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第6章 少年少女の思いの先

第74話 デン・コウ・ドク・サイ

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 ラルフルが清白蓮華を手に入れた場所。
 そこに四人の男の影が揃っていた。

「な~んでわざわざ俺自ら出向いてお前の顔を拝まなきゃいけねーのかな~? バクト公爵様よ~?」
「俺だって貴様の顔など見たくもない。問題だらけの"元二番隊隊長"が。そもそも事の発端はイトーのせいだ」
「俺に責任擦り付けないでくれよ……。こっちも事情があったんだ。"デン"は分かってくれるか?」
「まずは"サイ"の話を聞こうじゃないか。それと"ドク"も"コウ"も、ここではあらかじめ決めておいたコードネームで呼び合ってくれ。どこに耳があるか分からないからね」

 ここに集まった四人は"同じ目的"を持っている。だが決してその関係を表に出さずにこうして四人集まることも稀だ。集まったとしてもお互いの関係を誰かに知られないようにコードネームで呼び合っている。

「仕方ねえだろ。うっかりこの場所のことを漏らしちまったのは悪かったが、そうでもしねえとラルフルの坊主が早まりかねなかったんだからよ」

 四人の一人、コードネーム"サイ"。表の姿は王国内の宿場村でギルドマスターをしているゼロラの友人、イトーだ。

「ラルフルが~? ……それだったら俺は納得するしかねーけどよ~」

 四人の一人、コードネーム"ドク"。機械仕掛けのモノクルのようなものを右目に着けた元ルクガイア王国騎士団二番隊隊長だ。

「貴様はあの小僧にはつくづく甘いな。俺にまで頭を下げに来たこともあったな」

 四人の一人、コードネーム"コウ"。ルクガイア王国の貴族で"三公爵"の一人、バクト公爵だ。

「今その話は置いておこう。僕としては"追憶の領域"に何者かが足を踏み入れていないかを確認したい」

 四人の一人、コードネーム"デン"。国王・ルクベール三世にも情報提供しているという青年剣士だ。

「それだったら問題ねーよ。俺が設置した壁への擬態機能に防御壁が三重、さらにバリアシステムも常時展開して監視装置も取り付けてある」
「貴様の物言いは分かりづらい。分かるように話せ」
「時代遅れの貴族様の頭には困ったもんだね~。防御魔法がかかった王都の城壁が十枚分に監視魔法が常に発動してるって言えばわかるか?」
「でたらめに厳重だな……」

 四人の目的は『"追憶の領域"に誰も入れない』こと。そのためのシステムは"ドク"が作ったようだ。

「貴様の"科学力"とやらがどこまであてになるか分からんがな」
「な~に~? だったらお前のお抱えの"盗賊団"にでも警備させればいいじゃねーか?」
「二人とも会うたびに喧嘩するのはよしたまえ。それに我々四人以外の人間にこの場所を教えるわけにはいかない。今は"ドク"の力が頼りだ」

 "コウ"と"ドク"の口喧嘩を"デン"が仲裁する。

「ラルフルも本当の"追憶の領域"までは足を踏み入れてないんだろ? 他に侵入者もいないみたいだし、俺は帰ってもいいか?」
「同感~。俺もそれ以外のことには興味ねーし」
「貴様は永久に引きこもってろ。王国一級の危険人物が」
「だ~からさ~? なーんでお前は棘のある言い方しかしねーかな~?」

 "コウ"と"ドク"が再び口喧嘩を始める。"デン"も"サイ"も「もう慣れた」といった表情で止めるのを諦める。

「危険人物って意味ではお前も人のこと言えねーだろが? 国家転覆を狙ってるって話もきくぜ~?」
「俺の計画を貴様の破壊活動と一緒にするな。マッドサイエンティストが」
「僕は詳しく聞いておきたいかな? こっちにも計画はあるし」
「もう好きにやってくれ。俺には個人として成し遂げたい目的はもうないからな」

 四人のうち、"サイ"を除く三人には"共通の目的"の他に"個人の目的"が存在する。
 だが四人はそれぞれの計画に加担しあうことはしない。"共通の目的"以外ではたとえ敵同士になろうが協力するかしないかは別問題だ。

「だが、俺から一つ言っておくぜ。【零の修羅】、ゼロラ。あの男は近々この国を揺るがす存在になる。勘だがな」
「"サイ"の勘ならば、僕は信頼してみたいです」
「ちぇ~。"サイ"がそういうこと言うとなーんか嫌な予感がするな~」
「貴様と同じなのは不服だが、俺も同意見だ」

 "サイ"……ゼロラの友人であるイトーの勘。他三人は何かを察したように否定はしなかった。

「ならもう一つ予想してやろうか? 俺以外の三人もいずれゼロラに出会うことになる。その結果、ゼロラにとっての敵になるか味方になるかは分からないがな」
「……彼の噂は聞いている。僕としては敵には回したくないな」
「俺は敵でもいーな~。そのゼロラってやつに俺の最新兵器を試せるしよ~」
「なぜ貴様は乱雑な考えしかしない? 俺は貴様と敵であるならばどっちでもいい」

 "コウ"の発言によって本日何回目か分からない"ドク"との口喧嘩が勃発する。"デン"と"サイ"は完全に知らん顔だ。

「とにかくこの先どう事態が動こうと、"追憶の領域"への侵入者だけは絶対に許さない。すべては……"あのお方"の意思を守るためだ」
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