舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第11章

第110話 学内散歩

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 放課後の図書館はいつも静かだ。たぶん、校舎の内でも外でも部活動が始まるから、それに伴って静かに感じられるのだろう。教室はそうでもない。授業が終わってもすぐには家に帰らない生徒がいるからだ。

 月夜にとって、本を読むのは生活の一部といって良かった。しかし、彼女自身はそのようには認識していなかった。そうした根底にある部分は、自分ではなかなか気がつくことができない。気がつくには、他者から評価してもらい、それを自分で言語化して内側に留める、といったプロセスを踏むしかない。

 生理学の本を借りることにした。本当にタイトルには「生理学」と書かれているだけで、どういう意味での生理学なのか分からなかったが、出版されたのは大分昔で、開いてみると入門書であることが分かった。シンプルなタイトルが付いているものは、入門書の類であることが多い。周辺に行けば行くほど複雑なタイトルになっていく。

 コーヒーを飲みたいと思った。

 けれど、すぐにやめようと思った。

 やめようと思ったのはどちらだろう。

 コーヒーを飲みたいと思うことだろうか。

 それとも、実際にコーヒーを飲むことだろうか。

 図書室の外に出たところで、フィルが大人しく座って待っていた。月夜は彼の飼い主のつもりはないので、リードに繋いであるということはない。

「また来たの?」

「ああ、そうさ」フィルは答える。「月夜に会いたくて仕方がなかったんだ」

 教室に戻るにはまだ早かったので、二人は学校の中を散歩することにした。以前にもそんなことをしたことがあった。特に何の発見もなかったというのがそのときの感想だ。何かないかなと思うほど、何もなかったときの残念さは大きくなる。要するに、ギャップが生じるということだろう。熱の移動も空気の移動もプラスからマイナスの方向に生じる。どちらがプラスでどちらがマイナスというのを決めたのは、ほかならぬ人間であることに間違いはないが。

 保健室の前。

 様々なポスターが貼られている。

 電子機器の使用による目の乾きに関すること。

 薬の服用に関すること。

 妊娠に関すること。

 すべて、人間が動物であることに起因することだ。

「お前は少し違うんじゃないか?」

 フィルの発言は嫌みとも冗談とも皮肉ともジョークとも受け取れるが、月夜には彼の言葉が嬉しく感じられた。

 少し笑ってみる。

 動物は笑うのだろうか?
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