111 / 255
第11章
第110話 学内散歩
しおりを挟む
放課後の図書館はいつも静かだ。たぶん、校舎の内でも外でも部活動が始まるから、それに伴って静かに感じられるのだろう。教室はそうでもない。授業が終わってもすぐには家に帰らない生徒がいるからだ。
月夜にとって、本を読むのは生活の一部といって良かった。しかし、彼女自身はそのようには認識していなかった。そうした根底にある部分は、自分ではなかなか気がつくことができない。気がつくには、他者から評価してもらい、それを自分で言語化して内側に留める、といったプロセスを踏むしかない。
生理学の本を借りることにした。本当にタイトルには「生理学」と書かれているだけで、どういう意味での生理学なのか分からなかったが、出版されたのは大分昔で、開いてみると入門書であることが分かった。シンプルなタイトルが付いているものは、入門書の類であることが多い。周辺に行けば行くほど複雑なタイトルになっていく。
コーヒーを飲みたいと思った。
けれど、すぐにやめようと思った。
やめようと思ったのはどちらだろう。
コーヒーを飲みたいと思うことだろうか。
それとも、実際にコーヒーを飲むことだろうか。
図書室の外に出たところで、フィルが大人しく座って待っていた。月夜は彼の飼い主のつもりはないので、リードに繋いであるということはない。
「また来たの?」
「ああ、そうさ」フィルは答える。「月夜に会いたくて仕方がなかったんだ」
教室に戻るにはまだ早かったので、二人は学校の中を散歩することにした。以前にもそんなことをしたことがあった。特に何の発見もなかったというのがそのときの感想だ。何かないかなと思うほど、何もなかったときの残念さは大きくなる。要するに、ギャップが生じるということだろう。熱の移動も空気の移動もプラスからマイナスの方向に生じる。どちらがプラスでどちらがマイナスというのを決めたのは、ほかならぬ人間であることに間違いはないが。
保健室の前。
様々なポスターが貼られている。
電子機器の使用による目の乾きに関すること。
薬の服用に関すること。
妊娠に関すること。
すべて、人間が動物であることに起因することだ。
「お前は少し違うんじゃないか?」
フィルの発言は嫌みとも冗談とも皮肉ともジョークとも受け取れるが、月夜には彼の言葉が嬉しく感じられた。
少し笑ってみる。
動物は笑うのだろうか?
月夜にとって、本を読むのは生活の一部といって良かった。しかし、彼女自身はそのようには認識していなかった。そうした根底にある部分は、自分ではなかなか気がつくことができない。気がつくには、他者から評価してもらい、それを自分で言語化して内側に留める、といったプロセスを踏むしかない。
生理学の本を借りることにした。本当にタイトルには「生理学」と書かれているだけで、どういう意味での生理学なのか分からなかったが、出版されたのは大分昔で、開いてみると入門書であることが分かった。シンプルなタイトルが付いているものは、入門書の類であることが多い。周辺に行けば行くほど複雑なタイトルになっていく。
コーヒーを飲みたいと思った。
けれど、すぐにやめようと思った。
やめようと思ったのはどちらだろう。
コーヒーを飲みたいと思うことだろうか。
それとも、実際にコーヒーを飲むことだろうか。
図書室の外に出たところで、フィルが大人しく座って待っていた。月夜は彼の飼い主のつもりはないので、リードに繋いであるということはない。
「また来たの?」
「ああ、そうさ」フィルは答える。「月夜に会いたくて仕方がなかったんだ」
教室に戻るにはまだ早かったので、二人は学校の中を散歩することにした。以前にもそんなことをしたことがあった。特に何の発見もなかったというのがそのときの感想だ。何かないかなと思うほど、何もなかったときの残念さは大きくなる。要するに、ギャップが生じるということだろう。熱の移動も空気の移動もプラスからマイナスの方向に生じる。どちらがプラスでどちらがマイナスというのを決めたのは、ほかならぬ人間であることに間違いはないが。
保健室の前。
様々なポスターが貼られている。
電子機器の使用による目の乾きに関すること。
薬の服用に関すること。
妊娠に関すること。
すべて、人間が動物であることに起因することだ。
「お前は少し違うんじゃないか?」
フィルの発言は嫌みとも冗談とも皮肉ともジョークとも受け取れるが、月夜には彼の言葉が嬉しく感じられた。
少し笑ってみる。
動物は笑うのだろうか?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる