もう君を絶対に離さない

星野しずく

文字の大きさ
57 / 86

もう君を絶対に離さない.57

しおりを挟む
 映像が始まると、守は「おお」と声をあげた。

 お客様気分でちょこっとだけ参加した守と違い、野崎と瑠璃子は完全に制作者側の目で見てしまうため、まったくリラックスできない。

 そして、回想シーンの瑠璃子と守のキスシーンにさしかかると、守は体を乗り出して見ていたが、瑠璃子と野崎は何とも言えない気まずさに包まれて、さり気なく画面から目を逸らした。



「瑠璃子、俺たちほんとの恋人どうしみたいじゃん」

「う、うるさいな・・・、静かにしなさいよ」

 さり気なく肩に手を回そうとする守の手を、瑠璃子は振り払った。



 画面では二人の仲睦まじいシーンが、そして目の前ではリアルにいちゃつく二人をみせつけられ、野崎は作品を完成させた喜びにひたる気分になどなれなくなった。

 二十分ほどの映像が終わると、「すごくいいじゃん」と守だけがはしゃいでいた。

「あ、ありがとう・・・。二人のおかげだよ」

 野崎は表向きはそう答えるしかなった。



 しかし、もうどう考えても手遅れなのだが、今ではこの作品を作ったこと自体を後悔していた。

 何しろ、これを見るたびに守と瑠璃子が益々本当の恋人同士の様に見えてしまう。

 そんなもの見たいはずがない・・・。

 何の考えもなく、とにかく演者をやってもらえるならという浅はかな考えが生んだ悲劇だ。

 自分ではそういう私情を挟んでしまうため冷静に見れないが、おそらく作品としてはいいものに仕上がっているという自信はある。

 それが余計に悔しいのだが・・・。



「笹原さんは・・・、どうだったかな・・・?」

 一応見てもらった感想を聞くのがこの流れだと思って、野崎は尋ねた。

「あ、う、うん。すごくよかった・・・と思う。ごめん、何か自分が出てる映像って冷静に見れなくて・・・」

「何言ってんの?瑠璃子の表情すごくよかったよ。お前が謙遜するなんてらしくないな」

 守は瑠璃子の背中をバンバン叩いた。



「い、いたた・・・、もう!しょうがないでしょ、何もかも初めてだったんだから」

 瑠璃子は守の攻撃をかわすと、キッチンに逃げ込んだ。

「野崎君、お昼の用意するから、少し待っててね。あ、守はバイトがあるんでしょ?適当に帰っていいから」

「ああ、今日は生徒の子が模擬試験でカテキョは休みなんだ~。だから、俺も一緒にお昼食べられるよ」

「ええ~、なんでよ~」

 よりにもよって今日に限って・・・。

 せっかく野崎と二人きりになれるチャンスだったのに。



「いいじゃん、二人より三人の方が楽しいだろ?」

「別に~」

「つめたいな~」

 そう言いながらも守は楽しそうに笑っている。

 野崎はもう昼ごはんなど食べなくてもいいから、一刻も早くここを立ち去りたかった。

 これ以上、守と瑠璃子のイチャイチャを見せつけられるのは耐えられない。



「俺、映画のこととかよく分かんないけど、野崎君、才能あるんじゃない?」

 守は軽いノリで野崎に話しかけてきた。

「い、いや・・・、もちろん映画は見るのも作るのも大好きだけど、才能があるかどうかは自分じゃ分からないな・・・。ただ、どんな形でもいいから、映画にかかわる仕事に就きたいとは思ってるけど・・・」

 くそ真面目に答えてしまって、余計に自分を追い詰めてしまう。

「へえ・・・、俺は有機化学専攻してるんだ。おおざっぱそうに見られるけど、こう見えて結構細かい作業得意なんだよ」

「そうなんだ・・・、失礼ながら言わせていただくと、意外だね」

 野崎はつい正直なコメントをしてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜

こころ ゆい
恋愛
保育士の八重と外科医の一生は、小学生の頃からの幼馴染。 傍から見れば、儚く清楚に見えるらしい八重は、実は外見にそぐわぬ性格をしていた。 そのせいで、見た目につられて告白してくる男性たちは、ことごとく彼女の中身を知って離れていく。 フラれる度に、やけ食いややけ酒に付き合ってもらっている一生は優しいが、懲りずに同じような恋愛を繰り返す八重に呆れている....と思っていたら? 「....八重の可愛さは、そんなもんじゃないんです。....誰も気付かなくていい。俺だけが知ってればいい」 ーーどうやら、かなり愛されていたようです? ※じれじれ・執着・溺愛 ラブストーリー。🌱 ※この物語は、全て作者の想像で描かれたフィクションです。実際の場所・建物・人物とは関係ありません。🌱

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...