もう君を絶対に離さない

星野しずく

文字の大きさ
78 / 86

もう君を絶対に離さない.78

しおりを挟む
「笠原さん、来週の日曜に顔合わせがあるんだけど、出られそう?」

「うん、大丈夫」

「じゃあ、場所はここだから・・・」



 梨音は場所を書いた紙を渡すと、次のレッスンに行ってしまった。

 一人ひとりレッスン内容も時間も違うため、あまりゆっくり話している時間はない。

 詳しい内容も知らないのに、ほぼ勢いで出演することを決めてしまったため、やっぱり少し不安になる。

 それでも忙しい毎日はあっという間に過ぎていき、いよいよ当日の日曜日になった。



 何しろ学生さんの作品のため、特別な場所を借りるお金もないのだろう・・・。

 指定されたのはごく普通のファミレスだった。

 店内に入ると、梨音がこっちこっちと手を振っている。

 瑠璃子はそちらに向かって歩みを進めた。



「順番に面接してるから、ちょっとここで待機ね」

 演者たちは少しずつ時間をずらして呼ばれているらしい。

「じゃあ、次の方、お願いします」

「笠原さん、行こ」

「うん」



 瑠璃子たちはそれまで、面接をしている席とは背中合わせに座っていたため、その様子を伺い知ることは出来なかった。

 立ち上がって席を移動し、監督とおぼしき人の前に立った。



 お互いの顔を見合わせた瞬間、同時に「あっ・・・」という声が漏れた。

「あれ、野崎君と笠原さんって知り合いなの?なんだ、じゃあ、私付き添いしなくていいよね。これから用があるんだ」

 そう言うと梨音は二人を残して行ってしまった。



 どうやら面接を受けるのは瑠璃子が最後だったらしく、他には誰もいない。

「笠原さんがどうして養成所に・・・?」



 そうだ、野崎とはあの日出来上がった作品を瑠璃子の家に持ってきて以来会っていないのだ。

 数カ月ぶりに見る野崎は、以前よりも自信に満ちあふれているように見える。

 あいかわらず服装はモノトーンだが、今はそれが暗いイメージではなく、大人っぽい着こなしに見えてしまうのは、欲目だろうか。



 驚きのあまり、立ったままだった瑠璃子は野崎に促され腰をおろした。

「実は・・・、あれから色々あって・・・。実は今大学のほうは休学してるんです・・・」

「えっ!」

 どうして?と聞きたいが、そこまで立ち入っていいのか分からない。

 それ以前に、瑠璃子に再会できた喜びで、頭がまともに働かない。



「それで・・・、最近になって養成所に入ったの・・・」

「笠原さんと同じ苗字だなとは思ったけど、下の名前書いてなかったし・・・、まさか笠原さんが養成所にいるなんて思ってもみなかったから・・・」

「ごめんなさい・・・、私なんてまだ養成所に入ったばかりで何もできないのに・・・、図々しいよね」

「いや、そんな・・・。参加してもらえるだけで有難いよ。まだ、演者を選べるような立場でもないし・・・」



 そんな風に謙遜している野崎だが、実は瑠璃子主演のショートムービーで新人クリエイター賞を受賞していたのだった。

 さてこれからどうするかという段階になり、二人は急に無口になる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる 美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて… 表紙はかなさんです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

処理中です...