もう君を絶対に離さない

星野しずく

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もう君を絶対に離さない.40

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 だから、特に不便に感じたことなどなかったのだ。

 しかしこんなことは他人が聞けば嫌味にしか聞こえないだろう。

 瑠璃子は不自然に笑ってごまかした。



 そんな瑠璃子の表情を見て、野崎は完全にカン違いをしたらしく、えらく同情した様子で「笠原さんも色々辛い思いをしてるんだね」などと、手を握って励ましてくれた。

 野崎はどこまでも人がいいのだ。

 こんなピュアな人と、自分の様に腹黒く自己中心的な人間が一緒にいることは畏れ多いと思いながらも、だからこそもっと野崎のそばにいたいと思う。



「じゃあ、守には日曜日にって連絡しておくね」

「ありがとう。よろしく頼みます」

 野崎は丁寧に挨拶をして帰っていった。



 撮影中の野崎は真剣そのもので、だけど、すごく生き生きとしていて、つまり・・・、格好いい。

 映画監督とかがカッコイイ理由が今なら分かる気がする。

 もちろんプロの中には鬼監督みたいな人もいるんだろうけど、野崎はプロになってもそういうタイプにはならないだろう。

 そうなると、今の野崎に貫禄がプラスされることになり、想像するだけで瑠璃子の心は更にときめいてしまう。

 野崎の掛け声、動きを指示するしぐさ、そしてカメラを構える姿、そしてレンズを覗く眼光、その全てが瑠璃子にはたまらなく格好いいのだ。



 さすがにセリフを言っている時はそちらに集中している。

 そして、演技をすること自体も想像していたよりすごく楽しい。

 しかし、日に日に監督っぽさが板についてきた野崎の格好よさが、ハンパないのだ。



 無理やりだったけど、一度体を重ねてしまった野崎の肌に触れたくないと言ったら嘘になる。

 だけど、そんなことをしたら、今度こそ本当に終わりだ。

 近づきたいのに、触れることは出来ない。

 だけど、離れたくない・・・。

 苦しいけれど、今はこうして野崎に会って、彼の声を聞けること、そして撮影の時以外はあいかわらず、伏し目がちなその表情を間近で見られることが、瑠璃子に与えられた唯一の贅沢なのだ。

 もどかしい思いを抱えながらも、今はこの状態がベストなのだと自分に言い聞かせるのだった。



 平日、途切れ途切れに撮影し、ようやく迎えた土曜は、明日の二人の回想シーンのカット割りをもう一度考えたいからと、瑠璃子の撮影はお休みになった。

 先週からほぼ毎日野崎と顔を合わせていた。

 それも二人きりで。

 今日は野崎が来ないことは頭では理解しているのに、なぜ会えないのかと心が彼のことを欲しがっている。



 ふいに夏希の顔が思い浮かぶ。

『ファッションも演技もどっちもがんばらないと!』そんな声が飛んでくる。

「仕方ない、課題でもやるか」

 秋までにはデザイナーズマーケットに出品する作品をつくらなければならないけど、今はまだトレンドの分析や基本的な素材論、服の制作や応用、専門的な縫製技術を順に学んでいる。

 その先にファッションデザインというインスピレーションやオリジナリティが要求される領域があるのだ。

 瑠璃子は来週中に提出日が迫っている、トレンド研究課題に取り掛かるのだった。



 日曜の朝、瑠璃子は一人落ち着かない気分で、リビングをウロウロしていた。

 いつも野崎と二人でいる空間に、守が入るというだけで何だか妙に落ち着かない。

 野崎は、ほぼ予定通りの時間にやってきた。

「今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ」
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