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初恋がこじれにこじれて困ってます.01
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沙耶が小学5年生の春、お隣に一ノ瀬家が越してきた。
一ノ瀬家は両親、そして沙耶と同じ小学5年の直と、中一の瞬の二人兄弟の4人家族。沙耶の兄一樹と瞬も同い年だったこともあり、あっという間に仲良くなった。
今思えば、森崎沙耶は出会った瞬間から一ノ瀬直に恋をしていたのだろう。しかし、直の方はといえば恋心などというものにはまだ縁がなく、男友達と遊ぶのに夢中で、沙耶はいまだに自分の気持ちを伝えることができずにいた。
「なおー、直ってば、遅れるよー。」
「ごめん、今行くー。」
活発な直は小学校までは学校で唯一のスポーツクラブである野球部に所属していた。
週末はほぼ一日外にいたため肌は今でもキレイな小麦色だ。直が笑うと、褐色の肌に白い八重歯が覗く。
そして少し伸びたサラサラの黒髪が風になびくのを見るだけで、沙耶の胸はキュンと苦しくなるのだった。
二人はいま中学生1年生だ。兄の一樹と瞬も同じ中学の3年生。一樹と瞬は部活も同じ陸上で、今日も朝練のためとっくに家を出ていた。
「直、部活何にするか決めた?」
「う~ん、まだ迷ってるけど、バスケか陸上かな。」
「ふ~ん。」
「沙耶は、決めたの?」
「うん、テニス部!」
「へえ、テニス好きだったんだ。」
「好きっていうか、ユニフォームが可愛いんだもん。」
「そんな理由なの?」
「えー、だって、そんなに運動得意じゃないから、せめて可愛くないと、やる意味ないじゃん。」
「それじゃあ、そもそもやる意味ない、イテッ。」
直は沙耶に頭を軽くはたかれる。
「もう、直や瞬ちゃんみたいに運動神経がいい人に、私の気持ちは分かりません。」
「ええー、兄貴は運動神経いいけど、俺は別に普通だよ。」
「運動神経がいい人は、それが普通なんでしょ。私から見たら二人とも同じだよ。」
「そんなことないんだけどなー。」
直は不満そうにつぶやく。どう頑張っても運動では兄貴に敵わないことは自分が一番分かっている。だから、直はどちらかといえば勉強の方では兄貴に勝ってやろうと、中学に入ったとき密かに心に決めたのだった。男兄弟というのはとかく競い合うのが好きらしい。
沙耶たちの通う市立柏木中学校は一学年3クラスの小さな学校だ。3クラスしかないのに、沙耶と直は同じクラスではない。直からすればどうでもいいことだが、沙耶にしてみれば気が気ではない。
中学になると、皆一気に思春期を迎える。今まで恋愛なんて頭の片隅にもなかった直でも、まわりの女子が急に大人びてくればウブなだけに、案外コロッといってしまうかもしれない。
直はカッコイイというよりは、笑顔が可愛くて爽やかなタイプの男の子だ。身長もまだ沙耶と同じ160?くらいしかない。しかし、あっという間に追い越されるのは間違いない。なぜなら、一ノ瀬家は家族そろって長身なのだ。兄の瞬はすでに180?、母民子は170?、父幸三も182?ときている。おまけに、皆、美形なのだ。直もじきに男の子から立派な男性へと変貌を遂げるだろう。そうなれば、積極的な女子からのアプローチが始まるのは目に見えている。
自分の目が届かないところで、そんな駆け引きが繰り広げられているのを想像するだけで、沙耶は勉強に集中できなくなってしまうのだった。
「沙耶ちゃん、今日の部活見学一緒に行こう。」
中学になって最初に友達になったくるみが話しかけてきた。チャームポイントといえば明るいところくらいしか見当たらない沙耶とは違って、くるみは清楚でいかにもお嬢様といった感じの美少女だ。髪形もショートボブの沙耶とは対照的に、細くて艶やかなロングヘアだ。
「うん、楽しみだね。」
今日から一週間、新入生は興味のある部活動を見学することになっている。授業が終わり、二人は早速テニス部が活動しているテニスコートに向かった。テニスコートは運動場にはなく、道路を挟んだ向かい側にある。防犯のため、屋内の施設が昨年作られたのだ。
テニスコートに向かう途中、陸上部が練習している場所にさしかかった。何の気なしに、兄一樹と瞬ちゃんの姿を探す。一樹は長距離が専門だ。黙々とトラックを走っている。しかし、なぜか瞬ちゃんの姿を見つけることはできなかった。今日はお休みなのかな。沙耶はあまり気に留めることもなくテニスコートに向かった。運動場を通り過ぎ、道路を渡ろうと信号が青になるのを待っていた。
「あー、なんだかちょっと、緊張してきた。」くるみがあしをバタバタさせている。
「そうだねー。」
沙耶がくるみの方に顔を向けると、校舎の奥の方で抱き合っている男女の姿が目に入った。背の高いその男性は間違いなく瞬ちゃんだ。沙耶は、見てはいけないものを見てしまったようで動揺する。
瞬ちゃんは人懐っこい直とは対照的で口数が少なく、クールで大人っぽい。直はお母さん似で目がクリっとしているが、瞬ちゃんはお父さん似で切れ長の細目だ。二人とも印象は違うけれど、やっぱり美形には違いない。
そして、直と違って瞬ちゃんはすでに何人かと付き合っているらしい。
(お母さん同士の井戸端会議を盗み聞きして知ったのだけれど)
「どうかした沙耶?何か顔色が悪いけど。めっちゃ緊張してる?」
「う、ううん。だいじょうぶ。深呼吸しよ、深呼吸。」
「そうだね、私もしよ。ふぅー。」
その場は何とか誤魔化したものの、身近な人物のそういう場面を初めて目にした何とも言えない心のざわめきは、なかなか治まることはなかった。
見学の期間が終わり、沙耶とくるみはテニス部に入部届を提出した。直は悩んだ末、バスケ部に入ることに決めたようだ。
柏木中学の部活動で大きな大会に出られるのは、バスケ部と陸上部くらいで、残りの部はどこも一回戦を突破できれば上出来というレベルだ。
沙耶とくるみはそんなゆるい環境のおかげで、すんなり新しい生活になじんでいくことができた。直はやっぱり瞬ちゃんに対する対抗心の様なものがあるのだろう。最初からわりときびしめの練習が課されるバスケ部でも、新人戦に向けてかなり本気で頑張っているのだ。
直は朝練にもバッチリ参加するので、一緒に登校することもなくなった。まあ、いくら隣同士で仲が良いからといって、中学に入っていつまでも一緒に登校しているほうが普通ではないのだが…。
テニス部には朝練はない。大昔はあったようだが、年々参加者が減り自然消滅したらしい。そんな訳で、直と話す機会もほとんどなくなり、沙耶は欲求不満の毎日を送っていた。
軽い筋トレとランニング、そして素振りというシンプルなメニューを終え、沙耶は家路に着いた。夏休みまでは、1年生はまず基礎体力をつけるということらしい。沙耶のお目当ての可愛いユニフォームはまだ着せてもらえない。
地味なジャージでの地味なメニューでテンションを上げるのは難しい。
一緒に始めたくるみはといえば、実はひそかに身体能力が高かったため、特別に2年生と一緒の練習メニューをすることになった。2年生からは憧れの可愛いユニフォームが着られるのだ。そして、何とくるみはその可愛いユニフォームを着てもいいと言われ、昨日から沙耶のあこがれのユニフォームを身につけているのだった。
(何か、想像してたのと違う…。くるみって、もっとおっとりしてて、どっちかっていうと運動音痴なのかと思ってたのに…。真逆じゃん。てか、2年とも対等にやれちゃってるじゃん。)
一ノ瀬家は両親、そして沙耶と同じ小学5年の直と、中一の瞬の二人兄弟の4人家族。沙耶の兄一樹と瞬も同い年だったこともあり、あっという間に仲良くなった。
今思えば、森崎沙耶は出会った瞬間から一ノ瀬直に恋をしていたのだろう。しかし、直の方はといえば恋心などというものにはまだ縁がなく、男友達と遊ぶのに夢中で、沙耶はいまだに自分の気持ちを伝えることができずにいた。
「なおー、直ってば、遅れるよー。」
「ごめん、今行くー。」
活発な直は小学校までは学校で唯一のスポーツクラブである野球部に所属していた。
週末はほぼ一日外にいたため肌は今でもキレイな小麦色だ。直が笑うと、褐色の肌に白い八重歯が覗く。
そして少し伸びたサラサラの黒髪が風になびくのを見るだけで、沙耶の胸はキュンと苦しくなるのだった。
二人はいま中学生1年生だ。兄の一樹と瞬も同じ中学の3年生。一樹と瞬は部活も同じ陸上で、今日も朝練のためとっくに家を出ていた。
「直、部活何にするか決めた?」
「う~ん、まだ迷ってるけど、バスケか陸上かな。」
「ふ~ん。」
「沙耶は、決めたの?」
「うん、テニス部!」
「へえ、テニス好きだったんだ。」
「好きっていうか、ユニフォームが可愛いんだもん。」
「そんな理由なの?」
「えー、だって、そんなに運動得意じゃないから、せめて可愛くないと、やる意味ないじゃん。」
「それじゃあ、そもそもやる意味ない、イテッ。」
直は沙耶に頭を軽くはたかれる。
「もう、直や瞬ちゃんみたいに運動神経がいい人に、私の気持ちは分かりません。」
「ええー、兄貴は運動神経いいけど、俺は別に普通だよ。」
「運動神経がいい人は、それが普通なんでしょ。私から見たら二人とも同じだよ。」
「そんなことないんだけどなー。」
直は不満そうにつぶやく。どう頑張っても運動では兄貴に敵わないことは自分が一番分かっている。だから、直はどちらかといえば勉強の方では兄貴に勝ってやろうと、中学に入ったとき密かに心に決めたのだった。男兄弟というのはとかく競い合うのが好きらしい。
沙耶たちの通う市立柏木中学校は一学年3クラスの小さな学校だ。3クラスしかないのに、沙耶と直は同じクラスではない。直からすればどうでもいいことだが、沙耶にしてみれば気が気ではない。
中学になると、皆一気に思春期を迎える。今まで恋愛なんて頭の片隅にもなかった直でも、まわりの女子が急に大人びてくればウブなだけに、案外コロッといってしまうかもしれない。
直はカッコイイというよりは、笑顔が可愛くて爽やかなタイプの男の子だ。身長もまだ沙耶と同じ160?くらいしかない。しかし、あっという間に追い越されるのは間違いない。なぜなら、一ノ瀬家は家族そろって長身なのだ。兄の瞬はすでに180?、母民子は170?、父幸三も182?ときている。おまけに、皆、美形なのだ。直もじきに男の子から立派な男性へと変貌を遂げるだろう。そうなれば、積極的な女子からのアプローチが始まるのは目に見えている。
自分の目が届かないところで、そんな駆け引きが繰り広げられているのを想像するだけで、沙耶は勉強に集中できなくなってしまうのだった。
「沙耶ちゃん、今日の部活見学一緒に行こう。」
中学になって最初に友達になったくるみが話しかけてきた。チャームポイントといえば明るいところくらいしか見当たらない沙耶とは違って、くるみは清楚でいかにもお嬢様といった感じの美少女だ。髪形もショートボブの沙耶とは対照的に、細くて艶やかなロングヘアだ。
「うん、楽しみだね。」
今日から一週間、新入生は興味のある部活動を見学することになっている。授業が終わり、二人は早速テニス部が活動しているテニスコートに向かった。テニスコートは運動場にはなく、道路を挟んだ向かい側にある。防犯のため、屋内の施設が昨年作られたのだ。
テニスコートに向かう途中、陸上部が練習している場所にさしかかった。何の気なしに、兄一樹と瞬ちゃんの姿を探す。一樹は長距離が専門だ。黙々とトラックを走っている。しかし、なぜか瞬ちゃんの姿を見つけることはできなかった。今日はお休みなのかな。沙耶はあまり気に留めることもなくテニスコートに向かった。運動場を通り過ぎ、道路を渡ろうと信号が青になるのを待っていた。
「あー、なんだかちょっと、緊張してきた。」くるみがあしをバタバタさせている。
「そうだねー。」
沙耶がくるみの方に顔を向けると、校舎の奥の方で抱き合っている男女の姿が目に入った。背の高いその男性は間違いなく瞬ちゃんだ。沙耶は、見てはいけないものを見てしまったようで動揺する。
瞬ちゃんは人懐っこい直とは対照的で口数が少なく、クールで大人っぽい。直はお母さん似で目がクリっとしているが、瞬ちゃんはお父さん似で切れ長の細目だ。二人とも印象は違うけれど、やっぱり美形には違いない。
そして、直と違って瞬ちゃんはすでに何人かと付き合っているらしい。
(お母さん同士の井戸端会議を盗み聞きして知ったのだけれど)
「どうかした沙耶?何か顔色が悪いけど。めっちゃ緊張してる?」
「う、ううん。だいじょうぶ。深呼吸しよ、深呼吸。」
「そうだね、私もしよ。ふぅー。」
その場は何とか誤魔化したものの、身近な人物のそういう場面を初めて目にした何とも言えない心のざわめきは、なかなか治まることはなかった。
見学の期間が終わり、沙耶とくるみはテニス部に入部届を提出した。直は悩んだ末、バスケ部に入ることに決めたようだ。
柏木中学の部活動で大きな大会に出られるのは、バスケ部と陸上部くらいで、残りの部はどこも一回戦を突破できれば上出来というレベルだ。
沙耶とくるみはそんなゆるい環境のおかげで、すんなり新しい生活になじんでいくことができた。直はやっぱり瞬ちゃんに対する対抗心の様なものがあるのだろう。最初からわりときびしめの練習が課されるバスケ部でも、新人戦に向けてかなり本気で頑張っているのだ。
直は朝練にもバッチリ参加するので、一緒に登校することもなくなった。まあ、いくら隣同士で仲が良いからといって、中学に入っていつまでも一緒に登校しているほうが普通ではないのだが…。
テニス部には朝練はない。大昔はあったようだが、年々参加者が減り自然消滅したらしい。そんな訳で、直と話す機会もほとんどなくなり、沙耶は欲求不満の毎日を送っていた。
軽い筋トレとランニング、そして素振りというシンプルなメニューを終え、沙耶は家路に着いた。夏休みまでは、1年生はまず基礎体力をつけるということらしい。沙耶のお目当ての可愛いユニフォームはまだ着せてもらえない。
地味なジャージでの地味なメニューでテンションを上げるのは難しい。
一緒に始めたくるみはといえば、実はひそかに身体能力が高かったため、特別に2年生と一緒の練習メニューをすることになった。2年生からは憧れの可愛いユニフォームが着られるのだ。そして、何とくるみはその可愛いユニフォームを着てもいいと言われ、昨日から沙耶のあこがれのユニフォームを身につけているのだった。
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