記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第24章 常なる陰が夢見た未来

第350話 魔王城走馬灯⑥

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「【伝説の魔王】も呆気ないものだったな。こんな魔物に惚れたという、先代勇者もおかしな女だ」
「全くですわね」
「お二方とも。ユメ様への悪口はお控え願いたい……」

 レイキース達はその後もジョウインが動かなくなるまで、攻撃を加え続けた。

 剣で斬り、貫き――
 魔法で束縛し、焼き――

 そんな無情な攻撃を繰り返し、ジョウインが完全に倒れるまで続けた。
 そして今レイキース達三人の目の前にいるのは、魔王の証である仮面をつけたまま、地面に突っ伏すジョウインの姿――



 【伝説の魔王】とまで呼ばれたジョウインの最期は、あまりにあっけないものであった。



「さあ、帰るぞ。【伝説の魔王】が倒れたことを王国に報告し、勇者レイキース達の名を世に知らしめるのだ!!」

 ジョウインの最期を確認したレイキース達は、魔王城を後にした。

 城の中にはもう誰一人としていない――
 城内にいたものは殲滅した――
 レイキース達三人はそう考えていた。










「パ……パパ……?」

 だが、"一人だけ"生き残っている者がいた。

 ジョウインとユメの娘――ミライ。
 その幼い少女だけは、レイキース達の襲撃から難を逃れていた。
 ミライはレイキースが来ることを察知したジョウインにより、結界の張られた部屋に匿われていた。
 そのおかげでミライは無事だったが、ジョウインが倒れたことにより結界が解かれたため、レイキース達が去った後に部屋から出てきたのだ。

「パパ……。こんなところでねてたら……ママにおこられるよ?」
「…………」

 ミライの呼び声に、倒れたままのジョウインは答えない――

「ねえ……パパ? どうしちゃったの……?」
「…………」

 ミライはすぐに理解できなかった――

「パパ……? ねえ! パパー!?」
「…………」

 目の前で倒れている父が、もう起き上がらないことを――















「ああ……あぁ……! アアアァアアアァアァアアッ!!??」

 暫くして、ミライはようやく理解した。
 父ジョウインが"死んでしまった"ことを――

「なんデ!? ナんで!? ナンでパパが死なナきゃいけナイの!? ウワァァァアアン!!」

 ミライは大声で泣き叫んだ。
 目の前の現実を受け入れられず、ひたすらに泣き叫んだ。

「嫌だヨォ……! コンな世界……認めタくないヨォ……! アアァアアァアアッ!!」

 ミライの両眼からあふれる涙は、赤い血の涙へと変わっていた。
 その血の涙はどんどんと溢れ出し、着ている紫色の魔道服をも赤く染め上げていく。

「憎イ……憎イヨォ……! ワタしから家族ヲ奪った世界ガ、人間ガ、勇者ガァアア……!!」

 さらにその嘆きに呼応するかのように、ミライの黒髪もどんどん白く変化していく。

「パパ、いなイ……! マ……ママも……いなイ……!?」

 そして、ミライはもう一つ理解した。
 嘆き叫ぶ中で魔王城でのレイキース達のやりとりを、ミライは無意識のうちに感じ取っていた。
 それは【伝説の魔王】と【慈愛の勇者】を両親に持つ、ミライの膨大な魔力と魔法の潜在能力が可能にした力――
 少し前に玉座の間で起こった出来事が、真実を知ろうとするミライの頭の中に映し出された。

「ウアァァァアン!! パパァ……! ママァ……!」

 泣き叫び続けるミライの周りに、いつしか黒い闇が現れ始めた。
 それはミライが抱く、絶望、嘆き、悲しみ、憤怒――

 あらゆる負の感情とその膨大な魔力があるからこそ生み出された、<魔王の闇>以上の負の力――<ナイトメアハザード>。

「あアァう……! ウあぁ……アァ……!」

 ミライはなおも泣きながら、座る者のいなくなった玉座へと寄り掛かった。

 もうミライと一緒にいてくれる者はいない――
 もうミライに手を差し伸べてくれる者はいない――

 そんな悪夢の中で、ミライの世界は深い闇へと閉ざされていった――










「ミ……ミラ……イ……」

 そんなミライに、ジョウインがわずかにこぼした言葉は届かなかった――
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