記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

文字の大きさ
438 / 476
最終章 それが俺達の絆

第438話 明暗夜光のルクガイア・破②

しおりを挟む
「おじいちゃん……。パパ……だいじょうぶだよね?」
「安心しろ、ミライ。お前さんのお父さんは強い」

 王都から離れた宿場村で、ミライは祖父であるイトーに抱きかかえられながら、不安そうに父ゼロラの帰りを待っていた。
 イトーはミライに優しく声をかけながら、その不安を和らげようとしている。

 二人がいる宿場村に、王都の異変はまだ耳に届いていなかった。
 それでも二人は、何か胸騒ぎを感じていた。
 お互いにお互いを心配させまいと口にはしないが、夜風の肌寒さを感じながら、何か張り詰めた空気を感じていた。

 ――それはまるで、"ユメを失ったあの日"と同じような、喪失感が迫ってくる感覚――





 ――シュンッ!


「……見つけましたわ。"魔王の娘"」
「だ、誰だ!?」

 部屋の中で身を寄せ合っていた二人の元に、突如一人の女が現れた。
 当代勇者パーティーの一人、賢者リフィー。
 その女は光のない瞳で、ミライへと目を向けた。

「ひいぃ!? こ、この人……レイキースといっしょにいた人……!?」
「賢者リフィーだったか……? 一体、ここへ何をしに来た!?」

 怯えるミライを自身の背に隠し、イトーは腰に携えた刀に手を当てる。
 目の前にいるリフィーの目的は分からない。
 それでも、この女が"敵である"ことは、イトーにも瞬時に理解できた。

「邪魔をしないでほしいですわ。"魔王の娘"を守るなら、あなただって同罪ですよ?」

 そんなイトーの姿にもリフィーは何の感情も起こさず、ただ与えられた命令を遂行しようとする。
 レイキースの<ライトブレーウォ>によって完全に自我を失い、命令に従うだけの人形となったリフィー。

 レイキースの命令を守るため、両手から電撃魔法をイトー目がけて放った。

「ぐがぁあ!? く、くそ!? 流石は"賢者"を名乗るだけのことはある! なんて魔法だ……!」
「お、おじいちゃん!?」

 リフィーの電撃魔法に何とか耐えるイトーだったが、勝算の薄さを感じ取っていた。
 イトーは剣技だけを見れば、ルクガイア王国内でも屈指の腕間の持ち主。
 それでも魔法で遠距離から攻められては、近距離でしか戦えず、ましてや年齢のせいで体力が衰えたイトーでは、圧倒的に不利だった。

 そんな祖父イトーの姿を心配し、孫のミライが前方へと出てきてしまう――

「これは好都合ですわね」

 リフィーは丁度目の前に出てきたミライへ、右手をかざす――


 ガシィイ!


「うわー!?」
「ミ、ミライ!?」

 ――そしてその右手から放たれた拘束魔法。
 ミライも必死に逃げ出そうとするが、ラルフルから貰った帽子だけを残し、その体を魔法の檻の中へと閉じ込められてしまった。

「この"魔王の娘"さえいれば、わたくしの目的は達成ですわよ」
「ま、待ってくれ! ミライを返してくれ! どうせ捕まえるなら、俺を――」
「わたくしは『"魔王の娘"を捕まえろ』と言われただけですわ。あなたに用はありませんわ」

 イトーの訴えは、リフィーの冷たい声によってあっさり跳ねのけられてしまう。
 『"魔王の娘"――ミライを捕まえる』という目的を果たしたリフィーは、イトーには目もくれずに別の魔法を唱え始める――

「お、おじいちゃ-ん!!」
「た、頼む! その子を連れて行くことだけは――」


 シュンッ――


 なおも必死に呼びかけるイトーの声もむなしく、リフィーはミライを連れてテレポートで消えていった。
 さっきまで二人一緒にいた部屋に残されたのは、イトーとミライの帽子だけだった――

「ミ、ミライ……。な、なんであの子が……。くそぉ……!」

 イトーは残された帽子を抱えながら、ただ悔しさに体を震わせていた。
 リフィーの目的の詳細までは分からない。
 だがミライを"魔王の娘"と呼び、当代勇者に従っているその行動から、イトーは言いようのない不安に襲われていた。

 それはミライの母でもある、娘のユメを失ったと知った時と同じ心境――
 その喪失感に、イトーは再び襲われていた。

「だ……誰か……。ミライを助けてやってくれ……!」

 誰もいなくなった室内で、イトーはその悲痛な思いを口にした。
 急な事態に混乱し、何をしたらいいのか考える余裕さえ、イトーにはなくなっていた――





「祖父ヨ、嘆くナ。マダなんとかスル方法はアル」
「……え?」

 ――そんな時だった。
 嘆き悲しむイトーに対して、誰かが声をかけてきた。
 どこかノイズの入ったような声だが、その声はイトーの身を案じていた。

 そして、声はイトーが抱えている帽子の中から発せられていた――

「運がイイ。あの"ワタシ"がズット身に着けてイタおかげデ、ワタシもコウシテ具現化できる」
「お、お前さんは……まさか……?」

 イトーの手から帽子が浮かび上がり、そこから新たな人影が現れる。

 ミライがラルフルにもらって以降、ずっと身に着けていたためか、ミライの力の一部が染みついた帽子――
 それを媒体にして現れたのは、ミライと同じ形をした、白髪の少女だった――



「ワタシも"ミライの一人"ダ。説明デキル能力ではナイが、今はワタシを信じてホシイ。我が祖父ヨ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...