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最終章 それが俺達の絆

第456話 明暗夜光のルクガイア・飛③

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「くそ! どうなってるんだ!? リフィーはゼロラを取り逃がしたようだし、"紅の賢者"もどこへ行った!?」

 王宮・ルクガイア城の玉座の間。
 そこでレイキースは独り言のように、己の心境をぶちまけていた。

 探知式の結界魔法で、王宮敷地内の状況はレイキースにも理解できた。
 だが、自らの命令で異形化の薬物を投与したリフィーは完全に理性を失い、ゼロラではなく王都の方へ向かい、暴れ始めている。
 レイキースの思惑とは裏腹に、リフィーはゼロラを取り逃がしてしまっていた。

 レイキースが"紅の賢者"という高名な賢者だと思っていた人物――ダンジェロもまた、<マジックジャマー>で自らの行動をレイキースに探られないようにしていた。
 ダンジェロは元よりレイキースの思惑などどうでもよく、ただ己の欲望に従って動いていただけであった。
 そんなダンジェロも自らが望む結果を見ることができたため、レイキースのことは用済みとなって見放していた。

「くそぉ……くそぉおお!! 僕は勇者だぞ!? 【栄光の勇者】レイキースだぞ!? そんな僕が、なんでこんなに追い込まれないといけないんだぁああ!?」

 レイキースはこの状況に、ただただ怒りをぶちまけていた。
 勇者である自身の味方はことごとくその手を離れ、魔王だったゼロラが確実に近づいてきている――



 ――その現実は"勇者と魔王の戦い"において、"勇者の絶対性"を信じ込むレイキースにとって、耐え難いものであった。



「……仕方ない。もうじきゼロラはここに来るだろう。奴も一応は消耗しているはずだ。僕自らの手で、引導を渡してやる!」

 レイキースは拳を握りしめ、決意を固める。
 全ては"正義"のため―― "正義"と言う名の、己の独善的な野心のため――
 レイキース自身にそこまで深い考えはなかったが、それでもゼロラを倒すことがこの世にとって最も正しいことだと、レイキースは信じて疑わなかった。



「それに……こちらにもまだ手札は残っている。なあ……ラルフル」
「…………」

 レイキースは近くにいたラルフルへと目を移し、語り掛ける。
 レイキースが施した最大レベルの<ライトブレーウォ>により、ラルフルはただレイキースに従うだけの人形となっていた。
 虚ろな目をしたまま、レイキースの言葉をただ耳に入れる――

「ラルフル。最初は僕がゼロラの相手をする。たとえかつての【伝説の魔王】であったとしても、今は魔力を失っている。おまけにここまでの戦いで疲弊しているはずだ。僕の手ですぐに勝負がつくだろう」

 レイキースはゼロラとの戦いに、確実な勝算を見出していた。
 現在のゼロラの状況を考えると、レイキースに負ける気は毛頭なかった。



 それでも保険として、レイキースはラルフルに一つ命じる――



「もしも僕が苦戦するようなら……お前がゼロラを倒せ」
「ゼロラさんを……倒す……」



 "ラルフルにゼロラを倒させる"。
 それがレイキースの用意した保険――

「お前はたとえ何度倒されようと、ゼロラを倒すまで止まるな。ゼロラもお前を殺すことまではしないだろうが、お前は死ぬまでゼロラと戦い続けろ」

 ――続けてレイキースから語られた言葉は、ラルフルに対する悪魔のような命令。
 レイキースもゼロラとラルフルの関係は知っている。
 表立ってこそ出さないが、師弟関係とも言える間柄――
 ゼロラではラルフルに止めを刺せないと踏んだうえでの、レイキースが考え出した作戦だった。

「<ライトブレーウォ>の効果でこの命令は覆らない。たとえ僕が倒れることがあっても、お前はもうゼロラが倒れるまで、止まることは許されない……!」
「……かしこまりました。レイキース様」

 レイキースはラルフルに再三命じ、その命令の効果を強める。
 ラルフルはただその命令を飲むことしかできない。
 強大な力でかけられた<ライトブレーウォ>は、ラルフルの肉体を縛り付けていた――

















「ゼロラさんと……戦えるのですね……」

 ――それでもラルフルはレイキースに聞こえないように、小さな声で内なる思いを呟いた。

 たとえレイキースの支配下にあろうとも、ラルフルの精神は"完全に"乗っ取られたわけではない。
 内に眠る自らの意志を保ち、自らが望む戦いの訪れを、ただ静かに耐えながら待ち望む。



 "ゼロラを超えたい"という、その望み。



 レイキースには知ることのできないそのラルフルの本心は、命令とは別に確かに心に残っていた――
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