぐに優しい笑みを浮かべて私の髪に触れる。


「当たり前だ。ずっと私たちの娘だよ、お前は」

「……お父様」

「……すまない。私が不甲斐ないせいで強くなろうとしているのだろう?」


 娘一人守れない情けない父親で恥ずかしいよ。

 そう笑みを消して言うシュタイト公爵、いえフレイお父様に私はそんなことはないと首を振る。

 彼が真実を知らないまま口にした言葉だとわかっている。けれど私は涙が出る程嬉しかった。

 公爵の事を心から父として慕える。エミアの真似をせずにお父様と呼んでいいのだ。

 その事実が最悪だった一日の中で私の胸を温かくした。  

 
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