惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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女神の慈悲は試練と共に5

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 アレス王子がロバートと同じ振る舞いをするとは限らない。

 いや、恐らくはしないだろう。

 けれどロバートだって、その時が来るまで私は彼がそんなことをするとは思わなかった。

 怖い。アレス王子の好意が本物であることを知っているから怖い。
 
 私がアレス王子に惹かれ始めているから怖い。

 二人が相思相愛になったとして、それが悲劇に終わるのが怖いのだ。

 自らの半身である精霊から見捨てられる。よりにもよって母譲りの膨大な魔力を持つ彼が。

 それは余りにも大きすぎる罰だ。

 そもそも王家がこのことを知ったら私と恋仲になること自体を許さないだろう。

 マリアは許すかもしれない、国王やルーク王子もアレス王子の望んだことだからと許すかもしれない。

 けれど王家を守る者たちが許さないだろう。

 ただでさえ親子ほどの年齢差がある。更にそれが原因でアレス王子に魔力剥奪のリスクがある。

 アレス王子は絶対そんなことにはならないと言うだろう。自分を信じてと言うだろう。

 そして私がそれを信じたとして、その責任を取ることはできないのだ。精霊に罰されるのは老いた私ではなく彼なのだ。

 だからディアナ、貴女がちゃんとした大人なら。この国の貴族としての責任があるのなら。

 この恋になりかけたものはおしまいにしなければいけない。


「ディアナさん?」  


 横から肩を掴まれて思わず体が跳ね上がる。

 私の大袈裟な挙動にアレス王子は酷く恐縮して謝ってきた。


「すみません、力を入れ過ぎました!」

「ちょっとぉ、女の子の華奢な肩に何してくれるのよぉ……♠」

「ち、違うのよ。痛くなんてないわ。少し考え事をしていたの」


 ユピテルの声が一段と低くなったことに慌てて私はアレス王子をフォローする。

 実際肩を掴む力は全く強くなかった。謝るようなことは何もないのだ。


「考え事ぉ?」

「ええ、赤子になったロバートはどうなってしまうのかと」

「グレイ前伯爵、ですか」

「マリアは追放するって言ったけれど、この状態じゃ流石に一人で旅立つのは無理よ」


 ユピテルに元の年齢まで戻せるかと聞くと、戻したくないという回答が返ってきた。


「それに肉体だけじゃなく中身も赤ん坊にしちゃったもの、その状態で戻しても悪趣味なだけよぉ♡」

「ということは、今までのことも、シシリーのことも……私のことも覚えていないのですか」

「そうねぇ、もしかしてディアナちゃん…この赤ん坊を育てたいのぉ?」 


 ユピテルの発言に私よりも隣で話を聞いていたアレス王子の方がギョッとした顔をした。

 私は静かに首を振る。赤子となったロバートに対して恨みつらみを抱える気はない。

 けれど自分を捨てた男を母親代わりに育てる程倒錯した人間でもない。


「お許しいただけるなら、ロバートの父親に預けたいと思います」


 私の元義父であるジェームズ。彼は父の親友でもある。

 だからこそ、この歳まで跡継ぎを産めなかった私に対し離縁を迫ることはなかったのかもしれない。

 シシリー登場後、彼が息子可愛さに私を批判する側に回ったことについて何も思わないわけではない。

 けれど、彼だってシシリーに騙された被害者ではある。

 息子可愛さに流されて騙されたことこそが義父の最大の罪ともいえるが。


「ジェームズ様には不出来な子を一から育て直すと言う償いをして頂きたいと思います」

「ディアナさん……」

「……いいわ。好きになさい」


 どうでもよさそうに言うユピテルから赤子を手渡される。

 なぜか自分が代わりに抱くといって聞かないアレス王子に抱き方を教えながら私は彼にロバートを抱かせた。

 まだ学生のせいか、赤子を抱いている姿は父親というよりも年の離れた兄だ。

 そして今のロバートとアレス王子の年齢差よりも、私とアレス王子の年齢の方が離れている。赤子を笑顔が引きつるのが自分でもわかった。

 そんな私たちをユピテルはつまらなそうに見ている。女神を放置して赤ん坊に構うのもよくないかもしれない。

 ユピテルは先程嫌がっていたが暇つぶしに外見だけ元のロバートに戻される可能性だってある。

 私はアレス王子にロバートを任せ雷女神へと向き直った。そうすると途端に機嫌がよくなったようだ。スイッチがよくわからない。


「ねえねえディアナちゃん」

「はい、なんでしょうか」

「ディアナちゃんもあの赤ん坊みたいに若返りたい?」

「……は?」


 なぜかわくわくした様子のユピテルが妙な提案をしてきたと同時に背後でアレス王子の慌てた声が聞こえる。

 とっさに振り向くと赤ん坊を取り落としそうになったのか不自然な姿勢でロバートを抱いていた。

 そのままだと若いといっても腰を痛めてしまう。私は赤ん坊を預かる為にアレス王子の元へ近寄ろうとした。


「記憶はそのままで。できるわよ。ねぇ、ディアナちゃんったら!」 


 ユピテルは返事をしない私に対して更に声を張り上げる。三十七歳の私に。若返ることができると言い募る。

 それは悪魔の囁きに聞こえた。



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