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初恋がこじれにこじれて困ってます.08
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色々あった一学期ももう今日で終わり。明日からは夏休みだ。ゆるゆるなテニス部とは違い、直たちのバスケ部や瞬ちゃんと一樹の陸上部はほぼ毎日部活がある。瞬ちゃんと一樹は3年だから、夏の大会を最後に卒部、そして次は受験勉強にと忙しい。
テニス部の部活動がある日は、登校日である2日間だけだ。この長い夏休みを、一体どう過ごせばいいのだろうと沙耶は途方に暮れる。
普段なら、学校に行って直の姿を見ることも校舎の窓からぼんやり外を眺めているふりをしていればいいのだが、夏休みになってしまうとそれも叶わない。直を思う気持ちだけが募り、沙耶の夏休みは苦しいものとなりそうだ。
沙耶にはくるみの他にも仲良くなった友達が2人いるのだが、そのうちの一人である真奈は吹奏楽部でまあまあ忙しい。残りの一人である織江は放送部に入っていて、少人数とう理由から一年生であるにもかかわらず、早くもコンクールに向けて引っ張りまわされている。暇なのはテニス部の沙耶とくるみの二人だけだと思っていた。
夏休みに入り、沙耶はきっとくるみも暇を持て余しているだろうと、さっそく連絡を入れてみた。
『くるみー、何してるー?暇じゃない?』
するとすぐに返事が来た。
『私、何だか分かんないけど、今日からバスケ部のマネージャーやることになっちゃって。これから、学校に行かないといけないんだ。』
予想だにしていなかった答えが返ってきた。
『え、ど、どうしてくるみが?』
『あ、ごめん、もう行かないと。遅刻しちゃう。じゃあねー。』
詳しいいきさつを説明してもらうこともなく、バッサリと切られてしまった。
(ど、ど、どういうこと。くるみがバスケ部のマネージャー?バスケ部にはちゃんとマネージャーがいたはずなのに。)
沙耶は訳も分からないまま、たった一人自分だけが夏休みから取り残されてしまったような寂しさを噛みしめていた。
(とりあえず、部活が終わった夜にまた連絡してみよう。いや、それよりも、直に直接きいてみよう。どうせ隣同士なんだし。だけど、どうしてそんなことを聞くのかって聞かれたらどうしよう。)
そんなことをぐちゃぐちゃと考えながら、何も手につかないまま、沙耶は実りのない一日を過ごした。
夕方になり、聞き耳を立てていると、お隣の玄関がバタンと閉まる音が聞こえた。沙耶は、急いで駆け出すと、一ノ瀬家のチャイムを連打した。
「なんだ、なんだ。」
廊下をバタバタと掛けてくる音が聞こえた。ガチャと玄関のドアを開けたのは直だった。
「なんだ、沙耶か。どうしたんだよ、あんなに連打しなくても聞こえてるよ。」
「ご、ごめん。」
沙耶はまるで子供の様に自分の気持ちが抑えきれなかったことが恥ずかしい。
「で、なに?俺、風呂入りたいんだけど、急ぎの用?」
そうだ、直は部活が終わって疲れて帰ってきたばかりなのだ。それを、自分の気持ちだけで突っ走ってしまっていた。
「ごめん。やっぱいい。」
沙耶は、そう言うと玄関を無理やり閉めて、家に帰った。
「なんだよ、沙耶のやつ。へんなの。」
直は沙耶の様子を不思議に思いながらも、大して気にすることなくそのまま風呂場へと向かった。
部屋に戻った沙耶は、自分が感情に突き動かされて、もはや挙動不審の域に達してしまっていることに困惑していた。
(どうしよう。やっぱりくるみに聞くしかないよね。)
沙耶はくるみに連絡を入れる。
『今朝の話なんだけど、詳しく聞いてもいいかな?』
果たして、どんないきさつがあったのだろう。いきなりマネージャーになったなんて、寝耳に水だ。
『なんかね、バスケ部のマネージャーの子が自転車でこけて足を骨折しちゃったんだって。それで、治るのに2カ月くらいはかかるらしくって、その間だけ代理のマネージャーを探してたんだった。』
『そ、それで、どうしてくるみがマネージャーに選ばれたの?』
『うーん。この間応援に行った時、お弁当持って行ったでしょ。その時、ちょっとだけ従兄のこと話したら、みんなすごく興味があったみたいで、質問攻めだったよ。そんな感じ。』
『そ、そんな感じって。』
『一通り、バスケのルールとか知ってるって分かったから、代理だし、それだけだと思うよ。』
『くるみは、よかったの?大変じゃない?』
『どうせ暇だし、代理だから気楽だし。まあ、今日一日やってみて、何とかできそうかなーって。』
『そ、そうなんだ。がんばってね。』
沙耶は心にも無い応援メッセージで閉めた。
(何、この展開。マネージャーって。直のそばにずっと一緒にいられるじゃん。直のこと見放題じゃん。)
沙耶は目の前が真っ暗になる。こんな時、隣同士だとか、幼馴染みだとかいうことはまったく意味が無いことを思い知らされる。そして、手が届きそうなところにいるのに、決して触れることが出来ないという現実に打ちのめされそうになる。
(いったい何ができるの?これじゃあ、くるみと直がくっつくのを指をくわえて見てることしかできない。)
いつの間にか沙耶の瞳からは涙がこぼれていた。
テニス部の部活動がある日は、登校日である2日間だけだ。この長い夏休みを、一体どう過ごせばいいのだろうと沙耶は途方に暮れる。
普段なら、学校に行って直の姿を見ることも校舎の窓からぼんやり外を眺めているふりをしていればいいのだが、夏休みになってしまうとそれも叶わない。直を思う気持ちだけが募り、沙耶の夏休みは苦しいものとなりそうだ。
沙耶にはくるみの他にも仲良くなった友達が2人いるのだが、そのうちの一人である真奈は吹奏楽部でまあまあ忙しい。残りの一人である織江は放送部に入っていて、少人数とう理由から一年生であるにもかかわらず、早くもコンクールに向けて引っ張りまわされている。暇なのはテニス部の沙耶とくるみの二人だけだと思っていた。
夏休みに入り、沙耶はきっとくるみも暇を持て余しているだろうと、さっそく連絡を入れてみた。
『くるみー、何してるー?暇じゃない?』
するとすぐに返事が来た。
『私、何だか分かんないけど、今日からバスケ部のマネージャーやることになっちゃって。これから、学校に行かないといけないんだ。』
予想だにしていなかった答えが返ってきた。
『え、ど、どうしてくるみが?』
『あ、ごめん、もう行かないと。遅刻しちゃう。じゃあねー。』
詳しいいきさつを説明してもらうこともなく、バッサリと切られてしまった。
(ど、ど、どういうこと。くるみがバスケ部のマネージャー?バスケ部にはちゃんとマネージャーがいたはずなのに。)
沙耶は訳も分からないまま、たった一人自分だけが夏休みから取り残されてしまったような寂しさを噛みしめていた。
(とりあえず、部活が終わった夜にまた連絡してみよう。いや、それよりも、直に直接きいてみよう。どうせ隣同士なんだし。だけど、どうしてそんなことを聞くのかって聞かれたらどうしよう。)
そんなことをぐちゃぐちゃと考えながら、何も手につかないまま、沙耶は実りのない一日を過ごした。
夕方になり、聞き耳を立てていると、お隣の玄関がバタンと閉まる音が聞こえた。沙耶は、急いで駆け出すと、一ノ瀬家のチャイムを連打した。
「なんだ、なんだ。」
廊下をバタバタと掛けてくる音が聞こえた。ガチャと玄関のドアを開けたのは直だった。
「なんだ、沙耶か。どうしたんだよ、あんなに連打しなくても聞こえてるよ。」
「ご、ごめん。」
沙耶はまるで子供の様に自分の気持ちが抑えきれなかったことが恥ずかしい。
「で、なに?俺、風呂入りたいんだけど、急ぎの用?」
そうだ、直は部活が終わって疲れて帰ってきたばかりなのだ。それを、自分の気持ちだけで突っ走ってしまっていた。
「ごめん。やっぱいい。」
沙耶は、そう言うと玄関を無理やり閉めて、家に帰った。
「なんだよ、沙耶のやつ。へんなの。」
直は沙耶の様子を不思議に思いながらも、大して気にすることなくそのまま風呂場へと向かった。
部屋に戻った沙耶は、自分が感情に突き動かされて、もはや挙動不審の域に達してしまっていることに困惑していた。
(どうしよう。やっぱりくるみに聞くしかないよね。)
沙耶はくるみに連絡を入れる。
『今朝の話なんだけど、詳しく聞いてもいいかな?』
果たして、どんないきさつがあったのだろう。いきなりマネージャーになったなんて、寝耳に水だ。
『なんかね、バスケ部のマネージャーの子が自転車でこけて足を骨折しちゃったんだって。それで、治るのに2カ月くらいはかかるらしくって、その間だけ代理のマネージャーを探してたんだった。』
『そ、それで、どうしてくるみがマネージャーに選ばれたの?』
『うーん。この間応援に行った時、お弁当持って行ったでしょ。その時、ちょっとだけ従兄のこと話したら、みんなすごく興味があったみたいで、質問攻めだったよ。そんな感じ。』
『そ、そんな感じって。』
『一通り、バスケのルールとか知ってるって分かったから、代理だし、それだけだと思うよ。』
『くるみは、よかったの?大変じゃない?』
『どうせ暇だし、代理だから気楽だし。まあ、今日一日やってみて、何とかできそうかなーって。』
『そ、そうなんだ。がんばってね。』
沙耶は心にも無い応援メッセージで閉めた。
(何、この展開。マネージャーって。直のそばにずっと一緒にいられるじゃん。直のこと見放題じゃん。)
沙耶は目の前が真っ暗になる。こんな時、隣同士だとか、幼馴染みだとかいうことはまったく意味が無いことを思い知らされる。そして、手が届きそうなところにいるのに、決して触れることが出来ないという現実に打ちのめされそうになる。
(いったい何ができるの?これじゃあ、くるみと直がくっつくのを指をくわえて見てることしかできない。)
いつの間にか沙耶の瞳からは涙がこぼれていた。
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