惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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女神の慈悲は試練と共に4

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 ユピテルが開き直った笑顔で差し出してきたものは、確かに「ロバートらしきもの」だった。


「あぶぅ」 


 いや、本当にロバートかしらねこれ。

 私の目がおかしいのか可愛らしい赤ん坊にしか見えないけれど。


「グレイ前伯爵って……もう少しで四十……現在三十代の筈ですよね?」


 アレス王子が恐る恐る疑問を口にする。台詞の所々から私に対しての気遣いが感じられるのが逆にきつい。

 そうだ、ロバートは当たり前だが赤子ではない。私と同年代の男性だ。

 確かに髪と瞳の色は似ているけれど、そしてそのことに対して非常に嫌な予感しかしないのだけれど。

 抱かれている赤ん坊からユピテルに視線を移す。彼女は少しだけ遠い目をして語った。


「この人間を私の癇癪で大怪我をさせてしまったのだけれど、どうしても治したくなくて

 ……でも放置すると死んでしまうし……眷属じゃない精霊憑きを勝手に殺すとアグニスが怒るしぃ……」


 どの姿なら妥協して治癒できるのかを探っていった結果、赤ん坊まで若返らせてしまった。

 そうユピテルは私たちに説明した。そんな理由で若返った人間なんて初めて見た。恐らくどの伝承にも存在しない理由だと思う。


「もう、なんか……人格がダメだった♡」

「肉体以外の全てを否定……?!」
  
「だってこの坊や、自分に憑いていた精霊にまで見放されていたのよぉ♠」


 ユピテルが呆れた声で告げる。

 精霊に見放されるとはどういうことなのだろうか、私は尋ねた。


「この人間と混ざり合っていた精霊の部分が、もうこの人間として生きていることが嫌になっちゃったのよ

 だから私が怒って力を発動した時にあえて魔力で防御をせず無抵抗でいたのね。ある意味自殺みたいなものだわ」


 本当は打撲と軽い骨折程度で済む筈なのに。そう溜息を吐きながら語られる内容に、発見時のロバートの惨状を考えて止めた。

 しかしユピテルがそういった計算をして暴れたなら気を失っていた侍女の無傷そうな様子にも納得はいく。

 元凶のマリアは全身打撲ぐらいはしているかもしれない。

 しかし精霊に見放されるとは。

 幼い頃読んだお伽噺で欲深くなった男が幸運の精霊に見放されて無一文になる話を読んだことがあるが、今回の件はそういった道徳的な教訓話とも又違う。


「炎の精霊は人間に情がわきやすいから中々こういったことは起きないのよねぇ……

 ディアナちゃんと身勝手な理由で別れた時点で大分愛想は尽きていたかもしれないけれど……トドメは何かしらぁ?」


 不思議そうに言うユピテルに私もアレスも一緒に悩む。ロバートに炎の精霊が完全に愛想を尽かす理由。……正直あり過ぎでは。

 いや、精霊と人間の倫理観はまた違うものかもしれない。自らの考察をひとまず置き対象人物の行動を並べてみる。

 ロバートはシシリーに惚れて私を屋敷から追い出した。その後シシリーに騙されていたことに気づいてショックを受けた。

 だけど自分の父親が彼女を殺そうとした時は必死に庇っていた。ここまではもしかしたら炎の精霊的にはありなのかもしれない。

 ただその後、正確には今日の事だがロバートはシシリーを激しく拒絶した。理由は彼女が人間とは思えないぐらい肥え太っていたから。

 正直気持ちは判る。けれどあれだけの騒ぎを引き起こして、外見が好みではなくなったから嫌だはいい加減にしろと当然だが思った。

 その後マリアにシシリーと一緒に国から出ていけと言われて必死にマリアの脚に縋って嫌がった。その時にユピテルが出現して……。
 
 私がこれまでロバートの行動を語ると躊躇いがちにアレス王子が口を開いた。  


「多分……外見が醜くなったことを理由に恋人を捨てたのが致命的だったんだと思います

 炎の精霊神アグニスの娘は人間との結婚を許して貰う為に自らの顔を焼いて、それで恋人に捨てられたという逸話があります」


 王族かつ、炎の魔力持ちということもありアレスのアグニス神に対する知識は私以上だった。

 私もアグニス神に対して貴族としての一般的な知識はあるが、その娘御の存在までは絡めて考えようとしなかった。

 しかし人間と結婚する為に顔を焼かなければいけないとは、異種婚姻とはそこまで敷居の高いものなのか。  

 私はユピテルのことを考える。先程の告白を聞いた限りだと雷神が千年前に愛していた男性もの種族も人間らしかった。 

 もしその人物が性別を理由にユピテルの愛を拒まなかったなら、どういった結果になっていたのだろう。
 
 そして、炎の精霊が外見の変化を理由に恋人を捨てる者を許さないと言うのなら。

 もしアレス王子と恋人になったとして、老いてしまった私と別れたくなった時に彼は困ってしまうのではないか。

 私のせいでこの国の大切な王子から炎の魔力が失われてしまうのではないか?

 それを考えると胃の辺りが焼いた鉄棒で殴られたようにじくじくと痛くなった。


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