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王妃の裁き27
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シシリーはお腹の中の子供を階段から落ちることで強引に下ろそうとした。
その目論見は成功したが、当然母体である彼女自身にダメージが来ない訳がない。
彼女は立ち上がれない程に体調を崩した。私が絞殺しかけたことも無関係とは言えないだろう。
堕胎したことも含めて暫くベッドで安静にすることが必要な状態だったが、ここで困ったことが起きた。
シシリーの関係者が誰も彼女を引き取ろうとしなかったのだ。
そもそも彼女には家族がいなかった。さらにあけすけに言ってしまえばシシリーは娼婦だった。
この情報はロバートから聞き出したものだ。知った当初は驚きを通り越して呆れた。
それが表情に出ていたのだろう。職業差別はよくない、彼女の父親は貴族だと彼は必死に主張してきた。
ただマリアが「ならその父親の名前を教えなさいよ、どうせ貴方も聞いてないでしょうけど」と言うと一気に静かになってしまった。
ロバートは自分の父親である前伯爵に対してもシシリーは貴族を父に持つ私生児であるという与太話の他に、複数嘘を吐いていたらしい。
娼婦ではなく酒場で働いている娘だと偽ったのも問題だが、何より自分が初めての男だと語ったのが一番酷いと思う。
それをよりによって男であるロバートが告げたものだから元義父はそれを疑わなかった。
つまりシシリーの腹の子を孫だと完全に信じたのである。だからそうでなかったことを知らされた時にあそこまで怒り狂ったのだろう。
父親を騙したロバートにも非があるが入れ知恵をしたのはシシリーなので襲われたのは自業自得だ。
ジェームズ前伯爵にも騒動後にマリアと一緒に対面したが手首から先を失った事も含め非常に意気消沈していた。
意外にも私の父に手首を切り落とされたこと自体は恨んでおらず、寧ろ面倒をかけてしまったと恐縮していた。
「ご自宅内での話し合いなら私も彼も止めなかったでしょうに」
マリアの言葉に私はぎょっとしたが、前伯爵は静かに頷くのみだった。
私も息子もただただ愚かだった。恐らくはロバートも悪魔に魂を売ってでも時を巻き戻したいと願うでしょう。
そう俯きながら語る彼の目は暗い光を放っていて枯れ枝を積み上げた隙間に灯る火のような恐ろしさを感じた。
「貴方の息子が女悪魔に魂を売って妻を追い出した結果が現状ですけれどね」
必要なのは悪魔との取引ではなく悪魔祓いでしょう。ハイヒールで枯れ枝を踏み潰すようにマリアが告げる。
そうして話は終わったとばかりに部屋を出ようとする。私もその後を追うが、その背に義父が問いかける。
「あの女は何処に?」
今彼の目の前に彼女を差し出せば、熊が人を喰らうような光景が見られるのだろうと直感するような声だった。
けれどそのようなことは物理的に不可能だ。引き取り手のなかった彼女は今王城にいる。厳重に守られ手厚い看護を受けている。
毎日豪華な食事も与えられているらしい。全部マリアの指示だ。
ただそれをジェームズ前伯爵に教える気にはなれなかった。私でさえそこまでの厚遇には疑問を覚えてしまうのだ。
恨みを持っている彼にその情報を与えればマリアも巻き添えで恨まれかねない。
「大怪我をして治療を受けています」
それだけを告げた。彼は少しだけせいせいした顔をしていた。
何一つ彼にとって事態は好転していないのに、単純なことだと皮肉に思った。
シシリーの体調はいずれ回復するだろうが、彼や彼の息子の地位が元に戻ることはないのだ。
そして彼女の体力が元に戻れば私の罪への裁きが行われる。
あの日の続きが始まるのだった。
その目論見は成功したが、当然母体である彼女自身にダメージが来ない訳がない。
彼女は立ち上がれない程に体調を崩した。私が絞殺しかけたことも無関係とは言えないだろう。
堕胎したことも含めて暫くベッドで安静にすることが必要な状態だったが、ここで困ったことが起きた。
シシリーの関係者が誰も彼女を引き取ろうとしなかったのだ。
そもそも彼女には家族がいなかった。さらにあけすけに言ってしまえばシシリーは娼婦だった。
この情報はロバートから聞き出したものだ。知った当初は驚きを通り越して呆れた。
それが表情に出ていたのだろう。職業差別はよくない、彼女の父親は貴族だと彼は必死に主張してきた。
ただマリアが「ならその父親の名前を教えなさいよ、どうせ貴方も聞いてないでしょうけど」と言うと一気に静かになってしまった。
ロバートは自分の父親である前伯爵に対してもシシリーは貴族を父に持つ私生児であるという与太話の他に、複数嘘を吐いていたらしい。
娼婦ではなく酒場で働いている娘だと偽ったのも問題だが、何より自分が初めての男だと語ったのが一番酷いと思う。
それをよりによって男であるロバートが告げたものだから元義父はそれを疑わなかった。
つまりシシリーの腹の子を孫だと完全に信じたのである。だからそうでなかったことを知らされた時にあそこまで怒り狂ったのだろう。
父親を騙したロバートにも非があるが入れ知恵をしたのはシシリーなので襲われたのは自業自得だ。
ジェームズ前伯爵にも騒動後にマリアと一緒に対面したが手首から先を失った事も含め非常に意気消沈していた。
意外にも私の父に手首を切り落とされたこと自体は恨んでおらず、寧ろ面倒をかけてしまったと恐縮していた。
「ご自宅内での話し合いなら私も彼も止めなかったでしょうに」
マリアの言葉に私はぎょっとしたが、前伯爵は静かに頷くのみだった。
私も息子もただただ愚かだった。恐らくはロバートも悪魔に魂を売ってでも時を巻き戻したいと願うでしょう。
そう俯きながら語る彼の目は暗い光を放っていて枯れ枝を積み上げた隙間に灯る火のような恐ろしさを感じた。
「貴方の息子が女悪魔に魂を売って妻を追い出した結果が現状ですけれどね」
必要なのは悪魔との取引ではなく悪魔祓いでしょう。ハイヒールで枯れ枝を踏み潰すようにマリアが告げる。
そうして話は終わったとばかりに部屋を出ようとする。私もその後を追うが、その背に義父が問いかける。
「あの女は何処に?」
今彼の目の前に彼女を差し出せば、熊が人を喰らうような光景が見られるのだろうと直感するような声だった。
けれどそのようなことは物理的に不可能だ。引き取り手のなかった彼女は今王城にいる。厳重に守られ手厚い看護を受けている。
毎日豪華な食事も与えられているらしい。全部マリアの指示だ。
ただそれをジェームズ前伯爵に教える気にはなれなかった。私でさえそこまでの厚遇には疑問を覚えてしまうのだ。
恨みを持っている彼にその情報を与えればマリアも巻き添えで恨まれかねない。
「大怪我をして治療を受けています」
それだけを告げた。彼は少しだけせいせいした顔をしていた。
何一つ彼にとって事態は好転していないのに、単純なことだと皮肉に思った。
シシリーの体調はいずれ回復するだろうが、彼や彼の息子の地位が元に戻ることはないのだ。
そして彼女の体力が元に戻れば私の罪への裁きが行われる。
あの日の続きが始まるのだった。
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