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もう君を絶対に離さない.78
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「笠原さん、来週の日曜に顔合わせがあるんだけど、出られそう?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、場所はここだから・・・」
梨音は場所を書いた紙を渡すと、次のレッスンに行ってしまった。
一人ひとりレッスン内容も時間も違うため、あまりゆっくり話している時間はない。
詳しい内容も知らないのに、ほぼ勢いで出演することを決めてしまったため、やっぱり少し不安になる。
それでも忙しい毎日はあっという間に過ぎていき、いよいよ当日の日曜日になった。
何しろ学生さんの作品のため、特別な場所を借りるお金もないのだろう・・・。
指定されたのはごく普通のファミレスだった。
店内に入ると、梨音がこっちこっちと手を振っている。
瑠璃子はそちらに向かって歩みを進めた。
「順番に面接してるから、ちょっとここで待機ね」
演者たちは少しずつ時間をずらして呼ばれているらしい。
「じゃあ、次の方、お願いします」
「笠原さん、行こ」
「うん」
瑠璃子たちはそれまで、面接をしている席とは背中合わせに座っていたため、その様子を伺い知ることは出来なかった。
立ち上がって席を移動し、監督とおぼしき人の前に立った。
お互いの顔を見合わせた瞬間、同時に「あっ・・・」という声が漏れた。
「あれ、野崎君と笠原さんって知り合いなの?なんだ、じゃあ、私付き添いしなくていいよね。これから用があるんだ」
そう言うと梨音は二人を残して行ってしまった。
どうやら面接を受けるのは瑠璃子が最後だったらしく、他には誰もいない。
「笠原さんがどうして養成所に・・・?」
そうだ、野崎とはあの日出来上がった作品を瑠璃子の家に持ってきて以来会っていないのだ。
数カ月ぶりに見る野崎は、以前よりも自信に満ちあふれているように見える。
あいかわらず服装はモノトーンだが、今はそれが暗いイメージではなく、大人っぽい着こなしに見えてしまうのは、欲目だろうか。
驚きのあまり、立ったままだった瑠璃子は野崎に促され腰をおろした。
「実は・・・、あれから色々あって・・・。実は今大学のほうは休学してるんです・・・」
「えっ!」
どうして?と聞きたいが、そこまで立ち入っていいのか分からない。
それ以前に、瑠璃子に再会できた喜びで、頭がまともに働かない。
「それで・・・、最近になって養成所に入ったの・・・」
「笠原さんと同じ苗字だなとは思ったけど、下の名前書いてなかったし・・・、まさか笠原さんが養成所にいるなんて思ってもみなかったから・・・」
「ごめんなさい・・・、私なんてまだ養成所に入ったばかりで何もできないのに・・・、図々しいよね」
「いや、そんな・・・。参加してもらえるだけで有難いよ。まだ、演者を選べるような立場でもないし・・・」
そんな風に謙遜している野崎だが、実は瑠璃子主演のショートムービーで新人クリエイター賞を受賞していたのだった。
さてこれからどうするかという段階になり、二人は急に無口になる。
「うん、大丈夫」
「じゃあ、場所はここだから・・・」
梨音は場所を書いた紙を渡すと、次のレッスンに行ってしまった。
一人ひとりレッスン内容も時間も違うため、あまりゆっくり話している時間はない。
詳しい内容も知らないのに、ほぼ勢いで出演することを決めてしまったため、やっぱり少し不安になる。
それでも忙しい毎日はあっという間に過ぎていき、いよいよ当日の日曜日になった。
何しろ学生さんの作品のため、特別な場所を借りるお金もないのだろう・・・。
指定されたのはごく普通のファミレスだった。
店内に入ると、梨音がこっちこっちと手を振っている。
瑠璃子はそちらに向かって歩みを進めた。
「順番に面接してるから、ちょっとここで待機ね」
演者たちは少しずつ時間をずらして呼ばれているらしい。
「じゃあ、次の方、お願いします」
「笠原さん、行こ」
「うん」
瑠璃子たちはそれまで、面接をしている席とは背中合わせに座っていたため、その様子を伺い知ることは出来なかった。
立ち上がって席を移動し、監督とおぼしき人の前に立った。
お互いの顔を見合わせた瞬間、同時に「あっ・・・」という声が漏れた。
「あれ、野崎君と笠原さんって知り合いなの?なんだ、じゃあ、私付き添いしなくていいよね。これから用があるんだ」
そう言うと梨音は二人を残して行ってしまった。
どうやら面接を受けるのは瑠璃子が最後だったらしく、他には誰もいない。
「笠原さんがどうして養成所に・・・?」
そうだ、野崎とはあの日出来上がった作品を瑠璃子の家に持ってきて以来会っていないのだ。
数カ月ぶりに見る野崎は、以前よりも自信に満ちあふれているように見える。
あいかわらず服装はモノトーンだが、今はそれが暗いイメージではなく、大人っぽい着こなしに見えてしまうのは、欲目だろうか。
驚きのあまり、立ったままだった瑠璃子は野崎に促され腰をおろした。
「実は・・・、あれから色々あって・・・。実は今大学のほうは休学してるんです・・・」
「えっ!」
どうして?と聞きたいが、そこまで立ち入っていいのか分からない。
それ以前に、瑠璃子に再会できた喜びで、頭がまともに働かない。
「それで・・・、最近になって養成所に入ったの・・・」
「笠原さんと同じ苗字だなとは思ったけど、下の名前書いてなかったし・・・、まさか笠原さんが養成所にいるなんて思ってもみなかったから・・・」
「ごめんなさい・・・、私なんてまだ養成所に入ったばかりで何もできないのに・・・、図々しいよね」
「いや、そんな・・・。参加してもらえるだけで有難いよ。まだ、演者を選べるような立場でもないし・・・」
そんな風に謙遜している野崎だが、実は瑠璃子主演のショートムービーで新人クリエイター賞を受賞していたのだった。
さてこれからどうするかという段階になり、二人は急に無口になる。
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