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王妃の裁き34

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「もうっ、二人してわたくしを疫病神扱いしてぇ♠

 そんな意地悪さんたちには雷落としちゃうわよぉ♡」


「「ごめんなさい止めてください」」


 雷女神ユピテルの発言に私とマリアは速攻で詫びを入れる。

 それに対しわかればいいのよと得意げに胸を張る姿は子供っぽい美女そのものである。

 だからこそ桜色の艶めいた唇から発せられる声の重厚さに頭がバグを起こしそうになる。

 この神に対し過去学校などで教えられた通り女性として扱っていいものだろうか。

 始めてその御声を聞いた時に正直私は迷った。だが結局は女神と認識することにした。

 ユピテルの装いも振る舞いも非常に女性的だ。自分の意思でそうしているのならやはり女性として扱うべきだ。

 相手は別世界に住む精霊神、どうせ今生で会うのはこれ限りになるだろう。そのような軽薄な気持ちもあった。

 しかしそれはつい先ほど女神ユピテル自身によって否定された。

 彼女は何故か私に自らの偉大な加護をお与えになるというのだ。非常に恐れ多い。

 というか雷神の加護とはどういったものなのだろう。どうしても守護よりも攻撃方面での発想しかできない。

 だが私はいい年をした貴族の女だ。魔法を駆使して戦う機会など訪れないだろう。

 穏やかに退屈に毎日を暮らしていたらユピテル神も飽きて私なぞ直ぐに忘れてしまわれるに違いない。

 そうだ、その為にはまず平穏を取り戻さなければ。

 私はすっかり壁が取り払われて広くなった室内で拳を握りしめた。

 床には元夫、隣室には限界まで膨らみ切ったその愛人。

 そして傍らにはこの国の王妃と第二王子。長身の女神はにこにこと微笑みながら空中に浮かんでいる。

 壁を壊しきった犯人は彼女だ。私とマリアに釘を刺した後にユピテルは指をスッとその方角に差した。
 
 それだけで壁は瞬く間に砂と化し崩れ落ちたのである。この部屋から丸見えになった隣室にはシシリーと世話係のメイドがいた。

 メイドの女性の方は気を失って倒れている。高位の神気に耐えられなかったのかもしれない。


「ふうん、やっぱりマリアちゃんってペットを育てるのが下手ねえ♠ 」

「うっさいわよ」


 雷女神はシシリーを指さしマリアを軽く詰る。どうやらユピテルはあの巨体が気になっていたようだ。

 現在の種族不明な外見となった彼女は永い時を生きる女神にとっても興味深い存在なのかもしれない。

 そして見つめられているシシリーだが、彼女の目鼻は今や肉に埋まっていてその表情を判別し辛いものにしている。

 流石に世間知らずなこの娘でも私たちがこの輝く女性をユピテルと呼んでいることから察するものはあるだろう。平民だって自国の神話ぐらいは知っている筈だ。

 万が一、雷女神に対する知識が無かったとしても先程から今までの間に起こった一連のことを考えれば最低限の畏怖は持ってくれるに違いない。

 私はそう信じようとした。

 しかしシシリーは常識に囚われない大物だったようだ。外見と中身が見事に一致していると言えるかもしれない。

 いや単純に馬鹿なのかもしれない。いや断定する。馬鹿だ。


「ちょっと女神ユピテル、私にも精霊の加護を寄越しなさいぶぅ!!」

「はい神罰ぅ♡」


 ユピテルは両手の指を器用に使いハートのような形を作った。

 そこから大量の雷矢が一直線に迸り巨体を穿つ。この国に存在する全ての矢を掻き集めたよりもその本数は多い気がした。

 凄い勢いで射出される金色の矢の大群によってシシリーの体は瞬く間に輝く小山と化す。止める間もなかったし止める度胸もなかった。

 あのサイズの棺って何日ぐらいで作れるのかしら。彼女のブリーダーであったマリアの声が虚しく場に響いた。



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