記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第28章 勇者が誘う、最後の舞台

第425話 勇者という存在

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 レイキース、リフィー、そして――ダンジェロ。
 三人はボーネス公爵とジャコウを救出した後、王都の近くの隠れ家へと忍んでいた。

「ああ! ボーネス公爵! あなたも無事だったのですね!」
「レーコ公爵! そちらも無事だったのか!」

 隠れ家にはレーコ公爵の姿もあった。
 フロストにより追い詰められ、まともに公の場に姿を出せなくなったレーコ公爵も、レイキースの手でこの隠れ家に匿われていた。

「さて、ボーネス公爵にレーコ公爵。僕はこれからこのルクガイア王国を、"正しい道に戻す"戦いを始めます。そのためにも、あなた達が知っていることを、すべて話してもらいたい」
「分かった! 【栄光の勇者】レイキースさえいれば敵なしだ! ガハハハッ!」
「今に見てなさいよ……! 私達がこの国の頂点に、再び返り咲いてみせるわ! オーホホホ!」

 レイキースが自分達の思想に前向きな様子を見て、ボーネス公爵とレーコ公爵は自信を取り戻していた。
 そして貴族の復権のために、知りうる情報をレイキースへと話始めた――

 ジャコウが手を加えた、<ナイトメアハザード>の存在。
 改革が成立した後の、ルクガイア王国の現状。
 ボーネス公爵が行った、海上での戦い。

 ――そしてそれらの中に、ゼロラの存在があったこと。

「成程……。情報はそこまで多くはないが――」

 それを聞いたレイキースは、何かを考察し始めた。

 レイキースが<ナイトメアハザード>の元凶を倒すために魔王城へ赴いた時、ゼロラによる邪魔が入った。
 本来は勇者である自身が解決するはずだった異変を、勇者でも何でもないゼロラが解決してしまった。
 改革自体もゼロラの存在があったからこそ、成立していた。



 ――ゼロラの存在はレイキースにとって、この上なく目障りであった。



「ゼロラ……。あいつの詳細が分かれば、手の打ちようはあるが――」
「ゼロラ公ならば、現在は王宮で娘と共に過ごしておられるようだ」
「娘? それは本当なの? "紅の賢者"」

 レイキースの思考に口を挟んだのは、"紅の賢者"ことダンジェロであった。
 リフィーもその言葉に耳を傾け、詳細をダンジェロから聞こうとする。

「元々、彼は記憶を失っていたのだがね。最近その記憶を取り戻し、生き別れた娘との再会を果たしたそうだ」

 ダンジェロはゼロラについての説明と共に、胸元から一枚の写真を取り出す。
 そこに写っていたのは、親子三人の姿だった。

「この中央にいる少女が、件の生き別れた娘だ」
「こ、この少女は!? 髪の色などは違うが、僕達が魔王城で見た、"魔王の娘"!? それに横にいる女は、"裏切り者"の先代勇者か!? それに、【伝説の魔王】もいるだと!?」
「そ、それじゃあ……あのゼロラって男の正体はもしかして……!?」

 レイキースとリフィーはダンジェロの説明から、ゼロラの正体に勘づいた。
 かつて自分達が倒したはずの【伝説の魔王】――ジョウイン。
 それが姿と身分を変え、こうして生きていた。
 しかも現在、自分達の地位を脅かす改革の中心に立っている――

「なんてことだ……! こんなこと、許されていいわけがない!! 僕は絶対に……認めない!!」

 レイキースは強く拳を握り、歯ぎしりをたてる。
 "勇者こそが絶対的正義"と考えるレイキースにとって、かつて【伝説の魔王】であった者が生きていられる世界など、吐き気しかしなかった。

「……こいつを始末しよう。あの裏切り者の先代勇者――ユメと同じように」
「ほう? 『始末する』とな? 小生はユメ様については、『【伝説の魔王】の元で死んだ』と聞いているが……何やら、卿は別の何かを知っているようだな?」

 冷たい口調で決意を露にするレイキースに、ダンジェロがふと気になったことを口にした。
 先代勇者ユメの最期は王国の伝承では、『自らが犠牲となり、【伝説の魔王】と無理矢理結婚させられ、その果てに死んだ』ことになっている。
 ダンジェロもそのことは知っている。

 ――そして、元魔王軍四天王であるダンジェロは、"それが嘘"であることも知っている。
 何者かの介入が入り、捻じ曲げられた事実が伝承として残っていた。

 それでもダンジェロにとって、『なぜ事実が捻じ曲げられたのか?』はどうでもよかった。
 興味を持ったのは、『レイキースが本当は何を知っているのか?』だけであった。

「……このことをお前に教える義理はない。お前の実力は評価している。もし知りたいのならば、今後も僕に協力しろ。全てが正しく戻った後なら、教えてやってもいい」
「ハッハッハッ……! 結構結構。小生も今は、卿の意志に従うとしよう」

 そっけない返事を返すレイキースに、ダンジェロはそれ以上の言及をしなかった。
 ただ、ダンジェロは"あること"に気が付いていた。
 そしてそのことをゼロラが知った時、どのような事態が起こるか――

 その楽しみさえあれば、ダンジェロにとって他のことはどうでもよかった。

「ジャコウ。お前の研究成果を僕によこせ。今更嫌とは言わせないぞ? ユメの件については、お前だって関わっている」
「は、はい……。分かっておりますじゃ……」

 レイキースはジャコウを睨み、その研究成果を受け取った。

 ジャコウが開発した、<ナイトメアハザード>の変異型。
 ボーネス公爵を異形の怪物へと変えた薬物。

 囚われていたジャコウが持ちだせたものは少なかったが、それでもレイキースにとっては十分だった。

「<ナイトメアハザード>か……。これはおそらく、<魔王の闇>が元となっているのだろう。あの"魔王の娘"は勇者の血も引き継いでいる。ならば、<勇者の光>が混ざり合ったことも、影響していそうだな……」

 レイキースは一人ぶつぶつと考えながら、ジャコウから受け取ったガラス容器を眺める。
 そうして中に含まれている<ナイトメアハザード>の特性を考え、レイキースは一つの可能性を見出した。

「……リフィー。ちょっとこっちに来てくれ」
「はい。何かいい案でもありましたか?」

 その可能性を立証するために、レイキースはリフィーを近くに呼んだ。




 そして、容器を開けて<ナイトメアハザード>を少し手に取り、そこへ自らの<勇者の光>を含ませた。

「レイキース様? 何をするつもり―― んぐぅ!?」

 そのままレイキースは<ナイトメアハザード>を、リフィーの口元へと押し当てた。
 突然の出来事に驚き、体を強張らせるリフィーだったが、次第に力が抜けて、ダラリと立ちすくむ――



「リフィー。僕の言葉は聞こえるね?」
「はい……レイキース様」
「レ、レイキース? 一体、リフィーに何をしたの?」

 レイキースの突然の行動に、レーコ公爵も驚きながら尋ねた。
 そんなレーコ公爵の言葉も意に介さず、レイキースはリフィーにあるものを手渡した――

「これは<光毒針>だ。使い方は……分かるな?」
「はい……分かります」

 レイキースの言葉に対し、リフィーは虚ろな目と声で答える。
 渡された<光毒針>を手に握り、次の言葉を待つように、ただ黙って立っている――

「レイキース! リフィーはどうなったのよ!? 教えなさい!」
「……うるさい女だ。まあ、もう用済みだから、少しぐらい我慢するか」

 レーコ公爵もリフィーの変化に恐怖に近い驚きを見せるが、レイキースはそんな姿を冷たく嘲笑う。

 そしてレイキースは、リフィーにあることを命じた――






「リフィー。レーコ公爵を殺せ」
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