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第1話
しおりを挟むクリスマス。それは子供達がサンタクロースからプレゼントを貰える、一年で一番楽しみな日。
そしてその日は、恋人達にとっても特別な日であった。故に恋人のいない者達には、この日を憎む者も少なくない。
インターネット上で発達したクリスマスを憎む文化は、やがてモテない男達を現実での凶行へと走らせた。
サンタ狩りの始まり。クリスマスイブの夜、男達は武器を手に町を練り歩き、サンタクロースを破壊して回るのである。
薄明かりに照らされた夜の住宅地。一体のサンタクロースが、エアガンによる狙撃から逃げ回っていた。
プレゼント袋を守るように動いていたため、袋を庇う背中に銃弾が当たる。
サンタ狩りの使うエアガンはネット掲示板で集まった有志による改造が行われており、実銃ほどではないが尋常ではない威力を持つ。使用する弾も通常のBB弾ではなく、サンタのボディを貫くことに適した素材で作ったサンタ狩り専用弾である。
サンタは撃たれてもなお走り続けるが、逃げた先には二人のサンタ狩り。いずれもクリスマスを共に過ごす相手がいないことに納得が行く顔立ちであった。一人は防寒着姿で金属バットを手にしており、もう一人はこの寒空の下わざわざ迷彩服のコスプレで改造エアガンを手にしている。
「クリスマスは中止だーっ!」
「性の六時間を滅ぼせーっ!」
二人のサンタ狩りは己を鼓舞するように叫ぶ。サンタは腰に差したスティックを抜くと、その先端が展開してピコピコハンマーとなった。
その武器を手に、サンタクロースは二人のサンタ狩りと対峙。手招きで挑発し、交戦の意思を示した。
銃の方のサンタ狩りが、早速エアガンを連射して攻撃。サンタはハンマーを回転させて弾を防ぐ。バットの方のサンタ狩りはサイドに回り込み、サンタの顔面めがけてフルスイング。だがサンタは手早くハンマーをそちらに向けてガード。バットとハンマーがぶつかり合う。
サンタはハンマーを強く突き上げ、バットを押し返す。そして振り返りざまに、銃の方の迷彩ヘルメットを流れるような動きで叩いた。だが所詮ピコピコハンマーなので痛みは無い。
頭を叩かれたサンタ狩りは目が虚ろになり、足がふらつく。これぞ叩いた相手を眠らせる催眠ハンマー。サンタクロースがサンタ狩りから身を守るための武器である。
ばたりと倒れて眠りこけるサンタ狩り。まずは一人撃破し、サンタはもう一人の方を向いて身構える。バットの方のサンタ狩りは、仲間を倒されてバットを握る手に力が篭る。
サンタはまたも挑発するようなポーズをとった。だがその時、背後からの銃弾が右脚を貫いた。サンタが振り返ったところで、金属バットがその頬を抉る。バランスを崩したサンタだったが、ハンマーを支えにして転倒を防ぐ。バットを喰らった顔面の装甲が剥がれ、そこから内部の機械が露出していた。
サンタはメインカメラを動かし、遠方のスナイパーをはっきりと視認する。気付かれたスナイパーはもう一発撃つが、これはハンマーで防ぐ。
遠距離用の武器を持たないサンタにとって、スナイパーは非常にやり辛い相手である。なので今はまずバットのサンタ狩りに狙いを絞る。
だがその時、背後から足音が聞こえた。サンタ狩りが更に三名、この場に駆けつけてきたのだ。
敵は五人。いかに優れたハンマー捌きのできるこのサンタも、これでは多勢に無勢であった。
スナイパーが左脚も狙撃したのを皮切りに、サンタ狩り達は一斉に手持ちの得物でサンタに殴りかかる。強固な装甲も四本の鈍器で代わる代わる殴られれば凹んで割れて、和やかで愛らしい老人の姿は見るも無惨なスクラップへと変わってゆく。
漏れ出したオイルに、回路のショートによって生じた火花が点火。サンタクロースは爆発炎上し、夜空を赤く照らした。サンタ狩りの一人が、あらかじめ用意しておいたバケツで水をかけて消火する。
「よっしゃー! 一体仕留めたぞ!」
「ざまあみろ!」
「この調子でもっと狩りまくろうぜ」
サンタ狩り達はハイタッチやガッツポーズで喜びを分かち合う。
その時、夜の闇に紛れて一つの影が降り立った。振り返るサンタ狩り達。別のサンタが、仲間の仇を討ちに空飛ぶ橇から降下したのだ。
だがサンタ狩り達は誰も動揺していない。次の獲物が来てくれたと、皆して下卑た笑みを浮べていた。
異変に気付いたのは、バットのサンタ狩りだった。ここにサンタが現れたらすぐに狙撃する手筈だったのに、スナイパーの狙撃が無い。
スナイパーの待ち構える民家に目を向けると、二体のサンタによって既に制圧されているのが見えた。
「ちっ、あいつしくじりやがった。まあいい、あの二体がこっちに来る前にこいつを潰すぞ!」
「おう!」
四人のサンタ狩りは散開し、四方から殴りかかる。一瞬、サンタの目が光ったように見えた。サンタはハンマーを大きく水平に振り回し、その勢いで全員の武器を弾く。
一人がその拍子で武器を手放し頭に直撃しそうになったが、サンタは一気に踏み込んで移動し武器をハンマーで叩き飛ばす。サンタ狩りが怪我をするのを防ぐと同時に、ハンマーをサンタ狩りの頭に当てて眠らせた。
わざわざ敵の命を救おうとする行動は、隙を晒すに他ならない。他の三人はこれを好機と、背後からの追撃に臨んだ。
サンタは左脚を軸にしてブレーキをかけると、それと同時の動きでハンマーを一人の胴に当てる。これで二人目。振り下ろされた鉄パイプに対しては、体の重心を左に傾けて躱す。
動きの鈍そうな老人の姿からは想像し難い切れのある足捌きで体勢を整えると、下から捲るようにハンマーを振って三人目を撃破。
最後に残された一人は苦し紛れに金属バットをフルスイングしてくるが、ハンマーの側面で受け流し、後ろに回り込むと共に背中を打った。
四人のサンタ狩りは沈黙。先程倒されたサンタが倒した一人も含めて、五人の男が寒空の下眠りこけていた。
戦いを終えたサンタは、先程倒されたサンタの残骸に目を向ける。無惨に破壊された物言わぬ仲間の姿に、サンタはただ呆然と立ち尽くしていた。
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