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最終章 それが俺達の絆
第457話 明暗夜光のルクガイア・飛④
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「ハァ、ハァ……。もう少しだな……」
国王の私室を後にし、俺は一人で玉座の間へと向かう。
操っていた王国騎士団はリフィーの方に回していたためか、先へ進む障害などいなかった。
残るはこの扉の先――玉座の間。
レイキースはこの先で俺を待ち構えているのだろう。
魔法で傷を回復したとはいえ、連戦の疲弊は抜けきっていない。
この体でレイキースの相手をできるかは分からないが、それでもやるしかない。
もしかしたらラルフルとも戦わなければいけないが、とにかく優先すべきはレイキースだ。
レイキースさえ倒せば、全てが終わる。
「フゥ……よし!」
一息ついて呼吸を整えなおした俺は、意を決してその扉を開けた――
■
「……とうとうここまで来たか、ゼロラ。いや……【伝説の魔王】ジョウイン!」
「レイキース……!」
扉の先で奴は玉座の座って待っていた。
王都の人々を洗脳し、ミライとリョウを捕らえて人質とし、こうしてこの国を自らの色に染めようとしている、この騒動の元凶――
【栄光の勇者】――レイキース。
「おい。そこはお前が座っていい場所じゃないぞ。さっさと玉座からどけ」
「魔王が偉そうな口を叩くな。元よりこの国の王は無能だった。元々は貴族の言いなりで、今はこうして魔王を引き込むという、あまりに正義に反する行為の数々……。それならば、僕がこの玉座に座っていた方が余程相応しい」
俺の異議に対しても、レイキースは応じる姿勢を見せない。
自らを絶対とし、他の主義主張など認めない。
こんな奴がユメと同じ勇者なのかと思うと、吐き気さえ覚えてくる。
「レイキース。てめえは俺を倒すためだけに、ここまで人々を波乱に巻き込んだのか?」
「その通りだ。そもそもこの国の人間達の方がおかしいんだ。【伝説の魔王】だったお前を受け入れ、貴族の後ろ盾を失った僕が権力の座から落ちていく、改革という愚行……。それら全てを正当化していること自体、異常でしかない」
「そうやっててめえの考えに他の人々を巻き込んで、てめえ自身は満足か?」
「満足も何も、さっき言った通りに正しい姿に戻しているだけだ。これは勇者である僕に与えられた、責務というものだ」
なおも問いかける俺の言葉にも、レイキースはしっかりと聞く耳を持たない。
本当に何でこんな奴が、"勇者"になれたんだ……?
――いや、その疑問の答えはおそらく、レイキース自身が持っている。
「……レイキース。一つ俺の質問に答えろ」
「魔王が勇者である僕に質問だと? 身の程をわきまえろ。お前の話を聞く義理は――」
「だったら勝手に言わせてもらう。てめえの先代――【慈愛の勇者】ユメについてだ」
「……何が言いたい?」
俺がユメの名前を出すと、レイキースは険しい顔をしながら興味を示した。
ようやく俺の言葉に興味を持ったのが、この話とはな――
俺が【伝説の魔王】ジョウインとして死んだ時、レイキースは俺にこう語っていた――
『先代勇者ユメならば、魔王である貴様に与した罪で処刑された』
――だがこの話はルクガイア王国に伝わる伝承とは異なる。
もしレイキースが伝承を知っているならば、そんな話は出てこないはずだ。
伝承の内容はロギウスやバクトによって、こう変えられている――
『先代勇者ユメは魔王の伴侶となり、孤独の中で死んでいった』
――もちろんこの内容も事実ではない。
こうやって間違った伝承が伝えられたのも、"追憶の領域"を守る四人によって、ユメの名が後世に悪名として残らないように施された配慮だった。
むしろ事実という点で言えば、レイキースの言っていることの方が近い。
"人と魔の共存"というユメの思想を妬み、それを消し去るためにユメに刺客を差し向けた貴族――
その貴族自身はイトーさんによって倒されたが、下手人の正体は今でも分からない。
だが、"このこと"が事実ならば、全てに辻褄があってくる――
「先代勇者を……ユメを殺したのは、てめえだな? レイキース……!」
俺は考え付いた結論を、レイキースへと投げかけた。
その俺の言葉を聞いたレイキースは――
「……フン。魔王のくせに頭だけは回るようだ。お前の思っている通り……僕があの"裏切り者"を殺した」
――なんの感慨もなく、あっさりと肯定した。
俺の中で、どんどんと怒りがこみあげてくる。
今すぐにでもこいつを殴り飛ばしたい。
だが俺は真実を確かめるためにも、拳を握ってただ耐えた。
耐えて……レイキースの次の言葉を待った。
「どうせお前はここで死ぬんだ。冥土の土産に教えてやろう。お前が知りたがっている、"あの日"の真実を――」
国王の私室を後にし、俺は一人で玉座の間へと向かう。
操っていた王国騎士団はリフィーの方に回していたためか、先へ進む障害などいなかった。
残るはこの扉の先――玉座の間。
レイキースはこの先で俺を待ち構えているのだろう。
魔法で傷を回復したとはいえ、連戦の疲弊は抜けきっていない。
この体でレイキースの相手をできるかは分からないが、それでもやるしかない。
もしかしたらラルフルとも戦わなければいけないが、とにかく優先すべきはレイキースだ。
レイキースさえ倒せば、全てが終わる。
「フゥ……よし!」
一息ついて呼吸を整えなおした俺は、意を決してその扉を開けた――
■
「……とうとうここまで来たか、ゼロラ。いや……【伝説の魔王】ジョウイン!」
「レイキース……!」
扉の先で奴は玉座の座って待っていた。
王都の人々を洗脳し、ミライとリョウを捕らえて人質とし、こうしてこの国を自らの色に染めようとしている、この騒動の元凶――
【栄光の勇者】――レイキース。
「おい。そこはお前が座っていい場所じゃないぞ。さっさと玉座からどけ」
「魔王が偉そうな口を叩くな。元よりこの国の王は無能だった。元々は貴族の言いなりで、今はこうして魔王を引き込むという、あまりに正義に反する行為の数々……。それならば、僕がこの玉座に座っていた方が余程相応しい」
俺の異議に対しても、レイキースは応じる姿勢を見せない。
自らを絶対とし、他の主義主張など認めない。
こんな奴がユメと同じ勇者なのかと思うと、吐き気さえ覚えてくる。
「レイキース。てめえは俺を倒すためだけに、ここまで人々を波乱に巻き込んだのか?」
「その通りだ。そもそもこの国の人間達の方がおかしいんだ。【伝説の魔王】だったお前を受け入れ、貴族の後ろ盾を失った僕が権力の座から落ちていく、改革という愚行……。それら全てを正当化していること自体、異常でしかない」
「そうやっててめえの考えに他の人々を巻き込んで、てめえ自身は満足か?」
「満足も何も、さっき言った通りに正しい姿に戻しているだけだ。これは勇者である僕に与えられた、責務というものだ」
なおも問いかける俺の言葉にも、レイキースはしっかりと聞く耳を持たない。
本当に何でこんな奴が、"勇者"になれたんだ……?
――いや、その疑問の答えはおそらく、レイキース自身が持っている。
「……レイキース。一つ俺の質問に答えろ」
「魔王が勇者である僕に質問だと? 身の程をわきまえろ。お前の話を聞く義理は――」
「だったら勝手に言わせてもらう。てめえの先代――【慈愛の勇者】ユメについてだ」
「……何が言いたい?」
俺がユメの名前を出すと、レイキースは険しい顔をしながら興味を示した。
ようやく俺の言葉に興味を持ったのが、この話とはな――
俺が【伝説の魔王】ジョウインとして死んだ時、レイキースは俺にこう語っていた――
『先代勇者ユメならば、魔王である貴様に与した罪で処刑された』
――だがこの話はルクガイア王国に伝わる伝承とは異なる。
もしレイキースが伝承を知っているならば、そんな話は出てこないはずだ。
伝承の内容はロギウスやバクトによって、こう変えられている――
『先代勇者ユメは魔王の伴侶となり、孤独の中で死んでいった』
――もちろんこの内容も事実ではない。
こうやって間違った伝承が伝えられたのも、"追憶の領域"を守る四人によって、ユメの名が後世に悪名として残らないように施された配慮だった。
むしろ事実という点で言えば、レイキースの言っていることの方が近い。
"人と魔の共存"というユメの思想を妬み、それを消し去るためにユメに刺客を差し向けた貴族――
その貴族自身はイトーさんによって倒されたが、下手人の正体は今でも分からない。
だが、"このこと"が事実ならば、全てに辻褄があってくる――
「先代勇者を……ユメを殺したのは、てめえだな? レイキース……!」
俺は考え付いた結論を、レイキースへと投げかけた。
その俺の言葉を聞いたレイキースは――
「……フン。魔王のくせに頭だけは回るようだ。お前の思っている通り……僕があの"裏切り者"を殺した」
――なんの感慨もなく、あっさりと肯定した。
俺の中で、どんどんと怒りがこみあげてくる。
今すぐにでもこいつを殴り飛ばしたい。
だが俺は真実を確かめるためにも、拳を握ってただ耐えた。
耐えて……レイキースの次の言葉を待った。
「どうせお前はここで死ぬんだ。冥土の土産に教えてやろう。お前が知りたがっている、"あの日"の真実を――」
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