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初恋がこじれにこじれて困ってます.09
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「ピンポーン」チャイムの音で沙耶は目が覚めた。もう外はすっかり暗くなっている。一樹は知らないうちに帰ってきて、塾に行ってしまった様で、家には沙耶以外誰もいないようだ。沙耶は泣きながら知らないうちに眠ってしまっていたのだ。重い体を引きずるように立ち上がると、玄関に向かった。モニターを見ると、瞬ちゃんが写っている。
「今開けるね。」
沙耶はそう言うと、のろのろと鍵を開けた。玄関を開けて沙耶の顔を見た瞬ちゃんは、ふっと顔を曇らせる。
「沙耶、また何かあった?」
あれだけ泣けば、目も腫れてひどい顔をしているであろうことは分かっていた。でも、今の沙耶にはそれを取り繕う気力もなかった。
「…。」
「あがっていい?」
瞬ちゃんが遠慮がちに聞いてくる。沙耶はもうどうすればいいのか頭が回らない。
「うん。」
沙耶と瞬ちゃんは無言のまま沙耶の部屋へと向かった。
「まずは、話を聞こうか。何があったの?」
沙耶の様子から、とても勉強ができる状態ではないことは一目瞭然だ。瞬ちゃんにそう問われても、沙耶の口はなかなか開かない。余りの急展開に頭が追い付いていないのだ。
「直に関係ある?」
瞬ちゃんは沙耶の頭の中が混乱していることを考慮して、質問形式にしてくれた。
「うん。」
沙耶は頷くことくらいしかできない。
「バスケに関係ある?」
「うん。」
ここまでは想像の範疇だが、ここからはさすがの瞬ちゃんでも難しいだろう。
「例のくるみちゃんも関係してる?」
あっという間に言い当てられて、沙耶の目からはまたポロポロと涙がこぼれだす。
(まさか、もう二人がデキちゃったとか?うーん、俺じゃないんだから、直からってことはないだろう。だとしたら、くるみちゃんから?それにしても、展開が早いな。)
「二人はまだ付き合ってはいないよね?」
核心をついた質問に、沙耶は固まる。
「た、たぶん。でも、時間の問題だと思う。」
やっと、沙耶はまともに喋ることができた。
「時間の問題って?」
「バスケ部のマネージャーが足を骨折して、その代理にくるみがマネージャーになったんだって。だから、だから…。」
そう言うと、沙耶はまた泣き始める。
「そういうことね。」
瞬ちゃんは少し思案すると、沙耶の頭をそっと撫でた。
「沙耶、それで諦めちゃうほど、直への気持ちは軽いのか?」
沙耶は頭をブンブンと横に振る。
「だったら、お前もマネージャーになったらいいじゃないか。」
沙耶はガバッと顔をあげて、瞬ちゃんの顔を見つめた。涙でぐしゃぐしゃで、とても他人に見せられるものではないけれど…。瞬ちゃんはそんなことをバカにしたりしないって分かってるから。
「私に出来るかな?」
「できるさ。直のことが好きなんだろう?」
「…。私、やってみる、やりたい。」
「そうだ、その調子。ほら、顔洗っておいで、直のやつ家でのん気にテレビ見てるから、今から行こう。」
「うん、瞬ちゃんありがとう。」
その後、沙耶は顔を洗って少しサッパリした気持ちで瞬の前に現れた。まさかこんな展開になるとは思ってもみなかったが、どうせ結果は同じでも、やれるだけのことはやって終わりにしたい。
「行こうか。」
「うん。」
二人は、直のところへ向かった。
「おい、直。沙耶が話があるって。」
「はあ?今度は何だよ、さっきはピンポン鳴らしまくって、何にも言わずに帰っちまうし。沙耶わけわかんねー。」
シャワーを浴びた直は、首にタオルをかけ、Tシャツに短パンというリラックスした姿でソファに座っていた。
無造作に乾かした髪、毎日の練習で引き締まった横顔は、変に手を加えなくてもやっぱりカッコイイ。沙耶の胸はキュッと苦しくなる。
「まあ、そう言わずに。聞いてやるくらいいいだろ。」
直は、自分よりも何もかもが優れている瞬ちゃんにそう言われると逆らえない。
「分かったよ。」
直は、ソファに座ったまま沙耶の方に向き直る。じっと見つめられるだけで、沙耶の鼓動は跳ね上がる。だけど、今は動揺している場合ではないのだ。
「あ、あのさ、くるみに聞いたんだけど、バスケ部のマネージャーさんがケガして大変だって。それで、くるみが代理のマネージャーしてるんだよね。」
「そうだけど。それがどうかした?」
「わ、私もマネージャーやろうかなって思って。」
「はあ?お前、バスケとか興味あるの?」
直は、ちょっとムッとした様子で応える。
「バスケのことはよく分かんないけど、くるみ一人じゃ大変じゃないかと思って。」
「ああ、まあな。」
バスケ部は30人超の大所代だ。人手はあるにこしたことはない。
「だめ、かな?」
「だけど、お前のほうはいいのかよ。」
「わ、わたしは、テニス部なんて2回しか練習ないし、くるみと一緒だったらやりやすいし。直がいいなら、やってみたい。」
「ふーん。まあ、お前がそう言うんなら明日みんなに聞いてみるよ。」
「わかった。」
「じゃあな。」
直はそう言うと、またテレビの方に向き直ってしまった。
「じゃあ、そういうことで、沙耶の部屋に戻ろうか。」
瞬ちゃんにそう言われ、沙耶は黙ってうなずいた。
「直、おやすみ。」
「おやすみー。」
「今開けるね。」
沙耶はそう言うと、のろのろと鍵を開けた。玄関を開けて沙耶の顔を見た瞬ちゃんは、ふっと顔を曇らせる。
「沙耶、また何かあった?」
あれだけ泣けば、目も腫れてひどい顔をしているであろうことは分かっていた。でも、今の沙耶にはそれを取り繕う気力もなかった。
「…。」
「あがっていい?」
瞬ちゃんが遠慮がちに聞いてくる。沙耶はもうどうすればいいのか頭が回らない。
「うん。」
沙耶と瞬ちゃんは無言のまま沙耶の部屋へと向かった。
「まずは、話を聞こうか。何があったの?」
沙耶の様子から、とても勉強ができる状態ではないことは一目瞭然だ。瞬ちゃんにそう問われても、沙耶の口はなかなか開かない。余りの急展開に頭が追い付いていないのだ。
「直に関係ある?」
瞬ちゃんは沙耶の頭の中が混乱していることを考慮して、質問形式にしてくれた。
「うん。」
沙耶は頷くことくらいしかできない。
「バスケに関係ある?」
「うん。」
ここまでは想像の範疇だが、ここからはさすがの瞬ちゃんでも難しいだろう。
「例のくるみちゃんも関係してる?」
あっという間に言い当てられて、沙耶の目からはまたポロポロと涙がこぼれだす。
(まさか、もう二人がデキちゃったとか?うーん、俺じゃないんだから、直からってことはないだろう。だとしたら、くるみちゃんから?それにしても、展開が早いな。)
「二人はまだ付き合ってはいないよね?」
核心をついた質問に、沙耶は固まる。
「た、たぶん。でも、時間の問題だと思う。」
やっと、沙耶はまともに喋ることができた。
「時間の問題って?」
「バスケ部のマネージャーが足を骨折して、その代理にくるみがマネージャーになったんだって。だから、だから…。」
そう言うと、沙耶はまた泣き始める。
「そういうことね。」
瞬ちゃんは少し思案すると、沙耶の頭をそっと撫でた。
「沙耶、それで諦めちゃうほど、直への気持ちは軽いのか?」
沙耶は頭をブンブンと横に振る。
「だったら、お前もマネージャーになったらいいじゃないか。」
沙耶はガバッと顔をあげて、瞬ちゃんの顔を見つめた。涙でぐしゃぐしゃで、とても他人に見せられるものではないけれど…。瞬ちゃんはそんなことをバカにしたりしないって分かってるから。
「私に出来るかな?」
「できるさ。直のことが好きなんだろう?」
「…。私、やってみる、やりたい。」
「そうだ、その調子。ほら、顔洗っておいで、直のやつ家でのん気にテレビ見てるから、今から行こう。」
「うん、瞬ちゃんありがとう。」
その後、沙耶は顔を洗って少しサッパリした気持ちで瞬の前に現れた。まさかこんな展開になるとは思ってもみなかったが、どうせ結果は同じでも、やれるだけのことはやって終わりにしたい。
「行こうか。」
「うん。」
二人は、直のところへ向かった。
「おい、直。沙耶が話があるって。」
「はあ?今度は何だよ、さっきはピンポン鳴らしまくって、何にも言わずに帰っちまうし。沙耶わけわかんねー。」
シャワーを浴びた直は、首にタオルをかけ、Tシャツに短パンというリラックスした姿でソファに座っていた。
無造作に乾かした髪、毎日の練習で引き締まった横顔は、変に手を加えなくてもやっぱりカッコイイ。沙耶の胸はキュッと苦しくなる。
「まあ、そう言わずに。聞いてやるくらいいいだろ。」
直は、自分よりも何もかもが優れている瞬ちゃんにそう言われると逆らえない。
「分かったよ。」
直は、ソファに座ったまま沙耶の方に向き直る。じっと見つめられるだけで、沙耶の鼓動は跳ね上がる。だけど、今は動揺している場合ではないのだ。
「あ、あのさ、くるみに聞いたんだけど、バスケ部のマネージャーさんがケガして大変だって。それで、くるみが代理のマネージャーしてるんだよね。」
「そうだけど。それがどうかした?」
「わ、私もマネージャーやろうかなって思って。」
「はあ?お前、バスケとか興味あるの?」
直は、ちょっとムッとした様子で応える。
「バスケのことはよく分かんないけど、くるみ一人じゃ大変じゃないかと思って。」
「ああ、まあな。」
バスケ部は30人超の大所代だ。人手はあるにこしたことはない。
「だめ、かな?」
「だけど、お前のほうはいいのかよ。」
「わ、わたしは、テニス部なんて2回しか練習ないし、くるみと一緒だったらやりやすいし。直がいいなら、やってみたい。」
「ふーん。まあ、お前がそう言うんなら明日みんなに聞いてみるよ。」
「わかった。」
「じゃあな。」
直はそう言うと、またテレビの方に向き直ってしまった。
「じゃあ、そういうことで、沙耶の部屋に戻ろうか。」
瞬ちゃんにそう言われ、沙耶は黙ってうなずいた。
「直、おやすみ。」
「おやすみー。」
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