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第23章 追憶の番人『ドク』

第322話 次の王に相応しき者

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「やはりガルペラ侯爵に王位は無理がありそうだな。……となると、やはり我が息子のロギウスになるか」
「むしろ、なんで最初にロギウスの名前が出なかったんですか……」

 国王と俺は次の王位に相応しい者の話を続けている。
 そして次に名前が挙がったのは、国王の一人息子であり、現ルクガイア王国王子であるロギウス。
 ……本来ならば、ガルペラより先に名前が挙がるはずじゃないか?

「むう……。貴殿も息子ロギウスがどういう人間かは知っておるな?」
「ええ。黒い一面もありますが、清濁織り交ぜた頭の良さを持っています。そういう人間の方がトップには相応しいかと――」
「そこは余も理解しておる。だが、問題は息子の"女性の好み"についてだ」
「あ……」

 国王にロギウスの"女性の好み"と言われて、俺はなんとなく察しがついた。
 国王もそんな俺の態度を見て説明を続けてくれる。



「息子ロギウスは『王位を継ぐなら結婚相手を見つけてから』と言って、強情に王位を拒んでくるのだ……」
「あいつ、『政略結婚とかじゃなくて純愛がしたい』とか俺にも言ってましたからね。共に歩む伴侶は自らの意志で決めたいのでしょう」
「その気持ちは余にも分かる。そして、最大の問題となってくるのは息子の好みの話だ……」

 ロギウスが理想の結婚相手を見つければ、王位も継承してくれるのだろう。
 だがそこで問題になるのはあいつの女性の好み――

 俺もダウンビーズで一緒に飲んだ時に、酔ったロギウスからいくらか話は聞いたが、あいつがこだわる最大の条件。
 それは――



「胸……ですか」
「そう……胸だ」

 俺と国王は同じ結論にたどり着いた。
 ロギウスはとにかく胸の大きさにこだわっている。
 他にも理想の条件はあるが、胸の大きい相手こそがロギウスの理想らしい。

 俺、なんで国王と二人で女性の胸の話なんてしてるんだ……?

「なぜ息子ロギウスはあんな風に育ってしまったのだ……。いや、育てたのは余なのだが……」
「国王陛下……あまり自分を卑下しないでください……」

 落ち込む国王の姿を見ると、俺の胃が痛くなってくる。
 成程。ジフウも胃薬が手放せないわけだ。

「まあ、ロギウスに王位を継がせる件については先送りにしよう。余とて、息子の結婚相手については本人の意思を尊重したい」

 国王は俺の様子に気を遣ったのか、なんとか気持ちと話を切り替えた。
 今度少しは親孝行しろよ。あのオッパイ大好き王子め……。



「ならばそうだな……。次の王位は【虎殺しの暴虎】サイバラか、【龍殺しの狂龍】ジフウか――」
「いや! あの二人はありえませんよね!?」

 国王が突如、素っ頓狂な発言をする。

 サイバラはかつてこそ下克上を狙っていた人間だが、今はもうそんなことは考えてすらいない。
 そもそもあいつが王になったら、それこそまごうことなき"裸の王様"だ。

 ジフウに王位を継がせるというのもあり得ない。
 元々根っからの戦闘狂としての本能を抑え込んでいるあいつに王なんてやらせたら、それこそ胃が破裂するだろう。

「ギャングレオ盗賊団頭領のシシバや、元勇者パーティーのラルフルでも良いかもしれぬな」
「あの……真面目に考えてますか?」
「なんなら貴殿が王をしてみるか? ファファファ!」
「勘弁願いたいですね……」

 国王は完全に冗談で俺にまで王位の話を振ってくる。
 これまでの重責が終わったこともあるのだろう。
 冗談を言えるぐらいには元気なようだ。

 冗談にしても笑えないが……。





「……さて、王位の話はこの辺りにしておいて、今は余が最も危惧している話を聞いてもらいたい」

 そんな冗談を交わしていた国王だったが、その表情は突如として真剣なものへと変わる。

「危惧していること……<ナイトメアハザード>についてですか?」
「それも確かに危惧すべきことだ。だが、その件については今勇者レイキース達が動いている。魔王城を根源とした問題である以上、今はまだ勇者に任せておくべきだろう」

 俺は<ナイトメアハザード>のことを危惧しているのかと思ったが、どうやら国王の悩みは別にあるらしい。
 レイキースは気に食わない奴だが、勇者である以上は<ナイトメアハザード>への対処は任せるしかないだろう。

「改革が成立したことで、これまで繁栄を続けていた貴族の権威は失墜した。ゼロラ殿を含む改革派の尽力もあり、この事態を素直に受け止めてくれる貴族も多いが、従わない貴族もいる――」
「バクト以外の"三公爵"――ボーネス公爵とレーコ公爵ですか……」

 国王も言う通り、これまで権力を牛耳ってきた者の中にはまだ改革を受け入れない者がいる。
 それがボーネス公爵とレーコ公爵――
 二人は王都を離れて自らの拠点に閉じこもり、今だ反旗を翻す機会を伺っているようだが――

「あの二人が折れるのも、時間の問題では?」
「確かにこのままいけばボーネス公爵もレーコ公爵も、いずれは改革の意志に従うこととなるだろう。……だが、余が真に危惧しているのはあの二人自身の動きではない――」

 国王は重い口調でその胸中を語った――



「元ルクガイア王国騎士団二番隊隊長……ドクター・フロストの動きだ」
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