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第23章 追憶の番人『ドク』

第321話 改革の道

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 改革派と王国騎士団の全面衝突。
 俺とジフウの決戦による、王国側総大将、ジフウの敗北。
 そして定められたルクガイア王国の大改革への道のり――

 あれから一週間程が経ち、王国内は少しずつ変化を受け入れ始めていた。
 王都への人の出入りも増え、これまで"壁周り"で満足に生活できていなかった人々にも支援の手が行き届き始めた。
 "貴族制度の撤廃"はまだ完全にはできていない。
 それでも少しずつだがガルペラやロギウスの手により、国民に無理のない形で身分制度自体の見直しは進んでいる。
 いずれは一度貴族社会という身分制度を撤廃させたうえで、新しく人材を据えることができるようにしていくそうだ。



「待たせてすまなかったな。ゼロラ殿」

 ――そんなことを考えている俺は今、王宮にある国王の私室に一人で来ている。
 そして今しがた、国王ルクベール三世本人が部屋に入ってきた。

「どうも、国王陛下」

 俺は俺なりに礼儀を尽くす形で国王に頭を下げて挨拶するが――

「余にかしこまる必要はない。貴殿とはもう一度同じ席で話をしたかったのだ」

 ――国王は遠慮しないでいいと言ってくれた。
 それでも国王と二人きりだと、緊張するものだ。

 自ら腐敗した貴族のトップに立ち、改革派最大の敵を演じてきた国王。
 あの戦いの後、国王が玉座から降りることを求める民意もあったが、ガルペラやロギウスといった現在改革を主導する者の手により、「今はまだ国王の力が必要だ」という訴えもあってか、現在もルクガイア王国のトップは変わらない。
 国王自身もその思いに報いるため、内政でできる限りのことに手を回しているようだ。
 そんな忙しい国王だが、その表情は晴れ晴れとしている。

「それにしても……いいんですか? 俺のようなチンピラを王宮の、それも私室にまで入れて――」
「ファファファ! 気にするでない! 見た目云々の話なら、ジフウにだって言えたことよ」

 憑き物が落ちた国王は、笑いながら俺の言葉に応じてくれた。
 まあ、確かに側近としてジフウのような男を従えていたのなら、俺がここにいるのも些細な問題かもしれない。

 ……なんとなくジフウに申し訳ない気もするが。

「それに、貴殿の方こそ余に身構える必要はあるまい。貴殿はこのルクガイア王国の英雄と言っても過言ではないのだぞ?」
「いえ、それについては俺の身に余りますので……」

 今回の改革で、表立って功労者として名前が挙がっているのはガルペラとロギウスの二人だ。
 二人は今後、内政に大きく関わってくる人物のため、かなり大々的に名前を挙げられている。
 バクトを始めとするギャングレオ盗賊団は名前こそ挙がっていないが、今後の国の発展のために、これまで培ってきた様々な分野で王国公認の元、労働力として貢献しているようだ。
 他の面々も大体同じような感じになっている。

 俺の方にもいろいろ役職を勧められたりはしたのだが――

「俺には記憶がありません。俺のような輩が表立つのは良くないでしょう」
「ふむ……。話には聞いていたが、記憶は失ったままという訳か……」

 ――そう。俺の記憶はまだ戻っていない。
 『そうかもしれない』というレベルで思い当たる節はあるのだが、まだ確証には至っていない。
 改革による動きが落ち着いてきたので、そろそろ俺自身の過去について調べようとは思っている。

 ただ、その方法は難しい……。
 "あの場所"に行くことさえできれば全て分かるはずなのだが、たどり着く方法が思いつかない。
 今はこうして国王との話を優先させているが、いずれは考えないとな……。



「ところでゼロラ殿。この改革の一つの目安となる、"貴族制度の撤廃"が実現次第、余は王位を降りようと思っている」
「王位を……!? しかし、ガルペラやロギウスはあなたが王位にあり続けることを――」
「それはまだ改革の影響でこの国の地盤が固まっていないからにすぎぬ。地盤さえ固まれば、余はいつでも別の相応しい者に王位を譲る所存だ」

 確かにこれまでの古い時代の象徴とも言える国王が王位に居続けるのは、国の発展の妨げになるかもしれない。
 それならばいっそ別の人間が国のトップに立った方がいいかもしれないが――

「一体誰に王位を譲るのが相応しいとお考えなのですか?」
「そうだな……やはり、改革派のリーダーであった、ガルペラ侯爵か……」

 国王がまず次の王に相応しい者として名前を挙げたのはガルペラだった。
 確かにガルペラは今回の改革における先導者だ。
 経済発展という内政の手腕に関しても目を見張るものがある。



 だが、ガルペラは――

「いくら何でも、ガルペラが王をやるには威厳がなさすぎませんか?」
「うむ……問題はそこだ。あの者はあまりにも若すぎる」

 若すぎるどころか、内政手腕を除けば完全にお子様だからな。ガルペラは……。

「貴殿は知らぬかもしれぬが、ガルペラ侯爵の父――先代ガルペラ侯爵は誠に優秀な人物であった」
「その辺りの話は俺も少し聞いてます」

 確かまだ尊命で、改革を焦ったあまりに国外追放されて、そのついでで女房の母国の立て直しを手伝ってたんだっけ。

「現ガルペラ侯爵は先代である父の意志を継ぎ、その手腕は今やその父さえも超える程だ。あの者にならば、東の黒陽帝国と言った諸外国との交渉も任せられるのだが……」

 国王のガルペラに対する評価はかなり高いようだ。
 黒陽帝国か……。
 話には何度か聞いたことがあるが、今後は諸外国との交流も増えてくるだろう。
 そこでもガルペラの手腕は活かされるのか……。

「それだったら、ガルペラの父親を呼び戻して王位につければいいんじゃないですか?」
「いや、それは無理な話であろう。先代ガルペラ侯爵も今の立場でルクガイア王国の王になるなど、土台無理な話だ」

 国王の言い方からして、ガルペラの父親は今現在も他国で重要なポジションについているのか。
 さすがはあのガルペラの父親だ。国は変われど、女房の母国の立て直しを頑張っているらしい。











「先代ガルペラ侯爵は"現黒陽帝国皇帝"だぞ? それほどの人物に、ルクガイア王国のために戻ってきてもらうなど――」
「すいません。ちょっと何を言ってるか分からないです」

 国王の口から、サラっととんでもない話が飛んできた。
 ガルペラの家庭事情は逐一聞いてると面倒くさそうだったから聞かなかったが――



 ――え? あいつの父親って、今は他国の皇帝をしてるのか?



「おや? ゼロラ殿は聞いていなかったのか?」
「はい……。聞いてませんでした……」

 『寝耳に水』とはこのことだな。

 国王からかいつまんだ話を聞いたが、ガルペラの母親は黒陽帝国の出身でかなり高位な身分だったらしい。
 父親はルクガイア王国内で無理に改革を推し進めようとしたあまり、他の貴族に疎まれて国外追放。
 その流れでついでという形で、当時不安定だった黒陽帝国の現状改善に乗り出す。
 結果として上手くいき、その功績もあってか父親は今、黒陽帝国の皇帝になっているそうな――



 ――想像の斜め上を行っていた、ガルペラの家庭事情であった。

「ガルペラ……。そういうことは事前に言ってほしかったぜ……」
「ま、まあ、ガルペラ侯爵も言い出しづらかったのだろう。……あの者の場合、"単に言うのを忘れてた"だけかもしれないが……」

 国王もガルペラがどういう人間かはおおよそ見当がついているらしい。
 本当に変な所で抜けてるよな。あのお子様侯爵……。
 聞かなかった俺も悪いけど……。
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