舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第17章

第162話 二言

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 山を上る。具体的には階段を上っている。山の斜面を直接上るのは困難のため、大抵の山には人工的な処置が成されている。

 ルゥラの体調は割と良さそうだった。何しろ運動ができるのだ。体調が悪いと運動をする気力さえ湧かない。運動することで体調が良くなることもあるが、運動しようという意志が少しでもなければ、人は運動をしない。ただし、瞬きも運動に含まれる。

 ルゥラがぴょんぴょんと階段を上っていく。月夜はそれについていった。別段苦しくはないが、普段と異なる動きをすると息が切れる。しかし、苦しいのは最初の数分だけで、階段の半ばに差しかかった頃には安定していた。

 フィルは階段を上らない。彼は手摺りの上を歩く。そちらの方が負荷が小さいということだろうか。

「元気そうで何よりだ」フィルが呟く。

「ルゥラが?」月夜は尋ねた。

「もちろん」

「心配していたの?」

「心配はしていない」フィルは即答する。「現状を分析した結果を述べただけだ。ちょうど月夜みたいにな」

 月夜にはあまり意味が分からなかった。

 ピクニックすると言っても、あまり遠くに行くわけにはいかないので、近所の山を散歩することになった。今日は空も晴れている。よく晴れてはいないが、季節に相応な天気といった感じだった。

 階段を上りきると左右に道が分かれている。右に進むと地方に向かい、左に進むと都市に向かう。もちろん、どちらも最終地点まで辿り着いた場合の話だ。途中で引き返すならどちらも山道に変わりない。

「ねえ、月夜。どっちがいいかな?」階段を上りきったのに、まだぴょんぴょんしながらルゥラが尋ねてきた。

「どちらでも」月夜は決まり切った答えを返す。

 ルゥラは手頃な枝を拾ってきて、それを道の中央に立てた。当然、安定して立ち続けることはなく、枝は地面に向かってふらふらと倒れる。完全に倒れ切って静止したとき、枝の先は右の方を向いていた。

「じゃあ、右ね」ルゥラが言った。「異論は?」

「ない」月夜は答える。

 土の地面に巨木の根が剥き出しになっている。小夜が住んでいる山にも同様の傾向が見られる。どうしてこのような状態になるのか、月夜は知らない。今度調べてみようと思った。思うだけでは忘れてしまう可能性が高いが。

「この先には何があるの?」途中で振り返ってルゥラが質問する。

「最後まで行けば、お寺が沢山ある」月夜は歩きながら答えた。「でも、そこまで行って帰ってくるのは大変」

「行こうよ」

「もう少し計画を立てた方がいい」

「大丈夫だよ、きっと」

「大丈夫ではない」

「大丈夫だって!」
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