記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

文字の大きさ
上 下
424 / 476
第28章 勇者が誘う、最後の舞台

第424話 紅の反逆

しおりを挟む
「なんだ~、こいつ? "紅の賢者"とか言ーみてーだが……」
「レイキースの仲間か? "賢者"ということは、魔法の使い手だろうが……」

 フロストとバクトはダンジェロのことは知らない。
 だが、そのいで立ちと肩書から、魔法の使い手であると予想していた。

 そして同時に、不安と恐怖にかられた。
 <マジックジャマー>によって魔法が封じられたこの場で、レイキースを押しのけてまで前線へと出てくる意味――
 理解できないその行動が、油断ならない敵であることを、二人に感じさせた。

「感服感服。諸君は小生を侮らぬか。だが……無意味!」

 ダンジェロは左手を、フロストとバクトへと振り払う。
 そこから放たれたのは、黒いもや――



「<詠唱の黒霧>……点火!!」


 パチンッ!

 ボォオオン!!


「な!? 爆発!?」
「魔法は防いだはずだろ!?」

 ダンジェロが<詠唱の黒霧>を放った後に鳴らされた指パッチン――
 その音と同時に、フロストとバクトは壮大な爆炎に巻き込まれた。

「うぐ……ぐぐ……!」
「き、貴様は……一体……!?」

 全身を焼く激痛が二人を襲う。
 その痛みに耐えきれず、二人はその場に倒れ伏してしまった。

「へえ……大したものだ。魔法が無効化された状況下で、これほどの爆発魔法を使えるとは」
「このような魔法はわたくしも知りませぬわ。"紅の賢者"という名前も、納得できますわね」
「ハッハッハッ……。恐縮恐縮」

 ダンジェロはレイキースとリフィーに賛辞を送られている。
 当のダンジェロ本人は表面的な感謝を述べているが――



「……愚劣愚劣。眼の眩んだ勇者……だ」



 ――周りには分からぬように、嘲笑っていた。



「レイキース! よくやった! 早くわしを助けるのだ!」
「わ、わしも頼む! ここから出すのじゃ!」
「ええ、お待ちください」

 フロストとバクトが倒れたのを見て、ボーネス公爵とジャコウは必死に助けを求めた。
 レイキースもそれに応え、探し出した牢屋のカギを使い、二人を外へと出した。

「おお! 助かったぞ!」
「よくもわしらをこんな目に会わせてくれたな~!」
「二人とも、今は脱出が先です。ここから先の計画は、僕の方で立ててあります」

 レイキースはいきり立つボーネス公爵とジャコウを宥めながら、魔幻塔から去っていった。

「この二人がいれば、わたくし達の正義が再び、世に行き渡るのですわね……!」

 リフィーもこれからの計画に期待を寄せ、レイキースの後をついて行く。



「……はてさて、小生も去ろうと思うが……この<マジックジャマー>という道具――使い道がありそうだ。有難くいただいていくとしよう……!」

 ダンジェロも同じように去ろうとするが、その前にフロストが使っていた<マジックジャマー>を奪って行った。





「おい……バクト。無事か……?」
「かろうじて……だがな。護衛二人も、命に別状はないらしい」

 レイキース達がいなくなったのを確認し、フロストとバクトは体を起こす。
 ダメージは大きく、体の自由は効かないが、それでも致命傷には至らずに済んでいた。

「レイキースの奴ら……。相当やべーことを考えてるな~……」

 フロストは混乱しつつも、事態を整理する。
 レイキースが魔幻塔にやってきた目的は、"ボーネス公爵とジャコウの救出"。
 そして、二人を救出した目的はおそらく――"改革派への反旗"。

 自らの地位を返り咲かせるため、レイキースはボーネス公爵とジャコウの力を借りるつもりであることは、容易に想像できた。

「クソッ……! レイキースの奴……まさかこんな凶行に出てくるとは……!?」

 バクトにも状況は理解できた。
 当代の勇者がルクガイア王国へと敵意を向け、自らの欲求のためにその力を振るおうとしている――

 先代勇者ユメの墓を守り続けていた二人にとって、この事態はあまりに衝撃的だった。
 ユメが願った"共存という正義"とは違う、"自己中心的な正義"――
 同じ"勇者"であるはずが、ここまで思想に違いが出るものかと、困惑していた。



「それにしても……レイキースと一緒にいた、あの"紅の賢者"ってーのは何者だ~?」
「俺も知らん……。レイキースに協力してるようだが、只者ではないな。……何より、一つ気になることがある」

 そしてフロストとバクトがもう一つ気になっていたのは、"紅の賢者"――ダンジェロの存在。
 二人はダンジェロのことなど何も知らなかったが、その行動において、一つだけ不可解な点があった――



「フロスト。さっきのあいつは……本当に、"魔法を使った"のか?」

 ――バクトはその疑問を、フロストへと投げかけた。

 <マジックジャマー>によって、魔法が無効化された状況下で引き起こした爆発――
 フロストもバクトと同じ疑問を抱いていた。

 だが、フロストはダンジェロが引き起こした爆発に対し、思い当たる節があった。
 それは自らも研究で"よく使うもの"だったからこそ、考えられた可能性――
 詳細まで断言はできなかったが、一つだけ確信を持って言えることがあった――



「……"魔法は使ってない"な。あいつが使ったのは、おそらく――」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...